水道橋は飯田橋より芳し。


 今日は出張で都内へ。携帯本は北村薫「自分だけの一冊」(新潮新書)。なんとも暖かい春めく日差しが電車の窓から差し込んでくる。気分よくほんわか本を読むことができるのだが、しばらく行くと地下に入ってしまうのが少し残念。「自分だけの一冊」は北村さんが行ったカルチャースクールにおける「アンソロジー教室」の記録。北村さんが小学生のときすでにノートに好きな作品を書き写し、オリジナルのアンソロジーを作っていたというのは「栴檀は双葉より芳し」としか言いようがない。


 出張先では芳しくない話。ようするにこのままでは君たちの退職金がなくなってしまうからゴニョゴニョゴニョということだ。はあ。


 出張終了とともに本日の業務終了。早速、近くの神保町へ。久しぶりにさぼうる2のナポリタンで遅い昼食。


 東京堂の3階に行くも畠中さんの姿は見えず。もうすぐふくろう店に移るということでその話でもと思ったが残念。今日のお目当てである本を2冊購入。

TRA(トラ)

TRA(トラ)

ささやかな証言―忘れえぬ作家たち

ささやかな証言―忘れえぬ作家たち

 本店を出てふくろう店へ。ガラス越しに棚の入れ替え作業をしている畠中さんを発見。すこしおしゃべり。いろいろと大変そうである。


 田村書店の店頭均一台(タテキンですね)をのぞいていると山田稔の見たことのない単行本を手に持っている男性の後ろ姿が、「おっ、いい本見つけているなあ」と思ったら荻原魚雷さんであった。納得。


 日本特価書籍で仕事関係の新書を買ってから、ウエッジ文庫の新刊を買い忘れたことを思い出す。東京堂にあわてて戻る。

天馬の脚 (ウェッジ文庫)

天馬の脚 (ウェッジ文庫)

 エッセイ、文芸時評、映画時評、俳句、書評、日録などが詰まったバラエティブック。ウエッジ文庫、いいねッ。


 今日購入予定の本も買えたので、もう一つの目的のある水道橋へ歩いていく。食堂アンチへブリンガンでカレーを食べるつもりなのだ。以前に「はじめての神保町」という本で畠中さんがアンケートでここのカレーが好きだと答えていたのを読んで一度食べてみたいと思っていたのだ。店の前まで来てみると夜の営業は18時からとある。まだ20分ほど早いようだ。


 時間つぶしに行ったことのない飯田橋ブックオフに行ってみようとJRの線路に寄り添いながら歩いていく。この周辺を歩くのはいつ以来であろう。ずいぶんと整備されて見たことのない新しい建物ができており、そこから仕事を終えた人々が吐き出されてくる。夕闇が徐々に下りてくる中を駅に向かう人々に混じって歩いていると、場所も時代も人々も違っているのだけれど、なんだか自分が小津映画の中にいるような気分になる。自分も給料をもらっている勤め人なのだが、一度もこんな風に都会のオフィス街で働き、夕方多くの同僚たちと駅に向かって歩いていくというような生活をしたことがないからだろうか。こんな風景がどこか現実から数センチ浮いた映画の中のシーンに思えてしまう。


 飯田橋駅まで来て、線路を潜り、ブックオフへ。この店の評判はいろいろと聞いていたが、確かに欲しいと思う本が見つからない。ブックオフに入って手ぶらで出てくることは滅多にないのだが、今日は全く触手が動かず。


 諦めて手ぶらで水道橋に戻る。アンチへブリンガンには灯が入っていた。それだけでうれしくなる。カウンターに座り、豆と野菜のカレーに辛口のジンジャーエールを頼んで、「自分だけの一冊」の続きを読もうとしていると、ドアが開いて西秋さんが入ってくる。話を聞くと今夜ここでふくろう店に移る畠中さんを励ます飲み会があるということで「一緒にどうですか?」と誘っていただく。喜んでテーブルを移る。まずは頼んだカレーを食べると、辛さもちょうど良く、野菜の旨味とスパイスがうまく混じり合ったおいしい一品だった。


 海ねこさん、NEGIさん、畠中さん、コウノちゃん、それに木村衣有子さんも加わる。料理もおいしく、話も楽しく、芳しさも、芳しくなさもすべて飲み込んでひとときを過ごす。


 10時半においとまする。家に戻るとポストに龜鳴屋から金子彰子詩集「二月十四日」が届いていた。のり付けされた外皮のハートマークをはがすとその下からまたハート。いい本だな。


【お詫び】この日の日記で「海ねこ」さんとお書きすべきところを間違って、「旅猫」さんと書いてしまいました。お二人と知り合ってすぐならともかく、いまだにこんな間違いをするとは情けないと反省し、訂正させていただきました。