ローファーをスキップ。

 

 今日は休日出勤の振替休日。

 朝、家から30分歩いてファミレスに行き、朝食を食べて30分歩いて帰ってくる。前半の30分は空気が冷たく、汗もかかないが、後半の30分は陽も当たり、汗がじんわりとシャツをぬらす。

 帰宅後、風呂に入り、バッグに本を10冊ほど詰めて神保町へ向かう。PASSAGEに本の補充に行くのだ。車中の読書として三宅香帆「考察する若者たち」(PHP新書)を選んだのは、「スキップとローファー」と「違国日記」を取り上げた章があったから。「スキップとローファー」は原作マンガが好きで、アニメも観ている。「違国日記」は評判がよいと聞く原作マンガを読んだことはないが、今日風呂上がりにアニメの第1話をたまたま観たら、会話で淡々と進んでいく世界にちょっと引き込まれてしまった。その2作が出てくる本なら読んでおきたい。

考察する若者たち (PHP新書)

 

 車内で本を読みながら神保町へ到着。搬入予定時間前についたので東京堂を覗く。トイレを借りに2階へ上がる。平日の昼とあってか店内には高齢男性が多い。若い人が少ないのは書店としても寂しいだろうな思いながらトイレの鏡に目をやると、外の高齢男性と何も違わない自分の顔がそこにあった。

 PASSAGEで自分が借りている棚に本を補充する。これで棚の隙間を埋めることができた。余り書店には並ばないタイプの本を何冊か持ってきたので、この棚でその本を知ってもらえるといいな思う。これで今日やるべき予定は終了。時間も昼を過ぎたので、昼食を食べようと武道館まで歩いて行く。DEENのヴォーカリストである池森秀一がやっているSOBA CAFE IKEMORIが武道館の建物内にあり、一度行ってみたかったのだ。十割そばのざるそばとかき揚げを頼む。自宅でゆでる乾麺の十割そばにはないコシのあるそばを堪能。甘い玉ねぎのたくさん入った温かいかき揚げもおいしい。大きな玉ねぎの下で玉ねぎを食べた。

 この後の予定もないので、腹ごなしに北の丸公園を歩き、皇居のお濠端に出て、日比谷までのんびり歩いていく。後ろから多くのランナー達に追い抜かれる。ここがランニングの聖地となっていることは知っていたが、平日の昼間からこれだけ多くの人がここを走っているのだなと感心する。何度もランナーに抜かれていくので、暇つぶしにそれぞれのランナーがどのメーカーのシューズを履いているのかをチェックしながら歩く。箱根駅伝ではアディダスとアシックスが優勢であったらしいが、今日のお濠端ではニューバランスが一番目についた。ニューバランスのランニングシューズは走らない僕も何足が持っている。長距離を歩く目標を立てた時にどのようなシューズを履けばよいのかをいろいろと検索し、あれこれと靴を買った。幅広の足をもつ身には4Eサイズが豊富なニューバランスはありがたい存在だった。ランニングシューズはウォーキングシューズよりもクッション性が高く、膝が痛くなりがちな中高年にはありがたい。職場に歩いて通勤するようになってローファーを履かなくなった。黒のニューバランスとエクストラワイドのあるHOKAの黒スニーカーが通勤の友となった。外国人のランナーがHOKAのシューズを履いて僕の横を走って行った。

 日比谷に着いたので、銀座まで歩く。教文館の近くまで来ると教文館の入っているビルがシートで覆われているのが見える。ついに教文館がなくなってしまうのかと一瞬ドキッとしたが、店はやっていた。何かの改装なのだろう。銀座からこの書店がなくなったら銀座に来る意味がまたひとつなくなってしまう。これからもあってほしい書店なのだ。店内を見て回っていると、これまであまり見かけなかったポップが棚のあちこちに見受けられる。それだけ積極的にアプローチしないと本が売れないのではないかとまた心配になる。以下の本を購入。

 -太田治子・太田静子「明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子/斜陽日記」(ちくま文庫

 -リチャード・デミング「私立探偵マニー・ムーン」(新潮文庫

明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子/斜陽日記 (ちくま文庫お-79-1)

