昭和と東京。

 昨日、一昨日と日が落ちてからの寒さを恐れて一枚多めの服装をしたことを後悔するような春の自己主張の暖かさであったことがまるで嘘のような今日の風の冷たさに少し猫背になる。


 野外仕事で冷えた体を屋内の机仕事で温めてから退勤。


 本屋へ。そろそろ出ているのではないかなと思って探してみるとこの2冊がエッセイの棚におさまっているのを発見する。


ここが私の東京 [ 岡崎武志 ]
昭和にサヨウナラ


 それぞれタイプの違ったセンスのいい造本といい、同じ時期に休刊した雑誌『en-taxi』に連載していたものがベースになっていることといい、まるで二卵性双生児のような2冊。
 前者は、昭和の東京に上京してきた文学者や漫画家、ミュージシャンを中心としたポルトレ集。後者は昭和の東京で活躍した作家、役者、編集者たちへのレクイエム集。



 帰宅前に寄ったコンビニで『ビックコミック』4月25日号を買う。お目当ては巻頭カラーの読み切りで載っている谷口ジロー「何処にか」と最近コミックスの8巻が出たばかりのジャズ漫画「BLUE GIANT」の2作。「何処にか」は小泉八雲と思われる人物が明治三十年の東京を歩く。松江、熊本、神戸に暮らしていた八雲も上京者のひとりと言っていいだろう。次号に続編が載るということなのでそれも読みたい。「何処にか」を読み終わって頁をめくると「BLUE GIANT」が始まる。主人公のサックス奏者・宮本大は仙台からの上京者だ。東京で一番のジャズクラブで演奏することを目指して物語は展開している。熱い漫画。


BLUE GIANT 8 (ビッグコミックススペシャル)


 “昭和と東京”ということで言えば、最近毎日1編ずつ読んでいる片岡義男「コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ」(光文社)もまさにそういう小説だ。1960年から1973年までの作者の自伝「勤労」小説と帯にうたわれている。今、1967年まで読み進めているのだが、ある意味この作品は神保町小説と言える側面を持っている。作者は、神保町の街角で小さなナイフで鉛筆を削り、その町の喫茶店をハシゴしながら原稿用紙に鉛筆で文章を書くことで生活している。そしてその周囲ではいつもアナログレコードが回転し、音楽が流れている。僕もレコード棚からアルバムを1枚抜き出して、ターンテーブルにのせてみる。先日京都で買ったJohnny Smith「Moonlight in Vermont」(roost records)だ。これは、昔読んだ油井正一「ジャズ ベスト・レコード・コレクション」(新潮文庫)所収のエッセイで片岡義男氏が紹介していて知ったアルバム。スタン・ゲッツが参加しているのもいい。昭和の東京のジャズ喫茶でもきっと流れていた一枚。



コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。
ヴァーモントの月