Japaneseman in 京都。

2024年3月27日(水)

 

 今日と明日の2日間休みをとって京都へ行く。

 

 午前9時の新幹線に乗る。窓際の席を選んだが、隣は空席だったので気兼ねなくトイレにも立てるので快適。

 

 車内の読書用に持ってきたのは森見登美彦シャーロック・ホームズの凱旋」(中央公論新社)。舞台がヴィクトリア朝京都という設定となれば、今日の読書に丁度いい。ホームズ、ワトソン、モリアーティ、レストレード警部となじみの名前が何故か京都の地名の中で生き、行動している不思議。ホームズの下宿は寺町通221Bにある。

 

 

 昼前に京都駅着。買った本を持ち帰る用の大きなボストンバックを駅のロッカーに預ける。インバウンドで溢れる駅のロッカーは使用済みの赤いライトで覆われており、諦めかけた時に一番下の小さなサイズがひとつだけ緑に光っているのを見つける。滑り込みセーフ。

 

 電車を乗り継いで、一乗寺駅へ。目指すは恵文社一乗寺店。だが、その前に腹ごしらえと恵文社の並びの食事処へ入る。海鮮料理が売りの店のようだが、魚より肉派のこちらとしてはランチメニューから豚カツ定食を選ぶ。運ばれてきた豚カツの横には煮魚ののった小皿が添えてあった。そこまで魚推しの店なのだなと驚く。

 隣の席ではお婆さん2人が、京都の池から連れさられた鴨の話題を繰り返ししている。「誰が何のために連れてったのかな」「かわいそうやね」というリフレーンを聴きながらスランプに悩む京都のホームズの出番なのではと思う。

 

 

 腹を整えてから、恵文社へ。平日の昼間だというのに店内は10人近い客で賑わっていた。自分と変わらない年代の男性も数人いたが、お客さんがみんなオシャレな服装なのにちょっとたじろぐ。店の内装や本の展示を眺めながら、ここはモノとしての本の魅力を来る者に感じさせてくれる場所だなと改めて思う。だからこそ、オシャレ空間が得意ではない自分が京都に来るたびに足を運んでしまうのだろう。

 

 

   -櫻庭由紀子「落語速記はいかに文学を変えたか」(淡交社

   -毛塚了一郎「音盤紀行 ①②」(KADOKAWA

   -木村衣有子「私的コーヒーAto Z」(はるあきクラブ)

落語速記はいかに文学を変えたか

音盤紀行 1 (青騎士コミックス)

音盤紀行 2 (青騎士コミックス)

 

 

 

 

 

 櫻庭本は、落語速記と近代文学の関係への興味から。その昔、三遊亭圓朝の作品(速記本)を読んでいるという知人に向けて書いた文章で、三遊亭圓朝の速記本が近代文学の言文一致に与えた影響について言及したことがあり、その時からこの問題に関心を持つようになった。

 

 「音盤紀行」は“レコードにまつわる時代も国もさまざまなオムニバス作品集”と帯にある漫画。こんな漫画があるとは知らなかった。ジャズのアナログレコードブームが再来している自分にとってストライクな作品。

 

 木村衣有子さんの本(冊子)は、出たことは知っていたが、置かれる店が限定されているためこれまで手に入らなかった。恵文社一乗寺店は木村さんがバイトをしていた店。買うならここしかないという感じ。

 

 

 店を出て、線路を渡って萩書房へ。しばらく来ていなかったので店がまだあるのか心配だったが、無事営業していた。せっかくだから何か買って帰りたいと思って棚を眺めていると小林信彦の「虚栄の市」と「冬の神話」(ともに角川文庫)が置いてあるのを見つける。金子國義のカバーが見事なこれらの文庫は絶版のままになっており、他の文庫に移ることもなく現在に至っている。そのため結構な値段がついていることも小林信彦ファンなら周知の事実だ。「虚栄の市」を手に取るとやはりそれなりの値段がついている(もっと高い金額がついていることの方が多い)。「冬の神話」を手に取るとその3分の1程度の値段(講談社文芸文庫の新刊の値段くらい)だったのでこれに決める。「虚栄の市」は電子書籍になっていてKindleでも読めるのだが、何故か「冬の神話」は電子書籍化されていない。その意味でもこの文庫の価値は高いと感じる。それにしても金子國義のカバー絵は魅力的だな。

 

 