私立探偵マニー・ムーン (新潮文庫 テ 27-1)

 

 

 前者は、太田治子さんのサイン本。ポップに“わざわざ店に来てサインしてくださいました”とあった。太宰治「斜陽」の資料となったとされる太田静子「斜陽日記」と彼女と太宰の子である著者の「明るい方へ」との合本。

 後者は、評判のよいハードボイルド小説。地元の本屋では見つけられなかったのでここで入手。

 

 教文館を出て、向かい側に渡り、伊東屋へ。以前にモンブランの万年筆を買ったときについたポイントの有効期限が2月となっていたので、今のうちに使ってしまおうという算段。愛用しているリーガルパッド(黄色い紙の横罫のもの)とこれも愛用している三菱ジェットストリームの新色(軸)を2本ポイント払いで購入。

 

 日比谷駅まで歩いて地下鉄に乗って帰る。少し歩き疲れたので、途中から寝てしまった。

 

 帰宅して、ぬかどこに新しくニンジンを漬ける。ぬかに水分が出てきたので干し椎茸を入れ、酸味取りにいいと聞く赤唐辛子を入れた。明日のニンジンが楽しみだ。

ふつうの人が腸活家として生活していくには。

 

 日・月の連休は両日とも休日出勤。

 昨日は仕事帰りに無印良品により、“発酵ぬかどこ”を購入。年末・年始に体重が増加し、仕事始めにスーツがきつく感じたこともあり、また長い距離を歩く上でも体重増は足への負担が心配されるため、食生活を見直している。その中で流行りの“腸活”をやってみるかという気になり、そば・納豆に続いて発酵食品のぬか漬けに手を出そうというわけ。

 “発酵ぬかどこ”はすでに発酵しているため、袋を開けて野菜を入れればすぐにぬか漬けを始めることができる。一緒に買ってきたキュウリを2本ほど漬けた。実はこの“発酵ぬかどこ”を買ったのは2度目。最初の時は、漬けた野菜のしょっぱさに辟易してすぐにやめてしまった前科がある。今回は事前に“発酵ぬかどこ”に関する動画などを参照し、乾燥昆布や鰹節を混ぜ、漬け時間も長くならないように注意しながらやってみる。

 今朝、取り出して食べてみると浅漬け状態で、塩味も強くなく、1回目の時よりも味もよい気がする。これなら続けて行けそうだ。もち麦入りのパックご飯に納豆、青さの味噌汁、キュウリのぬか漬けという“腸活朝食”をとって出勤。

 昼過ぎに仕事を終え、退勤。本屋をのぞく。

 -酒井隆史通天閣 決定版 上巻・下巻」(ちくま文庫

 -津村記久子「やりなおし世界文学」(新潮文庫

 -高野和明「乱歩賞作家の創作術」(講談社文庫)

 を買う。

通天閣 決定版 上巻 ――新・日本資本主義発達史 (ちくま文庫さ-56-1)

通天閣 決定版 下巻 ――新・日本資本主義発達史 (ちくま文庫さ-56-2)

やりなおし世界文学(新潮文庫)

乱歩賞作家の創作術 エンタメ小説の書き方 初心者ガイド (講談社文庫 た 94-6)

 

 酒井本と津村本は単行本が出たときに気になっていたのだが、買いそびれていたもの。「通天閣」は文庫版の補論が入った決定版。

 「やりなおし世界文学」は、昨日読み終わった津村記久子「ふつうの人が小説家として生活していくには」(夏葉社)を読んだ影響で手に入れた。「ふつうの人」は夏葉社社主の島田潤一郎さんが津村さんにインタビューしたもの。そこで語られる「ふつうの人」としての津村さんへの興味がかき立てられた。

 高野本は、今年の読書テーマのひとつにしている“作家による小説指南本”なので手に入れた。昨年くらいから中公文庫で小島信夫「小説作法」や伊藤桂一「文章作法 小説の書き方」などが出版されたのもきっかけとなった。“文章読本”はこれまでいろいろと読んできたが“小説指南本”はほとんど読んでこなかったので興味がある。暮れに村上春樹「職業としての小説家」(新潮文庫)を読んだのもその流れだ。「ふつうの人が小説家として生活していくには」も津村さんがどのように小説を書いているかが語られているので、ある種の“小説指南本”とも言える。帯に“何かを、書きたくなる。”とあるのもそれを明かしている。

