精興社と誠光社。


 休みが取れるかはっきりとしていなかった日曜日だったが、土曜に「明日は休む」と決めた。

 そのため、土曜の仕事帰りに本屋へ寄り、『ひとりで歩く京都本』(京阪神エルマガジン社)を購入した。もちろん、翌日に京都へ行くためだ。


ひとりで歩く京都本 (えるまがMOOK)


 今日の朝、5時に起きて朝風呂に入り、さっぱりとしてモヤモヤ頭の後ろでわだかまっている仕事のことは忘れて、新横浜から8時の新幹線に乗って京都へ向かう。

 車中の読書は読みかけのこの本。


その姿の消し方

 偶然手にした絵はがきに書かれていた謎の詩らしきものを書いた作者を探るモチーフを持った連作短篇からなる長編小説。もちろん、本文は精興社。数日前から1日1編ずつ読み始めた本をそのまま鞄に入れてきた。


 それぞれ独立した短篇として『yomyom』『新潮』『芸術新潮』『文学界』などに発表されたものなのだが、こうして発表順もバラバラに並べられてみると、それぞれの独立した境界(始まりと終わり)もなにやら不分明な曖昧模糊としたものに溶解して行き、それが少しまどろっこしいような心地よいような不思議な感覚に抱かれているうちに京都着となった。


 天気予報は日中曇りであるがその後に雨という。レンタサイクルで目的の本屋を回ろうという計画なので、とにかく雨に追いつかれないように素早く行動したい。地下鉄と電車を乗り継いでいつも利用している出町柳駅近くのレンタサイクルの店に向かう。まず、地下鉄の京都駅ホームの混雑ぶりに驚く。日曜の京都を甘く見ていた自分に気づかされる。これじゃ東京の平日朝の通勤ラッシュと変わらないよ。

 出町柳で自転車にまたがる。古本屋が開くのはだいたい昼頃だから、まず確実に開いている新刊書店からせめることにする。鴨川沿いを三条方面へと走る。川沿いに並んでいる桜並木がキレイだ。桜の花咲く京都に来たのなんていつ以来だろう。鴨川を渡って京都市役所前方面へ。三月書房から回ろうとしたが、店はまだ戸を閉めたままだった。すでに吹く風にかすかな水滴を感じていたので、すぐに別の店に向かう。


 もう一度鴨川を渡り、平安神宮へ向かう。神宮前に『ひとりで歩く京都本』で知った蔦屋書店があるのだ。『京都本』で見る限り、代官山と同じコンセプトの店らしい。そしてその2階には“京都モダンテラス”というレストランがあるらしい。そこでちょっと早めの腹ごしらえもしてしまおう。目的地に着いてみると書店の横の広場では踊りのイベントをやっており、想像以上の人であふれている。蔦屋書店も混んでいたが、レストランも70分待ちということで早々に退散する。


 三たび鴨川を渡り、丸太通から右折して入った路地に誠光社があった。最近できたこの書店に来るのはもちろん初めてだ。迷わずこれたのはこれも『ひとりで歩く京都本』の地図にちゃんと載っていたから。こぢんまりとした店なのだが、その昔からある建物の風情をうまく利用した居心地のよい店内と欲張らない棚作りは、先日行った荻窪のTitleに共通するものがある。ただ、Titleには奥にカフェスペースが独立したカタチであるところが違っているけれども(そこで食べたフレンチトースがなかなかよかった)。気になった2冊を購入。

  • キッチンミノル(写真)「春風亭一之輔 欧州篇」(キッチンミノル写真文庫)
  • 赤井稚佳「Bookworm House & Other Assorted Book Illustrations By Chica Akai」(恵文社一乗寺店



 外に出て自転車を漕ぎ出すとまた雨の気配が。先を急ぐ。四たび鴨川を渡り、二条の通りをまっすぐ進み白川通に打ち当たって左折、しばらく進んで左にファミリーマートが見えたところの先を右折するとホホホ座があった。ここも『ひとりで歩く京都本』の地図を頼りに無事到着することができた。もとガケ書房の山下さんが始めたこの店で今夜その著書である「ガケ書房の頃」(夏葉社)の出版イベントがあると知り、ここに来ればその本が手に入るはずと思って向かってきたのだが、すでに店頭に並べた分は売り切れてしまった後であった。しかし、その様子をSNSで知った夏葉社の島田さんが在庫を取り置きしておいてくれるようにホホホ座に手配をしてくれたので無事入手することができた。その親切に感謝しつつ、鶴見俊輔「『思想の科学』私史」(SURE)とともに購入。




 
 まだ、雨は本気で降ろうとはしていないが、いつその気になるかもわからないので白川通銀閣寺方向に進み、善行堂を目指す。