 叡山電車出町柳まで戻り、17番の市バスで銀閣寺道のバス停で降りる。通りの向こう側に善行堂が見えた。善行堂の中には数人のお客さんがいて、善行さんが熱心に話をしている。話がひと段落つくのを見計らって挨拶をする。今回の京都行きの目的の一つが善行堂で1万円買い物をするということであった。それというのも、以前に自宅で処分に困っていたジャズのアナログレコードを善行堂に送って買い取ってもらった金額が1万円で、その代金は今度善行堂に行った時にその金額分の本を無料でもらうことで支払に換えるという提案をこちらからして善行さんが受け入れてくれたのだ。早速、1万円を目指して棚から本を抜いていく。昭和のテレビ番組「がっちり買いまショウ」(値段のついていない商品を選び、合計が設定された金額であればその商品をもらえるという番組)のようだなと思う。結果は1万6千円と6千円オーバー。番組なら商品没収となるが、こちらは6千円払えば商品は全て手に入るので安心だ(本の買い過ぎは心配だけどね)。

 

 -長谷川郁夫「編集者 漱石」(新潮社)

   -『SIESTE』(午睡書架)第1号・第2号

編集者 漱石

 

 など(他多数)を購入。『SIESTE』は“シュルレアリスムや異端文学”への関心を形にした小冊子とのこと。画家の林哲夫さんも執筆している。

 

 いつものように善行さんと2時間以上おしゃべりをしてしまう。善行堂を堪能して店の前のバス停から17番の市バスで京都駅まで戻る。

 

 ロッカーからボストンバッグを取り出し、そこに本日の収穫を入れて地下鉄で四条烏丸へ。いつもの東横インはどこも満杯。ネットで検索して許容範囲の値段のビジネスホテルの最後の1室とやらを押さえたのが、相鉄系の真新しいホテル。それでも東横インの倍の値段になった。移動の便のいい四条烏丸でこの値段ならよしとするしかない。フロントやエレベーターで顔を合わせるのは外国からの旅行者ばかりだ。

 

 重い荷物は部屋に置いて、ホテルを出て夕食を食べにいく。錦市場寺町通もインバウンドで埋め尽くされている。そこらの店は行列上等という有様なので、何度か利用したことのある京都市役所近くの柳庵という蕎麦屋に行ってみると「休業」の張り紙が。ここのうどんの出汁の味が好きだったのに残念だ。

 

 これは観光客が行かなそうな店を選ぶしかないと京都出身のグレゴリ青山さんの本で京都市民のソウルフード(?)であると知った“餃子の王将”へ。カウンターの空席に潜り込む。炒飯セットを注文して振り返ると順番待ちの人が並び始めており、ここも安全地帯ではないことがわかる。そそくさと食事を済ませて店を出る。

 

 

 歩いて三条大橋を渡り、三条のブックオフへ。ここは以前に小林信彦の「虚栄の市」や「冬の神話」を100円棚で見つけた聖地と呼んでいる場所。もちろん、そんな僥倖はその時一度きり。今回は半額棚から1冊選ぶ。

 

 -石阪幹将「都市の迷宮 地図の中の荷風」(白地社

 

 

 叢書レスプリ・ヌウボオの1冊。内堀弘「ボン書店の幻」が入っているので知られたこの叢書だが、予定された25冊を出し終わることなく消えてしまった。「都市の迷宮」は「ボン書店の幻」と同じ第3回配本。第5回配本に曾根博義先生の「日本人の生命観 その近代的アスペクト」が予定されていたが出ることはなかった。

 

 

 三条大橋を戻り、木屋町通を歩く。善行堂のお客さんの女性が中心となってこの通り沿いの地下に“深夜喫茶 ホール多聞”という店を開いたと善行さんから聞いたので行ってみる。地下ではあるがホールというように比較的広々とした空間となっているため閉塞感のようなものはなく、趣味のいいナイトクラブのような雰囲気(店の人たちの服装もそれを意識しているような感じ)で、居心地がいい。店内にはアナログレコードの音楽が流れている(一度針が飛ぶような音があったのでそれと分かった)。本日のブレンドエチオピア)とはっさくパウンドケーキを頼む。どちらも美味しかった。この空間を使って何かイベントをやりたいと善行さんも言っていたのでまた『sumus』友の会を開催してほしいものだと思う。

 

 

 店を出て木屋町通を歩き、途中から先斗町を歩く。町屋風の狭い路地に店が並び、夜の闇の中に店々の明かりが差してぼんやりと照らされている風情が好きで、ここを歩きたくなる。もちろん、通りは人で埋め尽くされている。気がつけば前後左右は全て外国からの旅行客であり、まるで自分が外国旅行に来たかのような錯覚に陥る。しかし、風景は京都の先斗町なのだからここが“ヴィクトリア朝京都”だと言われても頷くしかないような気がする。

 

 

 寺町通から、錦小路に入り、人影のなくなった錦市場を通って四条烏丸のホテルへ。ホテル近くのセブンイレブンに寄ってみると店内は外国の人ばかり。レジに行くと2名いる店員も外国の人。

 

 自分こそインバウンドなのではないだろうか。