富士山の水とキリマンジャロの雪

 

 

 昨日は午前中職場へ出勤、午後は自宅に戻りオンライン会議に2つ参加する。職場にいたのにわざわざ会議のために帰宅したのは、全職員参加のオンライン会議に職場で参加する場合広い会議室に集められ、それぞれ離れて座り、タブレットの画面を見ながら会議するというから、そんな形容矛盾のような空間に身を置いているのが耐えられなかったため。案の定、司会者のタブレットと参加者のタブレットが近すぎてしばしばハウリングを起こす様子を職場から徒歩30分離れた自宅のPCで聴いていた。

 

 

 今日は、自宅勤務。昼に頼んでいたウォーターサーバーを業者が持ってくる。自宅の台所の水道は浄水器を着けづらいタイプのもので、設置は諦めてクリンスイのポッド式でコーヒーや紅茶を入れるたびにポッドに水を貯めていた。自宅にいる時間が長くなり、日に何度もコーヒー・紅茶を入れることになり、その度にポッドに浄水した水を貯めるのにも嫌気がさし、温水・冷水が出て、何かのトラブルで水道が止まったとしても何十リットル分もの飲料水が詰替のボトルとしてキープできるウォーターサーバー購入を決意した。購入と言ってもサーバー代はかからず、料金は毎月決まって届けられる水代だけ。しかし、月何十リットルもの水代はそれなりの金額だし、ウォーターサーバーの電気代も安くはない。もっと安い業者もあるようだが、富士山の雪解け水(?)が何十年もかかって湧き出した天然水であることと自分の好きなラジオ番組のスポンサー企業であることを考えれば自分の選択に後悔はない。月々の水代と電気代を考え、これまで雨後の筍のように増殖していた有料動画配信サービスやBSチャンネルなどを見直して数社解約し、月々の支出がほぼ変わらないように努力した。

 

 

 午後のオンライン会議を終えて、本日の業務終了。また、散歩に出る。片道40分かけてまた隣町まで行く。今日の目的は隣駅近くにあるコーヒー豆の焙煎屋である。前回は定休日であったため寄ることができなかった。本日は営業中であることはHPで確認済み。他の焙煎屋での経験を踏まえ、焙煎の間(通常30分くらい)はこれも先日行った本屋で本を物色していればいいと考えていた。今日は先日より4度くらい気温が高く、目的地の焙煎屋にたどり着いたときには体はじっとりと汗にまみれていた。このステイホーム状態になってから近場のコーヒー豆の焙煎屋をまわり、タンザニアキリマンジャロ)を購入している。同じ種類の豆を違う店で買うことで、それぞれの店の焙煎の具合や扱っている豆の良し悪しを楽しもうというわけ。タンザニアを選ぶのは、自分の学生時代にあった街の喫茶店ではブレンド以外のコーヒーはブルーマウンテンとキリマンジャロモカの三種類くらいしかなく、最高級のブルマン、ほどよい酸味のあるキリマン、マイルドなモカの中で一番好きだったのがキリマンジャロだったから。まあ、それ以外の豆の種類をよく知らないというのもあるけど。

 

 

 熊の種類を店名に冠した店のドアを開けると客は誰もいない。店に並んだ生豆の箱の中に「キリマンジャロタンザニアAA)」という札を見つけ、ブレンドとともにそれぞれ200グラムを注文したところ、「これから焙煎しますが、出来上がりは1時間半後になります」という。「このところ在宅の方が多くなり、予約が沢山入っていて、すぐには焙煎に入れない」とのこと。さすがにこの汗をかいた状態でしかも三密を避けるご時世で本屋に1時間半もいるわけにはいかない。すでに40分ほど歩き、この後同じ時間をかけて戻らなければいけないのに、あと90分も彷徨い歩く気力もない。「すいませんが、ここまで徒歩で来ているので、一度戻ってまたくるわけにもいかないので、今日はやめておきます」と店主にとってはよくわからないだろう理由を口にして、店を出る。新たなキリマンジャロを手に入れることはできなかった。キリマンジャロは雪のように我が手から消えてしまった。

 

 

 気を取り直して本屋へ。前回は1階の単行本と雑誌のフロアだけしか見ていなかったので今日は2階の文庫・新書フロアへ。ほしかった文庫をがっつり手に入れる。

 

-「飯田龍太全句集」(角川ソフィア文庫

-ハーバート・パッシン「米陸軍日本語学校」(ちくま学芸文庫

-岡田育「ハジの多い人生」(文春文庫)

-外山滋比古「『読み』整理学」(ちくま文庫

 

 

飯田龍太全句集 (角川ソフィア文庫)

米陸軍日本語学校 (ちくま学芸文庫)

ハジの多い人生 (文春文庫)

「読み」の整理学 (ちくま文庫)

 

 

 

 飯田龍太は個人的な岩波新書ベスト本のひとつ小林恭二「俳句という遊び」で出会った現代を代表する俳人。その全句集となれば見逃せない。

 

 「米陸軍日本語学校」は第二次大戦中にアメリカが戦後の占領までを見据えて作ったアメリカ人に日本語を教える学校の実態についての回想本。

 

 「ハジの多い人生」はTBSラジオの「アフター6ジャンクション」で著者へのインタビューを聴いて興味を持った。元中央公論社編集者でアメリカ在住の文筆家。ここでの「ハジ」は「恥」ではなく「端」の方の「ハジ」らしい。