小説作法 (中公文庫)

文章作法 小説の書き方 (中公文庫)

 

帰宅後、買ってきた大根をぬかに漬ける。明日は大根のぬか漬けが朝食の膳にのるはずだ。

箱根と箱舟。

 

 年が明けた。

 元日に散歩がてら出かけた自宅から一番近いブックオフに「1月25日に閉店します」の貼り紙があって驚く。歩いて行けるこのブックオフは最近あまり行っていなかったとはいえ、一番通った店だったので寂しい。店内には「閉店セール」の貼り紙があり、“本全品70%オフ”と書いてある。すでに多くの人が訪れたらしく、本の数も減っていて、棚のあちこちに隙間が見える。スマホ片手のセドリと思われる人もチラホラ見受けられる。閉店のショックでぼんやり棚を見ていたら、親族からのLINEが来て、電話で話す必要があるため、何も買わず、すぐに店を出て自宅に戻った。

 翌2日、箱根駅伝の往路を見終えてから改めてブックオフまで歩いて行く。ブックオフに行くためには、急な坂を下ってから上らなければならない。ちょっとした箱根駅伝の5区・6区のよう。この道はブックオフに行くとき以外使うことがほとんどない。ブックオフがなくなったら、もうこのアップダウンの道をあるくこともほとんどなくなるのではないかな。前日と異なり、落ち着いて棚を眺め、1時間近く店内をうろつき、5冊ほど本を選ぶ。店内が乾燥していたせいか、マスクをしていなかったせいか、喉が痛くなってきたので、それ以上の本棚の探索は諦めて、帰宅。喉の痛みがだんだん強くなってきたため風邪薬を飲で寝る。翌日の3日は念のため外出を控え、自宅に籠もって箱根駅伝の復路を見た。この日も風邪薬を飲んで寝る。

 4日から仕事の一部が始まり、出勤。昼過ぎまで仕事して帰宅。熱はないが、喉の痛みが続いているため本格的に仕事が始まる前に体調を戻しておきたい。風邪薬を飲んで早めに就寝。

 本日(5日)は、職場関係の墓参り。行きの車内で日本推理作家協会・編「マイ・ベスト・ミステリーⅤ」(文春文庫)から、黒輪土風「六人の容疑者」を読む。植松二郎「岩箱」(龜鳴屋)を読んだ人は、必ずこの作品を読みたくなるはず。もちろん自分もそのひとり。

 

 墓参りを終えて地元の本屋へ。

-三宅香帆「文体のひみつ」(サンクチュアリ出版)

-三宅香帆「娘が母を殺すには」(株式会社PLANETS)

-ブルボン小林「グググのぐっとくる題名」(朝日出版社

を購入。

文体のひみつ なぜあの人の文章はつい読んでしまうのか?

娘が母を殺すには?

グググのぐっとくる題名 なぜこのタイトルに惹かれるのか

 

 

 知人からきた年賀状に「三宅香帆さんのおかけで積読本が増えた」というようなことが書かれており、それを読んで気になっていた三宅本を買ってみた。ブルボン小林長嶋有)本は、“なぜこのタイトルに惹かれるのか”という副題がついており、小説・マンガ・映画等の題名について考察したエッセイ。TBSラジオ赤江珠緒のたまむすび」2022年6月1日から「マンガ、ときどき本。」のコーナーが文字起こしされているのも、「たまむすび」リスナーだった者としてはうれしい。

