散髪と活字。


 今日は年に一度の営業業務の日。


 午前中のデスクワークを終わらせ、昼食を食べてから同僚の車に乗り込む。午後を使って担当になった4軒のお得意さまに新しくできたパンフレットと菓子折りを持って回るのだ。


 気候はまだ“秋”だと認めるのをぐずっているようなこの10月半ばだが、日は着実に短くなってきており、4軒目を回り終わった5時過ぎにはもう夕方の気配がするようになった。


 今日はこのまま直帰。地元の駅前で車をおろしてもらう。いつもの本屋へ。




 講談社文庫の新刊が出ていたので早速「パンとペン」を購入。600ページを越える分量は文庫といえどもずっしりと手にその存在感を伝えてくる。

 今月から創刊された文春学藝ライブラリーの新刊から2冊選ぶ。てっきり、ソフトカバーの単行本のシリーズかと思っていたら文庫本であった。カバーは地味な紺地に白抜きの文字。340ページほどの「支那論」で1350円+税、215ページほどの「天才・菊池寛」で1110円+税はちょっとお高い印象。ともにより分量のある「パンとペン」より高額である。これがソフトカバーの単行本ならお得感ということになるのだろうが。「天才・菊池寛」の解説に坪内祐三さんの名前が見える。なるほどそうだろうと解説を開いてみると、20ページあまりある文章にこれはお得と思ったが「解説にかえて」と題され、末尾には(初出:『文藝春秋』2007年2月号)とあり、書き下ろしではないのがすこし寂しい。
 このシリーズは隔月で4冊ずつ(創刊の今月は5冊)刊行されるらしい。折り込みのチラシを見るとそう書いてある。次回12月のものでは保田與重郎「わが萬葉集」、来年2月のものでは井上ひさし「完本ベストセラーの戦後史」が興味深い。その他はあまり僕にとってそそられるものがすくない感じ。



 帰宅して、昨晩HTBで放送された「水曜どうでしょう」最新作第3夜をオンデマンドで観る。毎週1回ある放送を楽しみに翌週まで過ごす生活は子どもの頃に戻ったような喜びを与えてくれる。第1夜でアフリカにいるのにいきなり床屋に行くだけでほぼ終わってしまうのを観てこの番組の懐の深さと肩の力の抜け具合を再確認した。


 買って来た「パンとペン」をパラパラとめくる。本文が精興社文字であるのがうれしい。この文字を見ると“活字”と呼びたくなる。そんな風情が精興社にはあるのだ。黒岩さんのイメージともよくマッチすると思う。


 黒岩さんと言えば、今月の文春文庫の新刊に日本エッセイスト・クラブ編/'10年度ベスト・エッセイ集「散歩とカツ丼」があり、その中に『潮』に掲載された「明治の留学生と現代の“コピペ”問題」という文章があったので先日買って読んだ。こうして未読の文章が読めるのはうれしい。



散歩とカツ丼 '10年版ベスト・エッセイ集 (文春文庫)

散歩とカツ丼 '10年版ベスト・エッセイ集 (文春文庫)



 まだ、風邪は抜け切らない。年々治りが遅くなっているような気がする。読書にも集中できず、音楽を聴く。


ライヴ・イン・トーキョー

ライヴ・イン・トーキョー



 1973年に東京の郵便貯金会館で行われたコンサートのライブ盤。ジャケットのビル・エバンスは見事な長髪だ。ジャケット裏のベースのエディ・ゴメスも長髪。この頃はみんな長髪だったのだ。今となっては「床屋行けよ」と言いたくなる。演奏は文句なしだけど。