 

 外山本は先日読んだ犬塚美輪「生きる力を身につける14歳からの読解力教室」(笠間書院)のあとがきで著者がオススメ本としてあげていたのを覚えていた。しばらく品切れだったが昨年増刷されたらしい。これも「思考の整理学」がベストセラーになった余波だろう。

 

14歳からの読解力教室: 生きる力を身につける

 

 

 

 豆の代わりに本を買ってまた40分かけて帰る。暑いので帰ったらキリマンジャロの代わりに富士山の水を飲むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

散歩で万歩。

 

 今月に入って原則自宅勤務となった。とはいえ、出勤絶対禁止というほどではなく、事前に上司に報告すれば職場へ行くことは許されているため週に2回は出勤している。

 

 幸い歩いて職場へ行くことのできる場所に住んでいるので、30分ほどかけて徒歩で職場へ行っている。もうひと月くらい公共交通機関(電車・バス)には乗っていない。出勤する日以外は当然自宅にいる。自宅での勤務時間は明確には定められていないため、こうなる前に時差出勤時間として示されていた時間は自宅のPCに向かって仕事をしている。通常職場に行けば少なくとも一日12000歩程度は歩いているのだが、自宅にいるだけでは三桁にとどまる歩数しか動かなくなる。これではいけないと午後の自宅勤務の終了時間を過ぎるとジャージに着替え、買い物がてらの散歩に出ることにしている。

 

 

 4月初旬に地元の駅ビルが休業となった。地元唯一の新刊書店はこのビルの中にあったため我が町から本屋が消えた(古書店は1軒あるがこちらも4月中旬に店内販売を休止した)。本屋に行くという日課のような楽しみがなくなり、本の購入は通販に頼るしかなくなった。古本は好きな古書店が「日本の古本屋」に出品しているのでそこから買う。もちろん古書店が直接通販を行っている場合にはそれを利用している。また、新刊はe-honが期間限定の送料無料で配送してくれるサービスを開始したのでこちらを主に利用している。e-honの良いところは特定の書店を指定すると通販の売り上げの一部がその書店の利益となるシステムになっている点だ。できるなら地元で日々愛用していた駅ビルの本屋を選択したいのだが、このサービスには加盟してないらしく選択肢に店名がなかった。そのため近場の本屋の中から前に行って好感を抱いた妙蓮寺にある石堂書店を選んで利用している。

 

 今日もそのe-honから本が届いた。届いたのは以下の本と雑誌である。

 

-『ユリイカ』五月臨時増刊号“総特集 坪内祐三1958-2020”

-コーリー・スタンパー「ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険」(左右社)

-牧村健一郎漱石と鉄道」(朝日選書)

-又吉直樹「東京百景」(角川文庫)

 

ユリイカ 2020年5月臨時増刊号 総特集◎坪内祐三 1958-2020

 

ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険

 

 

漱石と鉄道 (朝日選書)

 

 

東京百景 (角川文庫)

 

 『ユリイカ』の坪内祐三追悼は欲しかったのだがやっと届いた。『本の雑誌』の追悼号も厚かったが『ユリイカ』はもっと厚い。定価2700円。この厚さと値段に度肝を抜かれた人が多かったのもうなずける。目次にずらっと並んだ執筆者を見ているだけで坪内祐三という人がいかに多くの影響を多くの人に与えた存在であったかがわかる。小沢信男山田稔西村賢太武藤康史・平山周吉・橋本倫史・岡崎武志と瞬く間に読み進めてしまう。息をつくために一旦雑誌を閉じる。他にも小西康陽浅羽通明林哲夫・中尾務・涸沢純平・中沢新一高山宏など興味深い名前があとからあとから出てくる。慌てずゆっくり読むことにしよう。

 

 

 今日は休日のため勤務時間にしばられることはない。午後3時前にジャージに着替えて散歩に出る。届いた本を眺めていたらやっぱり本屋に行きたくなった。そのため、隣駅にある新刊書店まで歩いていくことにする。Google マップの経路では片道徒歩40分の行程である。隣駅にある商店街までは先週一度歩いて行っているのでルートは分かっている。横浜はアップダウンの多い市である。僕の住んでいるところもご多分にもれず、歩き始めれば必ず下りか上りがやってくる。隣駅に行くには小高い山をひとつ越えていく感じになる。20度以上の気温がすぐに体に汗をかかせる。ひと山越えて川を渡り、隣町へ。人通りの多い商店街は避けて裏通りを歩く。朝食用の食パンを今朝食べ切ったので、まずは町外れにあるパン屋を検索で見つけてそこで食パンを購入。自宅勤務に伴う散歩を始めた時、散歩の目的地に困った。そこで、とりあえず自宅で飲むコーヒーの豆を購入できる自家焙煎をしている店及び朝食用の食パンが買える個人営業のパン屋を検索し、歩いて行ける範囲の店をしらみ潰しに行ってみることにした。そのため今日のパン屋も初めての店。角形の食パンがよかったのだがすでに売り切れており、山形の食パンになった。

 

