うまい、うますぎる。


 金・土・日と続く三連休も当然のように仕事が続く。

 ただ、今日は昼過ぎまでの屋内仕事だけだから、午後だけでも休日気分を味わおうと足早に神保町行きの電車に乗るために駅へ向かう。改札口前の駅前広場の中央にクリスマスツリー状の大きな飾りがデンと鎮座している。11月になったと思ったらすぐにツリーが立った。数日前に仕事の備品を買いにダイソーに行ったら店の正面の棚一面がクリスマスの飾り用品になっているのを見てちょっとギョッとした。11月はどこへ行ったのだろう。いつから11月は12月になったのだろう。


 車内の読書はこれ。

愛と狂瀾のメリークリスマス なぜ異教徒の祭典が日本化したのか (講談社現代新書)


 さっきクリスマスの飾りを見たばかりだからまさにタイムリーな本だな。キリスト教伝来から500年の日本という異教徒の国にクリスマスがいかに根付いてきたかを探る。落語本とディズニー本で有名な著者によるクリスマス論となれば興味津々。ただ、寝不足気味なので途中で本を閉じてウツラウツラしてからまた読書再開。


 神保町駅下車。地上に出ると予想通り人波にのまれる。“神保町フェスティバル”の最終日で、晴天の日曜となればこうなるのは当然と言えるだろう。すずらん通りの車道にずらっと並んだ各出版社のブースに多くの人が列をなしている。時間は2時半過ぎ。昼食をとっていない空腹の体ではそこへ突進する力が出ない。先ずは腹ごしらえ。すずらん通りの三省堂の向かいに最近できた「タレカツ」という店が比較的空いていたので入ってみる。タレに浸したトンカツが売りの店らしい。野菜のフライとヒレカツのセットになった野菜カツ定食を頼む。

 定食がくるまでさっき立ち寄った東京堂で購入したこれを手に取る。

  • 『たべるのがおそい vol.4』(書肆侃侃房)


文学ムック たべるのがおそい vol.4


 この文学ムックの個人的なイメージは今村夏子の小説が載っている冊子という感じ。今回は彼女の作品は載っていないが、その代わり宮内悠介「ディレイ・エフェクト」という短編小説が載っていて、その評判を聞いて読んでみたくなった。少し読んで、その設定(アイディア)に驚いたところで定食が来た。タレの染みたトンカツというのもなかなかいい。


 腹を満たして外へ。さてと腕まくりをして本のワゴンの海へ。店の前が筑摩書房のワゴン。すでに本はほとんど売れてしまっていて200円均一のちくま文庫が10冊ほどあるだけだった。しかし、このフェスティバル限定販売のトートバックを売っていたので、購入する。黒地に白で青山二郎デザインのロゴマークが入り、武者小路実篤揮毫で“筑摩書房”と書かれている。シンプルで気に入った。


 次は本の雑誌社。欲しかった新刊のサイン本などをゲット。

文字と楽園〜精興社書体であじわう現代文学



 ソフトな精興社書体フェチである僕にとって「文字と楽園」はまさにど真ん中。当然のごとくこの本の印刷は精興社。精興社書体に拘泥る作家・堀江敏幸が取り上げられているのは同好の士を見つけたように嬉しい。


 工作舎のワゴンには石原さんの姿が。半額セールのこちらを入手。

歳月の鉛



 いろいろと話題になった『ハイスクール1968』の続編。工作舎らしい美しい本だ。


 そして晶文社へ。

ロンサム・カウボーイ
町からはじめて、旅へ



 1976年に出た本の2015年改版。ちょうどワゴン前に来た時に「今から50%OFFから75%OFFにします」と声がかかる。この2冊で800円は申し訳ないくらい。


 
 人波を離れて神田伯剌西爾でひと休み。いつものシフォンケーキとブレンド。「ディレイ・エフェクト」の続きを読む。2020年の東京オリンピックに向かう現在の東京に1944年の戦時中の東京が二重写しになるという不可解現象が起こり、妻の曽祖父と曽祖母そして祖母の生活をそこに見ながら主人公と妻と娘は生活する。1945年の3月10日の東京大空襲の日に物語は一つの転回点を迎え大団円へと向かっていく。アイディアを一つの世界に見事にまとめあげている。うまいなあと思う。楽しめた。



 神保町から白楽へ。六角橋商店街のアーケード入口にある“switch box あけ/たて”に初めていく。目的はクラムボン「モメント ep2」。このCDは一般のCDショップや通販サイトでは扱っておらず、限られた取扱店でのみ買うことができる。店の業種も多種多様で、美容院・鍼灸院・鮨屋など本当かいなと思うような店の名前がリストアップされている。養老乃瀧まであるよ。そして自宅から一番近いのがこの店だった。この店舗には以前古本屋“Tweed Books”が入っていて一度来たことがあるから場所はすぐわかった。目的の「モメント ep2」を無事入手。


 白楽駅まで来たところで、この先に移転した“Tweed Books”の店舗があることを思い出し、せっかくなので行ってみることにする。コーヒー焙煎のテラコーヒーやレコード屋GOKURAKUの前を通って少し歩くと“Tweed Books”があった。広い店内、木の存在感のある内装、本の品揃えなど想像していた以上にいい古本屋であるのに気持ちが上がる。店内を何度も回遊し、1冊選んで購入する。


 アメリカに住んでいる大岡昇平の息子夫婦が娘(大岡昇平の孫)に「萌野」と書いて「もや」と読ませる名前をつけた違和感が書かれている小説ということを昔読んで気になっていた作品。ここで出会えた。店内に洋品店のようにスーツの上着が飾ってあるのだが、どう見ても生地がツイードではないよなあと思っていたらレジにいた店主の方がツーイドのジャケットを着ていたので思わず顔がほころんだ。


 店を出て白楽駅まで戻る。何度もこの日記に書いたがこの街は20代後半を過ごした場所である。ここを歩くと就職したばかりのあの頃の自分や街並みが思い出される。まるで「ディレイ・エフェクト」の二つの東京のように二つの白楽がダブって見える。ただ、最近来るたびに今の白楽の方が面白い街になっていると思う。何だろう中央線沿線の街に近い面白さというのだろうか。またここに住んでもいいような気がしてくる。


 帰宅して「モメント ep2」を聴く。5曲しか入っていないのが残念に思うくらいに充実しているアルバムだ。今は最後に入っている「タイムライン」が一番しっくりくるかな。それにしても原田郁子のボーカルはワンアンドオンリーだとしみじみ思う。



 ドラマ「陸王」も今日で3話目。埼玉の行田市を舞台としたこの作品は埼玉出身者としてはやはり応援したくなる。先週の2話で埼玉銘菓「十万石まんじゅう」が出て来たときは思わず笑ってしまった。うまい、うますぎる。