探書探訪。


 年に一度の海辺の公園での野外仕事の日。朝5時放送の渡辺篤建もの探訪」を横目で見ながら支度をして部屋を出る。


 海辺の私鉄の駅まで車内で読書。今日の携帯本はこれ。

  • 北村薫「冬のオペラ」(角川文庫)


冬のオペラ (角川文庫)

冬のオペラ (角川文庫)


 “名探偵”を名乗る巫弓彦が登場し、姫宮あゆみという作家志望の女の子がその活躍を記録する。この“姫宮”という姓は北村さんの出身地近くにある駅名の「姫宮」から取ったのではないかと思う。「建もの」の次は「名探偵もの」だなと思っているうちに本日の下車駅に到着。



 例年この仕事は天候に恵まれ日焼けしそうなくらいには暑さを感じることが多いのだが、今日はずうっと曇り空で吹く風も肌寒い。ウインドブレーカーで体温を維持しながら仕事をこなす。


 帰り道、これは例年通りに海辺の駅前にあるおばあちゃんがやっている小さな本屋に寄る。毎年、まだおばあちゃんは健在だろうかと少しドキドキしながら店に入るのだが今年もレジ奥の椅子におばあちゃんの姿があった。よしよし。文庫棚から1冊選んでレジへ。


わずか一しずくの血

わずか一しずくの血


 2013年に亡くなった連城三紀彦の生前単行本化されなかった「わずか一しずくの血」(文藝春秋)が先月刊行されたので読んだ。この人の本を読むのは20代の時に「戻り川心中」や「敗北への凱旋」を読んで以来だった。久しぶりに読んだ連城作品はなんだかねっとりとしたものに身を覆われるような独特の読書体験で、そのねっとり感がまだ身内に残っていて今日のセレクトになった。
 昨年もそうだったが、もうおばあちゃんは座っているだけでレジで応対をしてくれるのはサポート役の別の人だ。昨年は年配の女性だったが、今日は初老の男性だった。丁寧にきっちりとカバー(書皮)をかけてくれる。店にいる時に印象的だったのは、中年の女性が店に顔を出しておばあちゃんに声を掛けたこと。「昨日××さんが顔を出したでしょ。だから今日は私」と言って挨拶だけですぐ店を出て行った。たぶん、おばあちゃんの様子を気にして何人かの人が日替わりで覗きにきているのだろう。来年もまたおばあちゃんに会えるのか、それとも僕の方がこの街に来なくなるか一体どっちなのだろうと思いながら店を後にする。



 職場に戻り、気になっていた仕事を済ませて退勤。いつもの地元の本屋へ。

 まずは単行本棚で北村薫「遠い唇」(KADOKAWA)を探す。北村さんの最新短篇集だ。9月末に出ているのだが、未だにこの店には姿を見せない。今日もふられた。「冬のオペラ」を読んでいるのもこの「遠い唇」を読むためなのにな。「遠い唇」所収の「ビスケット」という短篇が“巫弓彦”ものらしく、これまでの作品を知らずに読むのは味気ないのでそれを読むための準備運動としての「冬のオペラ」なのだ。まあ、まだこちらも読み終わってないんだから気長に探そう。
 探書と言えば同じように最近この店で毎日探して毎日ふられている本がある。それは黒田龍之介「寝る前5分の外国語 語学書書評集」(白水社)だ。まさにその書名通り、寝る前に5分ほど読む枕本に最適だろうと探している。先日まで枕本にしていた荒川洋治「過去をもつ人」(みすず書房)が読み終わり、その後継者を探していて白羽の矢を立てたというわけ。仕方なしに今は中継ぎ本として中公新書ラクレの「編集手帳」を読んでいるが、枕本としては1編が短く、何編か読むのだが長さはいいとしても話題が変わるので就寝前に求める落ち着きに欠けるのだ。これまでの枕本というと吉上恭太「ときには積ん読の日々」(トマソン社)、山下賢二「ガケ書房の頃」(夏葉社)、岡崎武志「読書で見つけたこころに効く『名言・名セリフ』」(知恵の森文庫)、若松英輔「悲しみの秘儀」(ナナロク社)など。これらの後継者は今日も見つからず。


遠い唇

遠い唇

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集



 代わりにこれをレジへ。

  • 古書山たかし「怪書探訪」(東洋経済新聞社)


怪書探訪

怪書探訪


 匿名の古書コレクターがweb連載していた古書に関するエッセイをまとめたもの。古本好きには面白そうな文章が並んでいるが、1編がちょっと長いので枕本には向かないな。


 駅ビルでリンゴとカマンベールチーズとグリーンボールとベーコンを買って帰る。グリーンボールを切ってベーコンとともにストーブ(鍋)に入れ、ニンニクと塩とオリーブオイルを入れて10分蒸し煮をしたものと切ったリンゴにカマンベールチーズを添えたもので夕食。後者は土井善晴先生が勧めていたリンゴの食べ方。夕食を食べながら「ブラタモリ」を観る。先週で「ブラタモリ」の後9時からやっていた「夏目漱石の妻」が終わってしまったので土曜の楽しみがひとつ減った。残念。