天下に一冊。

 今日は屋内仕事が休み。年末最後の3日間の休みはやること(大掃除その他)が目白押しのため、遠出をするのは今日がラストチャンスということで、新幹線に乗り京都へ向かう。先月『ぽかん』最新号(8号)も出たのでそれも手に入れたい。


 車内では「カササギ殺人事件」の続きを読む。やっと下巻に入った(読むのが遅いのです)。下巻を読み始めると、この長編が何故上下巻に分かれているのかがよく分かる。



カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)


 11時前に京都着。もっと早い時間の列車でも来られたのだが、来たところで行きたい本屋が開いてなければ意味がないので、この時間がベスト。さすがの京都も平日の水曜日なので、それほどは混んでいない。ここからは勝手知ったるいつものコース。出町柳へ出て自転車を借りる。鴨川を渡り、出町枡形商店街へ。小ぶりなアーケードの商店街の中に“出町座”というミニシアターや古本屋があると知り寄ってみる。映画をみる余裕はないので、古本屋の“ふるほん上海ラヂオ”へ。自分の本を3冊持っていくと店にある1冊と交換できるというサービスをやっている。店にいる時にも本を持ってきたおじさんが交換してもらっていた。初めての店なので挨拶がわりに1冊。

  • 高島俊男「ほめそやしたり、クサしたり」(大和書房)


ほめそやしたりクサしたり



 講談社エッセイ賞受賞の「本が好き、悪口言うのはもっと好き」に続く、第2弾エッセイ集。「本が好き」が2度も文庫化されている(最近もちくま文庫版が出た)のだが、こちらは親本絶版のまま。1冊持っているが、美本で安かったので買っておく。誰かにプレゼントしてもいいし。


 商店街にあるもう一軒の古本屋“エルカミノ”にも寄りたかったのだが、まだ準備中だったので諦める。



 丸太町通まで下り、誠光社へ。出ていることを知らなかった本と雑誌を購入。

  • ブルボン小林「ザ・マンガホニャララ」(kraken)
  • 『街の手帖 池上線』(コトノハ)


ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論



 前者は『週刊文春』で連載していた「マンガホニャララ」の2013年2月14日号から2018年5月27日号までの連載をまとめたものが中心となっている。2008年から始まった連載はこれまで「マンガホニャララ」と「マンガホニャララロワイヤル」の2冊として文藝春秋から出版されていたが、「ロワイヤル」の売り上げが悪かったので3冊めは文藝春秋から出してはもらえなかったとこの本の「あとがき」に書いてある。今年の10月に書かれた「あとがき」の最後には《まだまだ連載は続く(多分)》と書かれていたのだが、12月27日号で連載は最終回を迎えた。年の瀬の寒さがなんだか身にしみる。

 後者は五反田南部古書会館で行われた第45回「本の散歩展」の密着レポが載っているので購入。東京大田区で作られた池上線のミニコミを京都で買うこの倒錯した感じ。嫌いじゃない。




 鴨川をもう一度渡り、二条通りに出て、みやこめっせ前の蔦屋書店をのぞいてから白川通に左折し、銀閣寺方面に向かいホホホ座へ。ここでも出ていたことを知らなかったCDを1枚。

  • 矢野顕子「ふたりぼっちで行こう」(VICTOR)

ふたりぼっちで行こう (初回限定盤)


 矢野顕子のデュエット集。お相手は吉井和哉YUKI奥田民生大貫妙子上妻宏光平井堅前川清など。



 時刻は1時を回り、空腹を覚える。自転車は白川通を進み恵文社一乗寺店を目指している。昼を食べるのならあそこでと以前から思っている場所がある。それはこの通りに面している“天下一品”の総本店である。このラーメンチェーンのことは知っていたのだが、まだ一度も入ったことはなかった。その総本店がこの場所にあることに驚きつつこの前の道を何度となく通ってきた。これまでも入ろうと思ったことはあったのだが、その度に店の前の行列に気後れして素通りすることになった。今日は、平日ということもあるのか、店の前に誰も並んでいない。これはチャンスと自転車を駐めて入店。入ってすぐに「今日はもう餃子は終わりました」と告げられる。頭の中にラーメンと餃子のセットを思い浮かべていたので出鼻をくじかれた感じ。周りは常連ばかりで、誰もメニューなど見ていない中でメニューを凝視し、悩んだ末にラーメンと回鍋肉の定食を頼む。この手の店のお約束で、店員の矢継ぎ早の質問に答えないと注文もさせてくれない。「スープは“こってり”か“あっさり”か」、「麺は“普通”か“細麺”か」、「ニンニクは入れるのか入れないのか」など。なんとか課題をクリアして、こってりのスープに入った普通の麺をニンニク抜きでいただく。ラーメンは悪くなかったのだが、店内のポスターにある“聖地巡礼”の言葉がちょっと気になる。店を愛する客が総本店を“聖地”と呼ぶのは気にならないが、店側が己をそう称するのはちょっとねと思ってしまう。まあ、一度入れたから満足する。



 恵文社一乗寺店は行く度に店舗が左右に広がっているのではないかと思う。ここで今回の京都来訪の目的の一つである『ぽかん』を入手。『ぽかん』の表紙の装画の入った便箋がサービスでついていた。



 来た道を銀閣寺前まで引き返す。銀閣寺の入口近くの白川通沿いに新しいコーヒースタンドが出来ていたのでそこでホットコーヒーを二つテイクアウト。ニューウェーブ系の店で若い女性が独りでやっている。こちらも、「ホット2つ」といったいい加減な注文は許してもらえない。まず豆の種類を選び(「オリジナルブレンドで」)、そして淹れ方を選ぶ(「ペーパードリップで」)。


 そのコーヒーを手土産に善行堂の扉を開ける。いつも通り突然の来店に山本善行さんがいつものように驚いてくれる。ああ、また善行堂に来ることができたなあとうれしくなる。善行さんは白い頬髭が生えており、なんだか植草甚一みたいでカッコいいなと思う。店にはジャズのレコードがかかっている。持ってきたコーヒーを飲みながら楽しくおしゃべり。そして店の棚をじっくりと見せてもらう。今日は5冊ほど選ぶ。
その中でも一番の買い物は保昌正夫「七十まで−ときどき勉強ほか」(朝日書林)。著者の70歳を記念して出版された限定500部の雑文集。恩師・薬師寺章明先生への追悼文が入っているだけでなく、ページに倉敷の蟲文庫のしおりが挟まれているという逸品だ。限定500の中でもこんな本はこの1冊だけだろう。以前に蟲文庫に置かれていた本なのかもしれない。



 1時間半ほどお邪魔して善行堂を後にする。出町柳で自転車を返し、電車で京都市役所前へ。三月書房をのぞいてから“100000tアーロントコ”と“WORKSHOP RECORD”の入ったビルへ行く。ここからはレコードタイム。前者で1枚。後者で2枚。

With the Benny Goodman Sextet [12 inch Analog]

グレン・ミラー物語(紙ジャケット仕様)

Another Opus(US STATUS RVG刻印,ST8244)[Lem Winchester][LP盤]


 京都駅で50円引きのカツサンドを買ったら賞味期限が19時までですと言われる。新幹線に乗り込んで早速カツサンドを口に運び、また「カササギ殺人事件」を読みながら帰る。