 手にパンを提げながら、駅前にある新刊書店へ。横浜のこの地区にいくつかの支店を持つ中規模書店の本店である。7年ほど前までこの店の支店が地元の町にもあった。夜遅くまでやっていて残業帰りに寄ることのできるありがたい店だったのでなくなったのは残念だった。休日ということもあり店内は人が多い、書店滞在時間は長い方の人間であるが、現状ではそうも言っていられない。さっと店内を流し、2冊を選んでレジへ。

 

-村上春樹「猫を棄てる」(文藝春秋

-片岡義男「コミックス作家川村リリカ」(中央公論新社

 

 

猫を棄てる 父親について語るとき

 

 

コミックス作家 川村リリカ (単行本)

 

 

 「猫を棄てる」は『文藝春秋』掲載時に読んでいるが本で持っていたかった。それに、今日部屋で4月26日にTOKYOFMで放送された「村上Radio」をポッドキャストで聴いていたこともあり、すぐに目に入ってきた1冊だった。

 

 片岡義男の新刊は迷わず買うことにしている。もう80歳を越えているのに大家や大御所といった感じにならず、不思議な現役感をいつまでも感じさせてくれる稀有な作家だと思う。

 

 

 同じ道を帰るのはつまらないので、線路沿いを歩き、地元の駅前に出て、そこから自宅のある坂の上まで汗をかきかき登っていく。自宅について、ジャージを脱ぎ、風呂に入って汗とその他の目に見えないものを流す。湯船に浸かりながらもう一度「村上Radio」を聴き直す。約2時間、歩数約1万歩の散歩だった。

 

 

アンケートという駅弁。

 昨日は、職場の同僚たちとの食事会が夕方から予定されていた。仕事を終えるとまだ2時間ほど時間がある。時間潰しに本屋を周遊することにする。

 

地元の古本屋を覗いてから、駅ビルの新刊書店へ。

 

-『群像』3月号

 

群像 2020年 03 月号 [雑誌]

 

 

お目当ては橋本倫史「水了軒の滊車辨」。“追悼 坪内祐三”としてこの一編だけが掲載されていることといい、他のページとは違う上のスペースをあけたレイアウトでゆったりと組まれていることといい、なにか特別な文章という感じを与えてくれる。横浜駅に向かう列車の中で読んだ。橋本さんと坪内さんの銀座での偶然の出会い。『坪内祐三は二〇〇六年の時点で絶望していた』という街への言葉。その言葉の意味を確認する意味でも「復活」した水了軒の駅弁を一度食べてみようと思う。失われてしまったものは残っているものを手掛かりとして想像するしかないのだから。

 

 

まだ時間があるので白楽駅で途中下車。久し振りにツイードブックスを覗く。先日の月曜日に白楽に来たのだが、この店は月曜定休。代わりに鉄塔書院(この店が健在なのはうれしい)で、宮田恭子「ジョイス研究」(小沢書店)と北村富治「『ユリシーズ』案内 丸谷才一・誤訳の研究」(宝島社)を購入した。

ツイードブックスでもこの夏ダブリンに行く準備のためのジョイス本を入手。

 

-柳瀬尚紀「フィネガン辛航紀」(河出書房新社

-北村富治「『ユリシーズ』詳解」(洋泉社

 

 

フィネガン辛航紀―『フィネガンズ・ウェイク』を読むための本

 

『ユリシーズ』註解

 

 久し振りのツイードブックスは前と変わらずいい古本屋だった。鉄塔書院といい、ここといい白楽にはいい店が多いといつも思う。

 

 

 それから横浜駅へ行き、同僚たちとおいしい熟成肉を食べて帰宅。

 

 

 

 今日は録画しておいたドラマ「古滝兄弟と四苦八苦」(野木亜紀子脚本・山下敦弘監督)を見ながら遅い朝食をとってから神保町へ。『みすず』の読書アンケート号を買いに行く。

 

 車中では若竹七海「静かな炎天」(文春文庫)を読む。今年1月から始まったNHKのドラマ「ハムラアキラ」の第1話を見たら主演のシシド・カフカの存在感が原作の葉村晶のイメージをいい感じに裏切っていて面白かった。しかし、まだ読んでいない原作をベースにしたドラマを先に見てしまうことに抵抗があり、第2話「静かな炎天」は録画しておいて観る前に原作を読もうと考えてカバンに入れてきた。

 

 

静かな炎天 (文春文庫)

 

 神保町へ到着。東京堂書店へ。

 

-『みすず』読書アンケート号

-山田稔山田稔自選集 Ⅱ」(編集工房ノア

-マティアス・ボーストレム「〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ 偶像を作り出した人々の物語」(作品社)

 

 

〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ――偶像を作り出した人々の物語

 

 

 

 年の初めに『みすず』のこの号を読むのが毎年の恒例。今年も無事入手できた。

山田稔自選集」は全3巻のうちの第2巻がでた。すでに持っている第1巻は、毎晩寝床に入ってから収録されている散文を一編ずつ読むのを楽しみにしている。読み終わったらこちらにバトンタッチするのだ。

 「〈ホームズ〉から〈シャーロック〉へ」はコナン・ドイルが世に出したホームズの物語がドイルの死後どのように享受され、どのように二次創作されていったかについての本。こちらはこの夏のロンドン行きのための資料。

 

 

 続いて三省堂書店へ。

 

-北川扶生子「漱石文体見本帳」(勉誠出版

-シルヴィア・ビーチ「シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店」(河出書房新社

 