 帰宅後、堀江敏幸「二月のつぎに七月が」(講談社)を1章読み、『ノアの50年 編集工房ノア50周年記念冊子』(ぽかん編集室)をぱらぱらと読む。編集工房ノアの50周年を記念して多くの人が寄稿している。寄稿者の何人かも書いているが、僕も神保町のすずらん通りにあった書肆アクセス編集工房ノアの本を知った。そしてそれとともに山田稔という書き手の存在を認識するようになった。京都の三月書房に行くようになって、編集工房ノアの本を買う店が増えた。編集工房ノアのPR誌『海鳴り』をもらうのも三月書房だった。書肆アクセスも三月書房もなくなってしまった。神保町のすずらん通りにあるPASSAGEの借り棚に山田稔編集工房ノアの本を置いたりしているのは、自分が失ったものを埋めようとしているのかもしれない。

 

明日は母校の大学への出張だ。今夜も風邪薬を飲んで寝よう。

このまま黄身だけを奪い去りたい。

 

 

 今年になって低山ハイク(山歩き)を始めた。とはいえ、入院・酷暑・仕事等もあり、高尾山に10回、鎌倉の山に1回行けただけだ。せめて月に1回は山を歩きたいと思っているのだが、思うようにはいかない。それでも、楽しく歩けているのでよしとしよう。数年後に、1000㎞ほどのロングウォークを行う予定なので、来年はもっと回数と距離を伸ばしたいと思う。

 28日で仕事仕舞い。29日に父母の墓参りを済ませた。30日は重い腰を上げて大掃除。窓・玄関・水回りをやるだけで一日が終わる。

 今朝は、7時過ぎに散歩に出る。これも今年の夏から始めた休日の習慣。30分ほど歩いて隣町にあるファミレスに入る。ここで朝食(今日は初めての豚汁定食。いつもはパンとスクランブルエッグ)をとる。これは、晩年の母親が散歩途中にファミレスで朝食を食べるのを楽しみにしていたことをまねたもの。加えてこのファミレスが、以前愛読していたマンガの舞台となった店(いわゆる聖地)であるのもここに寄る理由のひとつ。食後、30分ほど歩いて帰宅。横浜らしいアップダウンのある地形なので、冬でもそれなりに汗をかく。湯船に浸かりながら、ポッドキャストでラジオを聞き、体をほぐしてから大掃除の続き。昼食は、DEENのヴォーカリスト池森秀一監修の「革命そば」というカップ麺と自作のカレースープ。「革命そば」の汁がうまい。これが今年の年越しそば。

 食後、買い物に出る。駅ビル内の本屋で今年最後の本を買う。

-津野海太郎「かれが最後に書いた本」(新潮文庫

-ウンベルト・エーコ薔薇の名前[完全版]上・下」(東京創元社

かれが最後に書いた本(新潮文庫)

薔薇の名前[完全版] 上 (海外文学セレクション)

薔薇の名前[完全版] 下 (海外文学セレクション)

 

 

 津野本は、樹木希林鶴見俊輔橋本治和田誠坪内祐三など鬼籍に入った人たちとの交遊録。過ぎた時間を振り返る大晦日にふさわしい1冊だと手に取った。

 「薔薇の名前」と言えば、「百年の孤独」とともに文庫にならない名著として名を知られていた。「百年の孤独」はついに文庫となった。対する「薔薇の名前」は文庫どころか、作者の訂正・覚書・構想メモなどを含めて元本より厚い上下2冊の単行本として現れた。文庫にはまだまだならないんだろうな。

 

 自宅に戻り、ドアに注連飾りを下げ、玄関にミニ鏡餅を置き、買ってきた材料ですき焼きの準備をする。毎年書いているが、大晦日にすき焼きを食べるのは実家の風習にならったもの。牛脂でネギを焼き、ネギの香りが油に移った頃合いで、醤油・みりん・砂糖・鰹節からなる割り下を流し込み、白菜・しらたき・焼き豆腐・椎茸・しめじを入れ、味が染みたころに牛肉を投入。肉が固くなる前に取り出して、溶き卵にくぐらせ口に。ああ、うまい。こうして年の瀬を迎えられる幸せを感じる。

   長距離を歩くことを決めたこと、入院・手術を経験したことから、体調を整えることに多少意識的になった。そのため、体にいいといわれる納豆・卵・そばなどを積極的にとるようにしている。YouTubeで体にいい食べ物の動画を見ると次から次へとオススメが出てきて、それらを見ていると何がよくて何がわるいのかが分からなくなる。配信者がそれぞれ違うことを言っているのだ。「かけそばに卵を入れるのはいいが、白身はよくない」とか、すべてを聞いていると何も食べられなくなりそうなので、適当に聞き流し、やりやすい食べ方を選んでいる。

