ふらり、観光地。

2024.3.28.(木)

 

 

 ゆっくりと目覚める。久しぶりによく寝られた。

 

 シャワーを浴びて、着替え、朝食をとりにホテルを出る。四条烏丸近辺に泊まった時には毎回前田珈琲本店でモーニングを頼むことにしている。今回も同じ。職場に向かう人々の流れに混じってのんびり店まで歩くのは京都に泊まった朝の喜びとなっている。

 

 朝食を終えてホテルに戻り、支度を整えてチェックアウト。昨日の買い物ですでにボストンバッグは肩に食い込む重さとなっている。まずはこちらをロッカーに預けないことには動き回れない。京都駅のロッカーはまだ午前中ということもあり、すんなりと空きが見つけられた。

 

 身軽になって地下鉄に乗る。昨日、たまたまネットで善行堂の話題を見ていた時に、今日まで村田画廊で林哲夫さんの2人展をやっていることを知った。この偶然を逃してはならじと松ヶ崎駅で下車して画廊へ。住宅街の中にある落ち着いた雰囲気の画廊。ご夫婦でやっていらっしゃるようで、気軽に声を掛けてくれる。書いた住所が横浜だったので驚いたようだった。お茶とお菓子が出てきて驚く。アットホームな場所で好きな画家の絵を見て心安らぐ。その中でパリの書店を描いた水彩画がこんなに安く買っては申し訳ないという値段で出ていたので迷わず購入する。すでに林さんの油彩のパリの書店の絵を持っているため、同じシリーズが増えて嬉しい。そういえば善行堂にも林さんが描いた小津安二郎のポートレイトが置いてあったことを思い出す。あれもいい味わいの絵だったなあ。善行堂でも林さんの絵は買えるのだった(以前にリクエストして坂口安吾のポートレイトを善行堂経由で購入したことがある)。最終日ということで林さんと会えるかなと思っていたが、午後から来るとのことなので、よろしくお伝えくださいと伝言を頼んで画廊を後にする。

 

 

 天気予報アプリは午後3時過ぎから雨と告げているので、先を急ぐ。地下鉄丸太町駅で下車し、京都御所の横を歩いて鴨川近くにある誠光社へ。すでに数人のお客さんがいた。この書店も来るたびに必ず客の姿がある人気店だ。店頭の面陳棚に橋本倫史さんの新刊が置いてあった。地元でも買えるがこの本は観光地・京都で買うべきだろう。

 

-橋本倫史「観光地ぶらり」(太田出版

観光地ぶらり

 

 橋本さんの本は著者自身が撮った写真がカバーに使われることが多く、この本も同じ。そしてそれらが皆いい写真なのだ。橋本作品では個人的に「東京の古本屋」(本の雑誌社)が好きで、自分で読むだけでは飽き足らず、神保町のPassageで借りている貸し棚でもこれまで4冊売っており、今5冊目が並んでいる状態だ。

東京の古本屋

 

 

 会計をしにレジに行くとレジ前でオリジナルブレンドのコーヒー豆が売っており、六曜社由来の豆であると書かれていたので一緒に買う。家で飲むのが楽しみだ。

 

 

 時間は正午を過ぎ、昼食をとるために京都市役所方面へ歩いて移動。京都という街が好きなのは、大通りと大通りを繋ぐ小さな通りを歩いていても、不意に小さな書店や古書店と出会うところ。東京の都心ではこうはいかない。いつの間にか寺町通に出ていたらしく、不意に目の前に三月書房の姿が見えて思わず「あっ」と声が出た。三月書房が週休7日となってからどれくらい経ったのだっけ。戸が閉まっているだけで、店も看板も以前のままだ。今でも京都に行くことを考える時にスケジュールに三月書房を入れそうになってしまう。それくらいこの店に行けなくなったことは大きな損失なのだ。編集工房ノアの PR誌『海鳴り』をもらうのはこの店で編集工房ノアの本を買う時と決めていた。今は善行堂が自分にとっての『海鳴り』の窓口となっている。

 

 

 三月書房前を通り、スマート珈琲店へ。ここでスマートランチでもと思ったが、案の定店前に列ができている。諦めて新京極通へ移動し、スタンドへ行ってみる。カウンターの端の席に空きがあったので滑り込む。正午過ぎだというのに樽酒やサワーが飛び交う店内でスタンドランチを頼む。ここは観光客よりも地元民の割合が高いと感じさせてくれる店。会話の多くが地元の言葉であるのがそれを教えてくれる。隣のおじさんが50年ぶりに食べるというハムカツを「うまい。うまい。」と繰り返す。小学生の時にハムカツを食べている友達から端っこを分けてもらて以来のハムカツらしい。確かにハムカツはそんなに頻繁に食べるものではないが、50年間まったく出会わないというほどレアな食べ物だとも思われない。日本に住んでいて50年ハムカツと出会わない人生というのがなんだか不思議な気がしてしまう。

 

 関東も夕方から雨の予報が出ており、本を抱えて雨に降られるのは避けたいので、3時の新幹線で帰ることにする。四条烏丸進々堂で食後のコーヒーを飲んで時間調整をして、京都駅へ。

 

 

 この頃からくしゃみと鼻水が止まらなくなる。花粉症の薬は飲んでいるのだが、この2日野外で花粉を浴び続けた影響が出たらしい。新幹線では読書を諦めて目をつぶり、身を背もたれに預けてイヤフォンでラジオのタイムフリー録音を聴きながら帰る。

 

 定年退職したら、京都で1年、ロンドンで1年暮らしてみたいとよく冗談めかして言っている。しかし、暮らしてしまったら現在の京都が持っている非日常感は失われてしまうだろう。昼の本屋巡りも夜の京都散歩も僕にとっては日常を忘れさせてくれるこれ以上ないアイテムであり、この2日のために1年ストレスにまみれて働いているようなものだ。それを考えると京都はふらりと行く観光地のままにしておくのがいいのかもしれない。

 

 なんとか雨が降る前に家へたどり着いた。