 

漱石文体見本帳

 

シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店 (KAWADEルネサンス)

 

 前者は、ロンドン関係で漱石の倫敦留学について興味があるので最近また漱石本を集めだしているため。

 後者は、パリにあった書店の店主の回顧録ジョイスの『ユリシーズ』を出版したのはこの店だった。古い版で持っていたと思うが新版が自由価格本として半額以下で出ていたので購入。

 

 

 カバンがずしりと重くなったところで神田伯剌西爾へ。ブレンドとシフォンケーキをたのんでから『みすず』を開く。細かい活字を追いながら濃いめのブレンドを飲むひと時は一年に一度のものだけに喜びもひとしお。目次に“坪内祐三”の名前を見つけてそのページに飛ぶ。生前にすでにアンケートは送られていたのだなと思う。坪内さんは文春新書を1冊だけ挙げている。文学関係ではない書名なのだが、その理由を読んでなるほど坪内さんの好奇心の中心を射抜く内容なのだと納得する。

 

 

 帰りの車内も前かがみになって『みすず』の細かい活字を追う。これが同じサイズの文字で書かれた電子機器のマニュアルだったらとても読んでいられない。中身が魅力的なものであれば、目は活字を追うことをやめはしないのだ。

書を持ってさらにいくつかの本を買う。

 

 大晦日である。だからといって特に何があるわけでも何をするわけでもない。

 

 

 厚切りトースト2枚とコールスローとポテトサラダの朝食をとり、昼前に家を出る。今日は午後1時過ぎからテアトル新宿で映画「この世界のさらにいくつもの片隅に」を観に行く予定なのだ。

 

 

 車内の供は例年のお約束のこれ。

 

 

-中野翠「だから、何。」(毎日新聞出版

 

だから、何。

 

 『サンデー毎日』の連載コラムの一年分をまとめたもの。これも今年の出来事だったんだという確認作業をさせてくれる貴重な一冊。1月にはNHK大河ドラマ「いだてん」が始まっている。あれからもう1年か、「いだてん」ロスが続くな。

 

 

 

 余裕を持って出てきたので、神保町経由のルートにして神保町で下車。東京堂書店で本を2冊。

 

 

-『フリースタイル』44号“THE BEST MANGA 2020 このマンガを読め!

 

-安田謙一・辻井タカヒロ「書をステディー町へレディゴー」(誠光社)

 

 

フリースタイル44 特集 THE BEST MANGA 2020 このマンガを読め!

書をステディ町へレディゴー

 

 

 

 前者はこれも年末恒例のマンガ特集。この特集で新しい作品と出会うことも多い。

 

 後者は京都の書店である誠光社が出版した本。「あとがき」を夏葉社の島田潤一郎さんが書いているのに惹かれた。

 

 

 

 神保町から新宿三丁目へ。テアトル新宿へ。3年前にここで「この世界の片隅に」を観ている。その年の大晦日二子玉川でもう一度観直しをしている。そして、今年の大晦日はその前作に30分程度の追加シーンを入れた長尺版「この世界のさらにいくつもの片隅に」を観ようというのである。

 

 

 今朝から水分補給を最小限にしてこの映画に合わせて準備をしてきた。元々子どもの頃からの頻尿で、小学生の時に心配した親に医者に連れて行かれたこともある。そのため3時間近い映画を途中退席なしに見通すためにはそれなりの準備が必要なのだ。結果は無事エンドロールの最後まで退席なしに観通せた。その分、他の水分がずいぶん活発だったが。映画の大半はもう何度も観ている内容であるが、飽きるなどということはなく、むしろ今回追加された“白木リン”が入ることによってこれまでのシーンの意味合いが変化し、新鮮な感動があった。誤解を生じる言い方かもしれないが“すずさん”がより生々しく、艶かしく見えた。だからこそ、その日常が愛おしく、それを根こそぎなぎ倒していくものが腹立たしい。思い切り水分を放出して劇場を後にする。

 

 

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』映画前売券(一般券)(ムビチケEメール送付タイプ)

 

 

 帰宅して、大晦日恒例のすき焼きで夕食。今年は白菜の代わりに玉ねぎを使う。奮発した牛肉も美味しい。これで今年も無事に年を越せそうだ。

 

 

 今日買ってきた「書をステディー町へレディゴー」から「あとがき」(島田潤一郎)を読む。島田さんの文章には引用したくなるような魅惑的なフレーズが多い。

 

 

《なにかを伝えたいのだとすれば、その情熱と同じくらいユーモアを。迂路を。転調を。レコードが一本の溝であるのと同じように、文章もまた一本の線だ。それは情報ではなく、コピー&ペーストできる断片でもなく、音楽と同じような何かだ。》

 

 

 

 今年もほとんど更新できないこのようなブログにお付き合いいただきありがとうございました。来年もマイペースで続けていきます。

 

 では、よいお年を。

 

 

 

飛行機に乗って。

 今年も暮れようとしている。

 

 仕事は28日で終わった。昨日は朝から窓掃除や水回りの大掃除をした。

 

 今日の午前中は先延ばしにしていた年賀状書きをようやくやり遂げた。大した量ではないのだが、毎年この押し詰まった時期にならないと書き上げることができない。そういう性格なのだ。

