雨を撒いた街。

 昨晩、4日間の出張から帰って来た。


 今回の仕事では、6年振りにダンサーとしてのオファー(?)もあり、事前に踊りを覚えるためにその曲のビデオを何度も見直し、同僚とも練習をした。僕より40歳は年下の男女2人が踊っている映像を見ながら、幼い彼らに覚えられるものがどうして大人の自分に覚えられないのか不思議でならなかった。


 出張中にあったイベントの司会兼ダンサーの仕事はなんとかこなした。司会の出来に関しては多少お褒めの言葉ももらったのだが、ダンスに関してはまったく触れられず、ホッとしたやらさびしいやら。


 今回の出張は、毎晩日付を超えて働き(ダンスの特訓もあった)、そのうえ毎朝4時起きというハードな仕事でかなりこたえた。


 そんなわけで今日は休みたかったのにもかかわらず、9時から出張会議が入っていたため、目覚し時計をセットして寝た。しかし、起きると予定より1時間以上寝過ごしており、枕元に目覚しが転がっていた。慌てて家を出る。最寄り駅からタクシーに乗って何とか会議開始に少し遅れる程度で済ますことができた。


 会議を昼過ぎに済ませ、やっとフリーになる。買いたい本もあれこれあることだし、ひと月振りに神保町へと向かう。


 前回、食べ損ねた丸香で冷やし肉うどん。薄くスライスした揚げニンニクが入っているのが、疲れた身体にうれしい。


 まずは三省堂4階へ。

  • 蝦名則「えびな書店 店主の記」(港の人)
  • 『レポ』4号


えびな書店店主の記 (四月と十月文庫1) (四月と十月文庫 1)

えびな書店店主の記 (四月と十月文庫1) (四月と十月文庫 1)



 レジ横のコーナーに目を走らせると白っぽい小振りな冊子が目に入った。近づいてみると『海鳴り』23号ではないか。喜んで棚に1冊しかなかったそれをもらう。『海鳴り』というと青い表紙という印象が強いのだが、この23号はクリーム色に近い白だ。どなたかがツイッターで呟かれていたが、いつもは載っている山田稔さんの文章がないのはやはりさびしい感じ。


 次は東京堂ふくろう店。この店オリジナルの浅生ハルミンさんによるカバーが欲しいのでなにか1冊買っていこうと思っているとおあつらえむきの新刊が出ていた。

猫の本棚

猫の本棚

 これは猫が出てくる小説やエッセイを木村さんが選び、それぞれの作品について書いたエッセイ集。最後に出てくる猫本が浅生ハルミン私は猫ストーカー」であれば、ハルミンカバーを掛けてもらうのに相応しい1冊と言える。


 東京堂本店の方では、これも欲しくてたまらなかったこの本を。

  • 山本善行(撰)「上林曉 傑作小説集 星を撒いた街」(夏葉社)


上林暁傑作小説集『星を撒いた街』

上林暁傑作小説集『星を撒いた街』


 瀟洒な佇まいがうれしい。1編1編を楽しみながら丁寧に読もうと思わせる雰囲気がある。



 これらを手に伯刺西爾へ。冷しブレンドとケーキ。『レポ』からグレゴリ青山さんの旅マンガエッセイ「ふつうの旅行」などを読む。


 締めはいつもの日本特価書籍。前回来たときよりも新刊のスペースは縮小され入って右側だけになっていた。8月いっぱいで新刊の取り扱いはやめるという方向に店が着実に進んでいるのがよくわかる。あれこれ悩んだすえに1冊講談社学術文庫を買う。


 財布から千円札を抜き出す。財布も札もしんなり湿っている。昨日までの出張は野外での仕事が多かったのだが、2日に渡って突然のスコールに襲われ、雨具を通してぐっしょり濡れるほどであった。デイバックの中の財布もたっぷり雨に浸かってしまった。宿に帰って喉を潤すためにペットボトルを買おうとして財布を開けると小銭がない。札を自販機に入れようとするが、水気を含んで膨らんだ千円札はしっかり機械に拒まれ続けた。そして今日まで一日以上過ぎても財布と札から水気が抜けていない。いつまでも乾かない札を持っているのが嫌になり、乾いた紙の束に変えようとこの神保町の街に来たような気がする。


 水気と札が抜けて軽くなった財布と買った本で重くなった鞄を持って帰る。