谷崎ジャンクション。


 仕事帰りの本屋で、漫画コーナーの平台に1冊だけ残っていたこの本を慌てて取り上げる。




 中央公論新社のHPにweb連載されていた頃から書籍化されるのを楽しみにしていたもの。発売になったと聞いてから地元の本屋で毎日のようにチェックしていたが、昨日まで影も形もなかった。それが今日突然その姿を現し、しかも最後の1冊になっていたのだから手も伸びるというものです。


 帰宅すると通販で購入したLPが届いていた。


ソウル・ジャンクション

ソウル・ジャンクション



 早速、ターンテーブルに載せて、それをBGMにしながら「谷崎万華鏡」。お目当ては高野文子「陰影礼賛」と山口晃「台所太平記」のふたつ。全11作を通読してみて、それぞれなかなかのクオリティの作品が揃っているが、やはり印象深かったのは高野&山口作品だった。
 高野作品は漫画というよりは、「陰影礼賛」の本文につけられた挿絵のよう。漱石作品の挿絵のような、淡い墨絵風の愛らしい絵を見ながら本文を読んでいるうちに谷崎潤一郎の文章がいつの間にか高野さんが書いた文のように思えてくる不思議。
 1枚の淡彩画のような高野作品に対して山口作品はまさに大河小説。谷崎本人を思わせる千倉磊吉の家に勤めた女中たちの回想録なのだが、それぞれの女中たちのキャラクターがしっかりと造形されており、ひとりひとりが興味深くこちらに迫ってくる。特に最初の女中である“初”は鴨川つばめマカロニほうれん荘」の“きんどーさん”そっくりの顔立ち。これがなんとも愛すべき存在で印象深い。美形なのに自転車で川に飛び込み、額から血を流して上がってくる“銀”も忘れがたい。女中たちそれぞれの姿を追っているうちに千倉家の時間が流れて行き、最後の頁にくると長編小説1冊を読んだような噛みごたえのある作品になっている。谷崎の書いた「台所太平記」は未読なので、これはちゃんと読んでみないとと思わせる力のある作品だ。