 

 

 昨日、掃除をしながらTOKYO FM山下達郎のサンデーソングブック」を聴いていたら「明日30日は大瀧詠一さんの7回忌」ということを言っていて「ああ、そうか」と思った。なので、今日はシャッフル再生でiTunesに入っている「大瀧詠一」の曲をずうっと流していた。

 

 

 午後、書き上げた年賀状を出しに駅前まで行く。街はあっという間にクリスマスから新年準備の装いに変わっていた。

 本屋を覗き、“ジャズとアメリカ”という特集をしている英語学習雑誌を購入。来年の夏に一ヶ月ほどイギリスに海外研修に行くことになったため、英語の勉強の真似事くらいはやっておこうかと思って買ってみた。彼の地には20年ほど前に同じ名目の研修で行っている。本来この研修は各自1回だけのものなのだか、来年の希望者が誰もおらず、その上親会社からは誰も行かないのは罷りならんとのお達しがあったらしく、どうしても誰かを行かせなければならない立場に立たされた上司が、困った末に僕に行ってくれないかと打診してきた。「いや、もう20年前に行っていますから」と断ると「親会社の許可は得てある」との返事。どうやら外堀は埋まっているらしい。仕事とはいえ、自分の好きなテーマでロンドンに行けるのなら悪い話ではない。人助けにもなるならとOKをすると、「ではすぐに研修計画書を出してくれ」と言う。「締切は?」と問うと、「もう過ぎている」との答えがあったのが金曜日。その週の週末を費やして墨俣の一夜城のような計画書を作り、月曜日には来年の夏の予定が決まってしまった。

 せっかく行くのだから20年前に行けなかった所にも行きたい。前回はロンドンの他にパリも研修地に入れたのだが、今回はパリの代わりにアイルランドのダブリンを入れた。あの週末は研修地にどうすればダブリンを入れられるかを考える時間だったとも言える。これで念願のダブリンに行くことができそうだ。

 

 

 そんな状態なので、最近は研修の資料になりそうな本を読んでいる。先日読んだのはこの本。

 

-多胡吉郎「漱石とホームズのロンドン」(現代書館

 

 

漱石とホームズのロンドン: 文豪と名探偵 百年の物語

 

 

 1900年から2年間、文部省の官費留学生としてロンドンに滞在した夏目漱石と同時期のロンドンを舞台に活躍したコナン・ドイル描くところの名探偵シャーロック・ホームズを対比させながら二人が直面していた当時のロンドン(イギリス)の様々な問題を語っている。1887年から1917年に渡って書き継がれてきたホームズ物の中で漱石帰国の翌年から連載が始まった「シャーロック・ホームズの帰還」(生還・復活などとも訳される)に焦点を絞って比較することで漱石が暮らしたロンドンとの関わりがより明確になっていると思う。面白く読んだ。

 

 

 今読んでいるのはこちら。

 

-中尾真理「ジョイスを訪ねて ダブリン・ロンドン英文学紀行」(彩流社

 

 

ジョイスを訪ねて: ダブリン・ロンドン英文学紀行

 

 ジェイン・オースティンの翻訳もしている大学教授が2007年に行ったダブリンとロンドンを巡る旅行記。ダブリンのトリニティカレッジへ行ってみたくなる。そして、「ユリシーズ」をちゃんと読んでみたくなる。

 

 

 

 本屋を出て、駅ビルのストアで食料品の買い物。元旦はコンビニもやっていない状況になりそうなので、数日分をストック。明日のすき焼き用の肉も奮発しておく。

 

 

 

 帰宅してやり残してることなどをあれこれしているうちに日が暮れる。

 

 家にあった玉ねぎと卵と買ってきたトンカツでカツ煮を作って夕食にする。

 

 

 

 最近、買った雑誌で面白いと思ったのが次の2冊。

 

-『建築知識』2020年1月号

 

建築知識2020年1月号

 

 初めて買った雑誌。なんで買ったかというと特集が“世界一美しい本屋の作り方”だったから。建築雑誌だから本屋を建築方面から特集しているのかと思ったらそれだけではなかった。本棚の種類や陳列の仕方、本の大きさや流通の仕組みなど簡単にではあるが本屋に関わる様々なポイントを押さえた特集になっていた。本屋好きは一度手に取ってみる価値はあると思う。建築雑誌らしく取材協力をしている書店(往来堂、誠光社、titleなど30店舗以上)の平面図が載っているのもうれしい。

 

 

-『ユリイカ』2020年1月号“特集 和田誠

 

 

ユリイカ 2020年1月号 特集=和田誠 ―1936-2019―

 

 まだ、一部しか読んでいないが、島田潤一郎「スタイルのよい人」がよかった。

夏葉社がスタートした時、無名の一人出版社がどうして装丁に和田誠の絵を使えるのだろうと不思議に思っていたが、その秘密がここに書かれていた。ツテもコネもない出版人が強い思いだけを頼りに装画を手に入れるまでの様子は読んでいてワクワクする。また、電話での和田誠と会った時の和田誠の振り幅の大きさに人間・和田誠が匂い立ってくるような気がする。「ぼくは『ユリシーズ』の装丁を日本一の装丁だと思い続けながら、二〇代を送った。」という島田さんの文章に共感を覚えた。

 