 

  本は相変わらず買っているのだが、もともと多くもない読書量が年々減少の一途を辿っている。「今年読んでよかった10冊」なんて言われたら読んだ本を全部挙げなければならなくなりそうだ。今月は仕事に余裕があって数冊読むことができた。その中で印象に残っているのは植松二郎「岩箱」(龜鳴屋)。筆者の高校時代にサッカー部の顧問であった岩淵二郎が亡くなり、その遺品が箱に入って著者の元に届いたことによって岩淵二郎の知られざる姿を追っていくことになる。その謎が解きほぐされた時、思わず声が出た。ミステリーや日本近代文学に興味を持っている人には面白く読めると思う。限定624部なのが惜しい。もっと多くの人の手に届いて欲しい本だ。武藤良子さんの表紙絵・函・扉カットも魅力的。

   今は、堀江敏幸「二月のつぎに七月が」(講談社)を読んでいる。分厚い本なので、毎日1章ずつ、ちびちびと読んでいる。全55章あるので、それこそ読み終わるのは「二月」になりそうだ。「七月」になることのないようにしたい。

二月のつぎに七月が

 

   今年も終わろうとしています。思うにまかせないことも多いですが、日々の中に好きなこと、楽しいことを探しながら来年も生きていこうと思います。

よいお年をお迎えください。

はじめての入院(サプライズあり)。

 昨年に受けた健康診断で腸の精密検査をするように指示を受けた。
 診断で腸からの出血が見られたためだという。

 自覚症状がなく、仕事も忙しかったため精密検査を先延ばしにしていたが、今年の3月に自分がリーダーをしていた3年間のプロジェクトが終わり、時間に余裕ができたので地元の消化器科のクリニックに行って内視鏡検査を受けたところ、腸にポリープがあり、小さい2つは取ったが、大きなポリープ1つは病院に入院して手術を受けなければならないとのことだった。良性だと思われるが、大きいポリープは今後悪性の癌となる可能性があるため早期に切除しておくのが得策だと言われ、近場の大きな病院に紹介状を書いてくれた。

 GW期間中の入院は医師が手薄になるとの理由で断られ、連休明けの入院、即日手術となった。若い頃、海外旅行から帰国後に食あたりで一泊だけ(自分で救急車を呼んで)入院したことがあるが、1週間の入院(と言われた)ははじめてだ。ネットで入院に必要なものを検索し、関連動画をあれこれ見ているうちに荷物はスーツケース一杯になった。初日に手術が終われば、あとは経過観察のために病院にいるだけだから暇になることは分かっていたので、ポケットWi-Fiをレンタルし、タブレットKindleと単行本1冊と新書1冊もスーツケースに入れた。

 病室は4人部屋。初日の同室は年上と思われる男性患者が2人。耳の遠い後期高齢者に見える1人と一泊でポリープ切除手術を受けに来た前期高齢者に見える1人。後者の男性は、看護師の説明に対して「えっ」と驚き、看護師がいなくなると「オレが何でそんなことしなきゃならないんだよ」と愚痴を言い、病室に勝手にパンを持ち込んだり、退院前に病院の外に友達に会いに行こうとして看護師にとめられたりなどを繰り返していた。高齢男性のワガママ振りは世間やネットでよく聞く話であるが、目の当たりにすると自分はそうなるまいという思いが強くなる。
 耳の遠い前者の男性は、看護師の呼びかけが聞き取れないのか、反応しないことが多く、そのため看護師の人たちは大声で繰り返し声がけをしなければいけなくなり、その結果まるで大声でけんかをしているような状況が度々病室内に出来した。

