キッチンとホークス。


 昼過ぎに仕事を終える。


 今日は午後4時から「あいおい古本まつり」で行われる古書現世店主の向井透史さんのトークショー“理想の低い古本屋入門”の予約をしているため、いそいそと職場を出る。


 昼食もまだだし、トークショー開始の4時にはまだ時間があるため、神保町に向かい、そこで昼食と書店回遊をしてから会場のある月島に向かうことにする。


 神保町直通の電車に乗り、携帯本の堀井憲一郎「いつだって大変な時代」(小談社現代新書)を読んでいるうちに夏の疲れが身中からじわじわとにじみ出して来ていつのまにか寝ていた。

いつだって大変な時代 (講談社現代新書)

いつだって大変な時代 (講談社現代新書)


 神保町到着。さて、昼にナポリタンでもと「さぼうる2」に入るも満席。それではカツカレーでとキッチン南海に回るとここには行列が。今後の予定を考えるとあまり昼飯に時間をかけていられない。並んで待つなどもってのほかとうどんの丸香に足をのばすがこれは完全な選択ミス。キッチン南海の3倍の行列が目に入った瞬間に回れ右して目の前にあったマクドナルドに入る。チキンタツタのセットを素早く食べ、東京堂で探していたこちらを入手。

三時のわたし

三時のわたし

 毎日三時に何をしていたのかをひたすらハルミンさんがイラストと文章で記録していくというその着想が面白い。これだけでもう本としては成功だと思うが、造本と本の雑誌社という付加価値もついて一段と魅力が増している。


 このひと月ほどブログの更新をサボっているうちに8月も終わろうとしている。8月が終わるということは日本特価書籍が終わるということであることに気付き、神保町交差点を渡り、日本特価書籍へ。


 店内に入ると店はほとんど古本屋の顔になっていた。かろうじて残った新刊の棚を見つけて何度も本の背を眺め、この店で買う最後の1冊を決める。

英文学者 夏目漱石

英文学者 夏目漱石

 この店に来るようになったのは大学時代。国文学科の学生だった時だ。大学で近代文学を学ぶきっかけになったのは小学6年の時に買った夏目漱石「こころ」(新潮文庫)を読んだから。だから漱石関係の本がいいような気がしてこれにした。箱入りの瀟洒な姿も人文科学書を中心としたこの店の本として似合っているようにも思えた。


 神保町から日比谷に出て有楽町線に乗り換えて月島へ。ここへ来るのは10年振りくらいか。女友達ともんじゃを食べに来たことを思い出す。たしかその予習として四方田犬彦「月島物語」(集英社文庫)を読んだのではなかったかな。


 目指す「相生の里」は相生橋のたもとにあった。古本まつりを示す幟がはためいている。階段をあがるとすぐに書棚がならんでおり、古本好きのスイッチが入る。


 建物の中と外をあわせてもそんなに本の数が多いわけではないが、並んでいる本の平均値が高いので棚を見る満足感が高い。


 と言いながら、今回は新刊で買いのがしていた比較的軽いものを3冊。


 レジに行くと目録注文の本が当選していると告げられ、2冊受け取る。


 相生の里には水辺に面した広いテラスがあり、そこに出て少し風に吹かれる。蒸し暑い日ではあるが、吹く風は心地いい。この建物がイベントの会場として選ばれたのもなるほどと納得できた。柄にもなく携帯電話のカメラでテラスから見える景色を撮影したりする。そんなことをしているうちにトークショーの時間になった。


 会場はこの施設の図書館のような場所らしく、座った椅子の隣の壁には一面の書棚が設えられている。まだ、開始まで時間があるので書棚にあった水島新司あぶさん」を手に取る。これはまだ僕がこのコミックスを買っていた初期の頃のもの。ちょうど野村監督が南海ホークスを解雇される年の話だ。おお懐かしいと読みふけってしまい、トークショーの開始を告げる南陀楼綾繁さんの声で我にかえる。急いで「あぶさん」を棚に返そうすると壁に“老い・介護”といった本のジャンルを示すと思われる紙が貼ってあるのに気づく。この棚に「あぶさん」があるのは、62歳まで現役選手を続けたあぶさん(影浦安武)を意識したセレクトなのだろうか。

 トークショーの内容に関しては他のどなたかが詳細な報告をされると思うので割愛するが、僕が興味を持っている向井さんと言う古本屋主人が今何を考えているのかということの一端が分かり、とても面白かった。もちろんそれは向井さんという個人をこえて現在の古本屋をめぐる話として興味深いものでもあった。


 トークショー終了後、会場にいた岡崎武志さんに声をかけてもらい、僕同様にトークショーに参加していた本好きのみなさんとの飲み会に参加する。もんじゃではなく、海鮮が売りの居酒屋で、楽しい時を過ごし、8時過ぎに解散。


 帰りの電車で携帯本を読もうとするが、さっき飲んだ梅酒ロックの酔いがまわり、そのまま寝てしまった。