 僕の自宅にも、和田誠が装丁したジェイムズ・ジョイスユリシーズ」(集英社)全3巻がある。その集英社文庫版もあるが、文庫版の裏には和田誠が嫌ったバーコードがしっかりと印刷されてしまっている。単行本にはそれがないため、島田さんが書店で見かけた時に「なんてきれいな本だろう」と思ったその姿が損なわれることなく残っている。先ほど、本棚を置いてある寒い部屋からリビングに「ユリシーズ」を持ってきて眺めているが、シンプルでとてもセンスのいい、美しい本だと思う。和田誠という装丁家がいてくれたことの喜びを感じる。

 

 

ユリシーズ 全3巻・全巻セット (ユリシーズ)

 

 

 飛行機に乗って

 

 和田誠の装丁のようなアイルランドのダブリンに行こう

 

 

 そんなことを考えながら今年は暮れていきます。

志賀直哉の名誉のために。

 

 9月18日。

 朝食は朝8時からとなっているためゆっくり起きて焼き魚と漬物と海苔でご飯をいただく。こんな純日本式朝食を食べるのはいつ以来だろう。

 

 

 9時に宿を出る。5番のバスで京都駅まで行き、コインロッカーに大きなバッグを預けて身軽になったところで地下鉄と京阪電車を乗り継いで出町柳へ。いつもの店で自転車を借りて京都2日目スタート。小雨がパラついて困ったなと思っていたら、鴨川を渡って出町座のある商店街までほんの数百メートル移動したら雨はもう降っていなかった。やはり川の周辺は天気が変わりやすい。

 

 

 まだ11時前のなので古本屋はほとんど開いていない。この時間は新刊書店を縫っていく。出町座の中にある本のコーナーをチェックしてから誠光社へ。

 

 

-高野文子「『私』のバラけ方」(カタリココ文庫)

-伊丹十三記念館ガイドブック(伊丹十三記念館

-小見山輝「俳句の鬼 西東三鬼の世界」(岡山文庫)

-長崎訓子「CATNAPPERS 猫文学漫画集」(ナナロク社)

 

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Catnappers 猫文学漫画集

 

 

 

 高野本は大竹昭子さんが行なっている「カタリココ」というトークイベントを書籍化したもの。文庫サイズの小冊子で表紙に「ドミトリーともきんす」の母娘の絵があしらわれている。高野文子好きにはたまらない一冊。奥付に協力として記載されている目白のブックギャラリーポポタムに行けば手に入るだろうと思っていたら京都で出会えた。

 

 

 伊丹十三記念館のガイドブックも文庫本サイズの冊子だがこちらはドストエフスキーの長編小説くらいの厚みがある。カラー写真も豊富に載っていてデザインも洒落ている。まさに伊丹十三記念館といった感じ。

 

 

 新潮文庫の「神戸・続神戸」と並んで面陳されていたのが「西東三鬼の世界」。“三鬼思い出アルバム”や年譜まで載っていて西東三鬼への興味が湧いたばかりの人間にはまさにご馳走とも言える本。岡山文庫が何気なく置いてあるところはさすが誠光社。

 

 

 「猫文学漫画集」は店頭の平台に積まれていたので手に取った。赤川次郎筒井康隆別役実中原昌也芥川龍之介更級日記などの猫が出てくる作品を漫画化したもの。ちょっとラフな感じの絵柄もいい感じ。

 

 

 この他に誠光社のオリジナルトートバックを購入。趣味のいい店に似合う趣味のいいトート。「READ MORE BOOKS」のロゴをあしらったバッグに小さく黒いタグが見えるように表裏に跨って付いているのもいい。

 

 

 いつの間に雨の気配はかき消えて陽射しが照りつけて暑くなる。朝も通った蔦屋書店や宿の前を自転車で駆け抜け、ホホホ座へ。

 

 

-山下賢二・松本伸哉「ホホホ座の反省文」(ミシマ社)

-『てくり』23号

 

ホホホ座の反省文

 

 今年出た「ホホホ座の反省文」はやはりホホホ座で買わなければと購入。『てくり』は盛岡のタウンマガジン。これまでの何冊が買っているのだが、東京の書店では手に入りにくく定期購読を企んだのだが、なぜか上手くいかず、京都で見つけて入手したというところ。

 

 

 いつもならここから恵文社一乗寺店まで足を伸ばすのだが、暑さもあるし、今回はのんびり過ごすことをテーマとしているので、このまま善行堂へ向かうことにする。その前に昼食を済ませておこうと前にガケ書房があった近くにある定食屋大銀へ寄る。岡崎武志さんが愛用した店(実際にはこの店舗とは別の大銀らしいが)ということで知り、以前にも一度入ったことがある。白川通からちょっと奥まった所にあるため店の前はひっそりとしているので昼時なのに客がいないのではとちょっと心配しながら暖簾をくぐると店内はギッチリと客で賑わっていた。生姜焼き定食を頼む。何にしてもご飯の盛りがいい。濃いめの味付けのおかずで白米をワシワシ食べる。これが定食屋の醍醐味だ。

 

 

 白川通銀閣寺前まで戻り、いつものコーヒースタンドでブレンドをテイクアウトし、それを手土産に善行堂へ。

 

 