 そんな状況なので病室でのんびり読書とはいかず、耳にノイズキャンセリングのイヤフォンを入れて、タブレットで動画を見ることで病室の喧噪から自分を遮断することが多かった。また、最初の2日間は、左手に点滴の管、右手の人差し指には洗濯ばさみ型のセンサーが付けられている状態であったので読書がしづらかった。その結果、観た映画が「室町無頼」、「侍タイムスリッパー」、「ザ・ファースト・スラムダンク」、「パーフェクト・デイズ」の4本。それぞれ楽しく観たが、定年を数年後に控えた身には「パーフェクト・デイズ」がやはり気になった。作中に出てくるパトリシア・ハイスミスの短編集「11の物語」は、カタツムリの写真がカバーのハヤカワ文庫でその昔読んだ。主人公の姪が言及する「すっぽん」も読んだはずだが、内容は全く覚えてなかった。姪が「すっぽん」のヴィクターにシンパシーを寄せる理由は映画では説明されない。姪が母親とけんかをして家出し、主人公の部屋を訪ねてくるが、姪と母親の間にどのような諍いがあったのかも説明されない。ヴィム・ベンダースは「すっぽん」を引用することでその説明を省略したのかも知れないと思ったが、文庫本は自宅の本棚のどこかに埋もれてしまっている。アマゾンのポイントを使ってKindleで「11の物語」を買って、休日の誰もいない総合受付前の待合室の椅子に座って「すっぽん」を読んだ。11歳のヴィクターと母親とのすれ違い、母親の無理解がスッポンを媒介として描かれ、スッポンの死がヴィクターの母親に対する殺意へと変わっていく物語。

11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 点滴とセンサーが外れた3日目からは、タブレットで溜まっていた未読のコミックスを読んだ。信濃川日出雄山と食欲と私」(新潮社)、石塚真一BLUE GIANT MOMENTUM」(小学館)、眉月じゅん「九龍ジェネリックロマンス」(集英社)、児島青「本なら売るほど」(KADOKAWA)等を読んだ。古本屋好きとしては古本屋を舞台とした「本なら売るほど」がやはり興味深い。

 「本なら売るほど」では実在する本が登場し、各話の主軸となっているのだが、その中でも思い入れのある本が出てくるのが第10話・11話「丘の上ホテル(前・後編)」(2巻に収録)。久世光彦「一九三四年冬ー乱歩」(集英社)が登場する。この作品は最初集英社のPR雑誌『青春と読書』に「乱歩は散歩」の題名で連載されているのを知って一部を読んでおり、改題されて大きめの単行本になってから通読した。作中に乱歩作として短編「梔子姫」が創作されていて、その完成度の高さに驚き、久世光彦という才人を知った。久世作品としては「卑弥呼」(新潮文庫)と並んで好きな本となった。「本なら売るほど」では僕の読んだ単行本で登場しているのもいいし、舞台となる「丘の上ホテル」(もちろん「山の上ホテル」のこと)も一度泊まってみたいと思いながら果たせなかったこともあり、作中で一番気に入った話となった。

 

本なら売るほど 1 (HARTA COMIX)

本なら売るほど 2 (HARTA COMIX)

一九三四年冬-乱歩

 


 術後の経過も良好で、本日無事退院となったが、荷物をスーツケースに仕舞い、病室で退院許可書が来るのを待っている時に、背後で大きな音がして振り向いてみると耳の遠い入院患者の男性が頭を抱えて倒れており、慌ててナースコールで看護師を呼んだ。担架に乗せられ運ばれていく男性は看護師の呼びかけに何も応えず頭を抱えていた。意識がないのではなく、耳が遠いためにその呼びかけが聞こえていないことを願って病院を後にした。体重は入院前と比べ4キロ減っていた。

 スーツケースに入れていった衣類のほとんどは使わなかった。持って行った単行本と新書も結局1行も読まなかった。無駄なものが入った重いスーツケースを持ち帰ることになったが、初めてといってもいい入院で何が必要で何が必要でないかを学ぶことができたのでよしとしたい。
 この入院で一番驚いたのは、入院当日の手術室で、鎮静剤で少しずつ朦朧としていく僕に執刀医の先生が、「××さん、今日は○○クリニックの△△先生も手術に立ち合ってくれます」と声をかけ、この病院に紹介状を書いてくれた地元の先生が突然現れたことだった。手術にサプライズゲストがくることがあるのかと思いながらまどろみ、手術が終わった時には△△先生の姿はもうなかった。あれは現実だったのだろうか。

