懐古一番。

 仕事を終えて駅までの坂道を歩く。今年の12月には珍しい身を切るような冷たく乾いた風が正面から吹いてくる。この冬初めて手袋が欲しいと思った。


 駅ビルの本屋に入る。文芸書コーナーに目新しく平積みになったこの2冊を見つける。

それぞれの東京―昭和の町に生きた作家たち

それぞれの東京―昭和の町に生きた作家たち

 川本本は淡交社の雑誌『なごみ』2009年1月号から2010年12月号まで連載された同名のエッセイを単行本にしたもの。副題が“昭和の町に生きた作家たち”とあることから分かるように、23人の作家(映画監督、詩人、画家、写真家も含む)を昭和の東京の町に絡めて語った川本さんの得意技ともいえる本だ。ある意味既視感を覚えるこの昭和懐古本に手が伸びたのは、やはりそのラインナップに惹かれたから。池波正太郎植草甚一山口瞳向田邦子野口冨士男永井龍男成瀬巳喜男といったさもありなんという人々に混じって、桑原甲子雄松本竣介木山捷平なども入っているのに心誘われた。ただ、2009年4月号分だけが未収録となっている。いったい誰を取り上げた文章だったのだろう。気になる。


 筑摩本は筑摩書房が刊行していた雑誌『展望』の第二期(1964年〜1978年)からその時代と密接に関わった論文を採録し、各パートを担当した編者のそのパートを概観する文章と巻末に編者による座談会を収録している。1964年から1978年といえば僕が生まれた年から中学2年生までの時期になる。もちろん、凡庸な子供であった僕は『展望』など読むわけもなくその存在さえも知らなかったが、あの時代にどのような文章が書かれていたのかはとても興味を感じる。収録されている筆者たちは、山口昌男作田啓一吉本隆明臼井吉見竹内好鶴見俊輔川本三郎磯田光一篠田一士という大学時代に触れることになる名前が多い。


 1年を回顧するこの時期にこういった懐古をそそる本は気持ちにもしっくりと来るようだ。



 帰宅しておかゆとスープパスタで夕食。ここ数日どうも腸炎気味で体調がすぐれない。そのため、クリスマスイブではあるが、例年のようにコンビニで買ったケーキを独りで食べるという儀式もおあずけ。まあ、一昨日職場でコンビを組んだ後輩の同僚から手作りのフルーツケーキをもらって来て食べたのですでに済んでいるとも言えるが。


 夕食後、読みかけになっていた佐藤泰志海炭市叙景」(小学館文庫)を読了。冬のイメージが貫き、各短編間で人物の繋がりが底流する第一章と春のイメージが漂い、“産業道路”が各短編を通る第二章。どちらが好きかと言われれば今日のようなキンとした冷たさが張りつめた第一章ということになるかな。

海炭市叙景 (小学館文庫)

海炭市叙景 (小学館文庫)

 さあ、これで大手を振って映画「海炭市叙景」を観に行けるぞ。