四国陶然。


 ふと気づくともう8月も終わろうとしている。


 小学生の頃からこの時期になると今年の夏も何もできなかったなという寂しいようなもどかしいような気持ちになる。今年も仕事以外に旅行に出ることもなく、映画館にもコンサートホールにも行かなかった。


 家を出てそんなことをぼんやりと考えて歩いているとばったりと知り合いに会う。知り合いは今朝、香川から帰って来たところだという。四国は足を踏み入れたことのない場所。一度行ってみたいと思いながら別れ、職場へ。


 野外仕事をしていると人が訪ねてくる。彼も今朝の夜行バスで香川から帰って来たという。いいなあ、讃岐うどんを食べにいってみたいなと思っていたら、土産にうどんをもらってしまう。


 さっそく茹でて食べたいところだが、すでに昼食は注文済み。うどんのイメージをカツカレーでかき消す。


 午後はひたすらエクセル仕事。この仕事をする度、僕の知らないすごい裏技があって今カチャカチャやっている作業が数個のキーを押すだけですんなり終わってしまうのではないかと夢想してしまう。機会を見つけては同僚のエクセル作業を後から覗いてみるのだが、みんな示し合わせたかのようにそんな技があることを気取らせるようなそぶりを見せない。


 けっきょく地道にキーを叩き続けるしかなく、気づけば職場に残っている最後の2人に入っていた。


 駅で最後の2人となった同僚とも別れ、1人になる。そしていつもの本屋へ。



 “近現代日本の作家翻訳 谷崎潤一郎から村上春樹まで”という副題のあるこの本を買ったのは、以前に同じ筆者の「翻訳街裏通り わが青春のB級翻訳」(研究社出版)を読んで面白かった記憶があるからだ。この本では副題の谷崎、春樹をはじめ、佐藤春夫芥川龍之介堀辰雄中島敦三好達治立原道造堀口大學中村真一郎長谷川四郎三浦朱門古井由吉吉行淳之介富岡多恵子池澤夏樹小島信夫野坂昭如といった作家たちの翻訳についてとりあげている。小島信夫訳のマラマッド「レンブラントの帽子」について言及されているのが個人的には興味深い。


 帰宅後、読みかけであった西原理恵子毎日かあさん8 いがいが反抗期編」(毎日新聞社)を読み継ぐ。サイバラかあさんの息子も中学生となり、底なしの食欲を見せ始める。思い起こせば中高時代が人生で一番メシが食えた時期だった。食ったそばから腹が減っていった気がする。腹が減ったら我慢が出来ず、インスタントラーメンを作るのさえもどかしく、そのままの麺にスープの素の粉末をかけてベビースターラーメンの要領でむさぼりついていたくらいだから何だって食べられた。


毎日かあさん8 いがいが反抗期編

毎日かあさん8 いがいが反抗期編


 そういえば西原理恵子は四国の高知出身だった。今日は四国に縁のある日だ。さっき「文豪の翻訳力」に出てきた村上春樹の「海辺のカフカ」も確か四国が舞台であったなあとまだ見ぬ島に思いを馳せる。