 平日の午後だというのに善行堂は数人が棚に見入っていた。その中には横浜から善行堂目当てに仕事を休んできたという本好きの人がいて善行さんと楽しげに話している。横浜の古本屋の話になり「ツイードブックス」の名前が出てきたので、善行さんに説明するつもりで「東横線の白楽にある古本屋さんですよね」と思わず声をかけてしまう。いい店はやはり地元の本好きに知られているのだなとうれしくなる。それにしても仕事を休んでわざわざ横浜から来るなんてかなりの本好きだなあと思った途端、天に唾する行為だと気づき肩をすくめる。

 

 

 いつものように店内の棚を何度も眺め、気になる本や善行さんオススメの本などを棚から抜き出す。

 

 

-「美意延年 新村出追悼文集」

-林哲夫「父の仕事場」(TONERIKO)

-矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦「一九三〇年代モダニズム詩集」(みずのわ出版)-

-文・寺田寅彦 絵・高橋昌子「科学絵本 茶わんの湯」(窮理社)

-『本と本屋とわたしの話』15号

 

 

 

 これらの本のほとんどが善行堂に行かなければ出会わなかった本だと思う。こういう出会いの面白さも含めてここにくる楽しみがある。善行さんは善行堂10周年を記念して作ったというブックカバーを巻いてくれる。栞も色違いで2つ入れてくれた。気がつけば2時間が過ぎていた。帰りの新幹線の時間を考えて3時に善行堂を出る。

 

 

 出町柳で自転車を返し、電車で京都市役所前へ。昨日休みだった三月書房へ行く。

 

 

-グレゴリ青山とキリカメ7「ナマの亀岡」

-藤枝静男志賀直哉天皇中野重治」(講談社文芸文庫

 

志賀直哉・天皇・中野重治 (講談社文芸文庫)

 

 

 「ナマの亀岡」は京都で手に入れようと思っていたものの一つ。善行堂で買うつもりであったが、残念ながら善行堂では仕入れたものすべてを売り切ってしまったということで手に入らず。ここでめでたく入手。亀岡市のPR活動の一環として市が出している冊子とのこと。300円と安いのもそのためらしい。グレゴリ青山本はやはり買っておきたい。

 

 

 藤枝本は帰りの新幹線で読む予定で持ってきた本が志賀直哉「暗夜行路」(新潮文庫)だから。去年の夏、尾道志賀直哉旧居後で買った本。一年越しにやっと読み出そうというわけ。

 

 

 17時過ぎの新幹線で帰る。今回は窓側の席をゲット。すき焼き弁当を食べて「暗夜行路」を読み始めたが腹が満ちて気付いたら1時間近く寝ていた。決して「暗夜行路」がつまらなかったわけではない。志賀直哉の名誉にかけてそれだけは言っておきたい。

 

暗夜行路 (新潮文庫)

火曜日はだめよ。

 先週の三連休(土・日・月)は全て仕事だったので、火(17日)・水(18日)と代休を取った。


 今年の春に職場から勤続30年の景品として提携している宿泊施設で使える優待券をもらった。調べてみたら京都にも券を使える宿があることを知った。優待券には有効期限があるし、せっかくだからここで使うことにする。


 17日の朝、家を出て新横浜駅へ。事前にネットで予約していた「のぞみ」に乗ろうと“プラスEX”カードを改札の機械にかざすがエラー音がしてゲートが開かない。有人改札でチェックしてもらうと“東京駅”からの乗車になっているという。何度もやっているネット予約なので何度か来た確認メールも日付と時間だけをチェックして乗車区間は見逃していた。「ネットで予約の変更をしてください」と言われ慌ててスマホをいじる。乗るはずだった「のぞみ」の乗車駅を変更しようとしたのだが、焦っていて同じ電車が検索できず、仕方なく次の「のぞみ」に予約を変更する。直前なので窓側の席は取れず、残っているのは3人がけの真ん中だけ。以前に電源のある窓側の席にパソコンで作業する人が乗っていてずうっとキーボードを叩く音に悩まされた経験があるのでなるべく窓側の席を取るようにしているのだが。


 ありがたいことに窓側の人はスマホを眺めているだけだった。しかし、通路側の人がかなりの巨体で、普通に座っていても肩がこちらの肩にグイッと食い込んでくる感じ。もちろん、こちらも小さい方ではないので文句は言えない。体を小さくして読書に集中することにする。持ってきたのはこの本。


-西東三鬼「神戸・続神戸」(新潮文庫

 

 

神戸・続神戸 (新潮文庫)

神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)

 

 確か講談社文芸文庫版も持っていたと思うが未読。最近新潮文庫に入ったことを知り買っておいた。スピンもついて薄手で扱いやすいのでするっとカバンに入れてきた。面白いという評判は前から聞いていた。昭和17年に東京から逃れて神戸のホテルで暮らすようになった著者が出会う国際都市神戸に集まる内外の印象深い人々との交流を記録したエッセイ集。京阪神に向かう新幹線の中で読むのに丁度いいはずだ。読み始めると評判通りの面白さに湿り気と熱を帯びた隣人の肉肉しい肩の食い込みも気にならなくなる。戦火のしのび寄る戦時下に水商売の女たちが住むホテルの混沌とした雰囲気は坂口安吾の小説のようでもあり、軍から借りた自動車を福岡まで返しに行く知人に拉致される如く同乗者となるその道中は「虎口からの脱出」を思い出す。「神戸」を読み終わる頃には京都着。