復刊という意志。

 3月11日。

 

 気がつくと職場で黙祷をしなくなっていた。

 

 こうやって人々は少しずつ何かを忘れていく。

 

 忘れないために今年もこの歌をここに貼り付けて残しておく。

 


www.youtube.com

 

 

 仕事帰りの本屋で、文庫本を2冊買う。

 

-ガブリエル・ガルシア=マルケス「族長の秋」(新潮文庫

-庄野英二星の牧場」(ちくま文庫

 

族長の秋 (新潮文庫 カ 24-3)

星の牧場 (ちくま文庫し-59-1)

 

 前者は集英社文庫の、後者は角川書店から出た本の復刊。復刊というのもその本を忘れないという意志の表れだろう。

 

Walk Don’t Climb。

 今年に入って休日に長い距離を歩くことを始めた。定年後にあることをしようときめたので、その計画のための準備を始めたわけだ。

 最初は街歩きをしていたのだが、計画の詳細を調べてみると1000キロ以上歩く行程の中の2割が山道であることが分かった。その中でも16キロ以上の山道を6時間かけて歩く難所があるという。つまり山道を歩く準備も必要だということだ。

 そこで、YouTubeの登山系動画をあれこれと視聴し、近場のアウトドア専門店やトレキングシューズに詳しいシューズショップなどを訪れ、あれこれとグッズを揃えはじめた。

 グッズがあっても登る山がなければ仕方がない。電車で気軽に行ける一番近い山は高尾山である。とは言ってもこれまで一度も足を踏み入れたことがない。そこで2月9日にとりあえず現地視察に行ってみた。登山ではなく視察なので、ケーブルカーに乗る。日本一傾斜が急なケーブルカーであることを誇らしげにアナウンスするだけあってその傾きかげんにちょっと怖くなる。ケーブルカーを降りると山の中腹である。ここから30分も歩けば頂上だということなので、ニューバランスのスニーカーという出で立ちで山頂まで行ってみた。よく晴れた日で思いのほか近くに見える富士の姿に思わず写真を撮った。高尾山いいじゃないかという気になった。

 翌週、モンベルのウエアにローンピーク9+というトレランシューズを履いて高尾山へ再び出向き、今度は自分の足で6号路という沢伝いのコースを選んで、山頂まで登った。帰りは途中に吊り橋のある4号路を通って中腹まで降り、そこで日和ってケーブルカーに乗って下山し、麓の店で天ぷらそばを食べて帰った。山にいたのは2時間ほどだった。

 一応歩いて山頂までいったため、高尾山はクリアしたという気分になり、他の場所も行ってみたいと探してみると鎌倉に山道を歩く初心者向けの天園ハイキングコースがあると知り、翌週行ってみた。北鎌倉駅で下車し、建長寺まで歩く。500円払って建長寺に入ると天園ハイキングコースの入口がその中にあった。石の階段を嫌というほど上り、半僧坊という天狗の銅像のある場所を過ぎると山道が始まる。途中の展望台でまたもや見事に晴れた空に富士の姿が見えた。初心者向けのコースではあるが、途中ロープを使って降りる急な岩場があったりもするので普段着で行くと困る程度にはちゃんと山道であった。コースガイドでは2時間45分となっていたが、それほど寒くも暑くもない気候であったのでずんずんと進み2時間弱でゴールの瑞泉寺に到着。そこから歩いて鎌倉駅前へ出て、公文堂書店古書店)とたらば書房(新刊書店)に寄り、鳩サブレーで有名な豊島屋の3階にあるパーラー(ここが意外とすいていた)でカツカレーを食べて帰って来た。

 さて次はどこの低山ハイクをしようと考えている自分に気付いてハタと立ち止まった。自分は登山をしようとしているのではなく、長距離歩行の練習をしているのだという原点を思い出した。山道は全体の2割であり、8割は市街地の舗装道路を歩くことになる。それが1000キロ以上続くのだ。市街地と山道を連日歩く練習が必要なのではと思い至った。