 

虎口からの脱出 (新潮文庫)


 火曜日は善行堂が休みということは頭に入っている。本屋回りは水曜日の明日と決めている。今日はぶらぶら歩いて、時間があれば映画でも観るつもりだ。昼過ぎに着いたのでまずは昼食をということで寺町の喫茶店スマートに行ってみる。ここのランチをしばらく食べていない。いつも店の前に入店待ちの人の姿があり、時間に追われていることの多い京都旅行ではパスをすることが多いのだ。今日は時間はたっぷりある。待ち時間には「続神戸」を読めばいい。しかし、店の前に来てみると「火曜日はランチをお休みします」という内容の貼紙がされていて断念。そのまま京都市役所の方へ進み、三月書房に向かう道の途中にあった“柳庵”という蕎麦屋に入る。店の前に書いてあったオススメのカツ丼セットを頼む。カツ丼とうどんのセット。普通のカツ丼が普通にうまい。出汁の効いたうどんもいける。個人的な経験に基づいた見解で言えば、京都で不味いものを食べた記憶がない。安いものも高いものも大抵うまい。これが文化というものなのだろう。


 腹を満たしてそのまま三月書房へと足を進めたがシャッターが閉まっており、そこに「月曜・火曜定休」と書かれていた。善行堂・スマートランチ・三月書房は火曜ダメということを肝に銘ずる。日帰りで京都に来る時は火曜は避けるべし。

 

 新京極にあるシネコンに行き4時からの映画のチケットを買い、その時間までぶらぶらと時間潰しをする。コーヒーが飲みたくなり、もう一度スマートへ行く。少し待って1階の喫茶コーナーに。この店はほとんどが4人がけテーブル。相席ではなく一人でもそこへ通してくれる。なるほど待つ人が出るわけだ。コーヒーだけでは申し訳なくなりホットケーキも頼む。今年に入って休日の朝食にホットケーキを作ることが多くなったので参考にプロのホットケーキも食べておきたい。使っているフライパンの大きさもあるのだろうがこのちょうどいい大きさの見事な円周とグッとくる厚みはやはり喫茶店の味わいだ。自分で作るとこうはいかない。


 腹ごなしに河原町から四条を歩き、ジュンク堂を覗いたり、錦市場をうろついたりして時間を潰す。4時前に映画館に入る。選んだのはアニメの「ONE PIECE STAMPEDE」。わざわざ京都まで来てなんでこの映画をと思われるかも知れないが、仕事や人生のストレスを忘れるために来ているのだから、人生を考えさせるような映画はお呼びではないのだ。ひと時をぼんやりと楽しめればそれでいい。それも映画の効用のひとつだろう。映画は古き良き時代のスター勢揃いの正月映画のように様々な馴染みのキャラクターが次々と出てきてそれらが協力して強大な敵を倒すという話。三船敏郎勝新萬屋錦之助小林旭宍戸錠石原裕次郎藤純子が一緒に出てくる感じとでも言おうか。


 映画館を出るとやはりもう秋らしく夕暮れの風情となっている。暮れなずむ鴨川べりをゆっくり散策したいところだが、今回の宿は夕食付きのため決められた時間までには戻らなくてはならない。河原町のバス停から5番のバスに乗り平安神宮の先にある宿まで帰る。

 

 宿の夕食は京懐石。優待券で宿代が格安となるため一番いいコースを選んでおいた。これが失敗。料理は見事なのだが、酒を飲まない単独者にとっては一品ずつ時間をずらして持ってこられるのは間が持たない。しかも同じ場所で何組かの客が同時に食事をとっているからあまりダラけた姿もできない。中高年の女性二人組がひたすら親族の愚痴をいい続けているのをBGMとして聞き流し、ひたすらデザートにたどり着くのを待つ。7時に始まった食事が終わったのが8時過ぎ。解放された気分で外へ買い物に出る。昼間は汗ばむ陽気であったが、夜となると風が涼しく心地よい。

 

 風が運んでくる匂いが京都動物園の近いことを教えてくれる。平安神宮の夜景を横目にして進むと煌々と光を発している建物が見える。蔦屋書店だ。夜10時まで営業しているらしい。欲しい本は明日まわる本屋で買うつもりなのでここでは前にも買った京都のコーヒーを買う。近くにこんな時間まで開いている本屋があると便利だなと思う。夜の散歩がしたくなるだろう。


 宿に戻ると床がのべられていた。蒲団に横になりながら「続神戸」を読む。「神戸」と「続神戸」は書かれた時期も発表誌も異なる。そのため単なる続編というよりは共通する人物が出てくる別の作品と考えた方がいいと思う。「神戸」では意図的に避けられていた俳句の話題が「続神戸」ではその中心部にせり出てきている。俳人・西東三鬼に関心のある人はこちらの方が興味深いかも。それにしてもこの文庫1冊読むだけで人間・西東三鬼への関心はどうしようもなく高まってしまう。帰ったら積読本の中から「西東三鬼全句集」(角川ソフィア文庫)を探し出して読んでみよう。

 

西東三鬼全句集 (角川ソフィア文庫)


 「続神戸」と森見登美彦の解説を読んで京都1日目終了。