 3月9日(日)と本日10日(月)はともに仕事が休みのため連休となる。練習にはもってこいのスケジュールだ。とりあえず、1日20キロ程度を歩く練習をしたいと考え、自宅から片道10キロの場所を探してみると横浜駅が出てきたので、昨日は朝食をとってから家を出て、横浜駅まで歩き始めた。天気もいいので気持ちよく歩くことができる。これまで何度も乗車してきた東横線沿線であるが、歩くのはほとんど初めてと言っていい場所も多い。東京近郊の温泉地として名を残していた綱島温泉の跡地周辺には巨大なタワーマンションが建ってた。大倉山・菊名・妙蓮寺・白楽と過ぎる。寄りたい本屋がいくつかあるが、時間がまだ早いので帰りに寄ることにする。東白楽で、六角家(家系ラーメン)のあった場所に別のラーメン屋が入っていることを知る。反町を過ぎて横浜駅に到着。東口から西口に出て、復路に突入。時間も昼近くになり、空腹も覚えてきた。横浜駅西口近くから東白楽まで続く緑道があるのを発見し、東白楽まで快適に歩く。土地勘のある白楽に着いたところで、気になっていたトンカツ屋に入って昼食。エネルギーを補充してから、白楽駅を過ぎたところにあるTweedBooks、妙蓮寺駅近くの石堂書店・本屋生活綴方を覗いてから帰る。アップルウオッチのデータだと計24キロ歩いたことになる。

 本日は、みたび高尾山に向かう。市街地を歩いた翌日に山道を歩く練習である。とは言っても高尾山の麓と山頂を往復しても約6キロにしかならない。本番では16キロの山道を一日で歩くことが求められる。距離を伸ばすためには、高尾山山頂から続く小仏城山、景信山、陣馬山へと距離を伸ばす必要がある。陣馬山まで行けば約18キロの行程となるが、まだ練習を始めたばかりの上に昨日の疲労もあるため、今日は小仏城山まで行って帰ってくるルートを選択した。土曜日に雪が降っているためコースが泥沼化している心配もあったので、高尾山山頂へは舗装道路である1号路を選んだ。ところがこのルート一番距離が長い上に、最初からずっと急坂が続き、予想以上にきついコースだった。車の通れる舗装道路では登山をしている喜びも感じづらい。そのため、途中から4号路へコース変更する。多少道はぬかるんでいても、山道をあるいている方が気持ちがいい。山頂では今日も見事な富士が見えた。少し休んでから、小仏城山へ向かう。片道2.3キロほどだが、木の階段のアップダウンが多く、道もぬかるみ、なかなか歩きづらい。靴を泥だらけにしながら、昼前に小仏城山へ到着。平日ながら、多くのハイカーがいた。そのほとんどが自分より年上と思われる高齢者達だ。ヒーヒー言いながら歩いている自分が少し恥ずかしくなる。小仏城山の売店は休みのようだった。空いているテーブル席に腰を下ろし、昼食にする。保温ボトルに入れてきた熱湯で、カップヌードルを作り、コンビニで買ったおにぎりと一緒に食べる。山頂で食べる温かいものは格別美味しく感じられる。ここでも松越しの富士山を堪能。

 栄養補給もでき、元気を回復して復路に突入。一度通った道は短く感じられるのか、あっという間に高尾山山頂に戻ってきた感じ。さすがに足の筋肉痛がひどくなってきたので、途中のリフト乗り場まで歩いて、そこからリフトに乗って麓まで下山。このリフトが安全バーのないタイプで、しかも、大きなバックパックを前に抱えて乗っているため前に持って行かれそうな不安定さもあり、高所恐怖症気味の自分にはなかなか怖い乗り物だった。

 高尾山口駅にあるセブンイレブンで、この店オリジナルの高尾山Tシャツ(モンベル製)を購入。今日が61歳の誕生日なので自分へのプレゼント。

 地元の駅ビルで鎌倉ロールケーキを買ってきて、家に帰って食べた。1年前にはこんな山道を歩く誕生日を迎えるようになるとは想像もしなかった。