新書をつまんで蕎麦を待つ。


 仕事を終え、バス停に立つ。


 バス停の時刻表の上に張紙があり、バスは通常の5割程度しか走っていないという。向かおうと思っている終点のバス営業所行きは30分以上待っても来ない。その営業所に昨日バスに置き忘れたものが届いているのだ。しかし、乗りたくない別の行き先のバスばかりが3度来たところで諦めて歩き出す。


 スーパーでサーモスの“真空断熱ケータイマグ”とマスクを買う。湯たんぽは売り切れていた。節電でデロンギのオイルヒーターを切っているので、保温効果の高いマグと湯たんぽを用意しようとしたのだが、片方しか揃わなかった。今日は昨日と比べてずいぶん気温が上がったから湯たんぽはなくてもそれほど問題ではないからまあいいか。


 駅ビルはすでにシャッターを閉めて闇の中だ。停電はなかったが節電のため夕方6時には閉まってしまう。そのため、駅ビル内にあるこの街で一番大きな本屋に寄ることができない日が続いている。街で唯一筑摩叢書を置いている店であるため和田芳恵筑摩書房の三十年」と永江朗筑摩書房 それからの四十年」を手に入れることができない。

筑摩書房の三十年 1940?1970 (筑摩選書)

筑摩書房の三十年 1940?1970 (筑摩選書)

筑摩書房 それからの四十年 1970-2010 (筑摩選書)

筑摩書房 それからの四十年 1970-2010 (筑摩選書)


 あきらめて街にあるもう一軒の本屋へ行く。

日本語教室 (新潮新書)

日本語教室 (新潮新書)

落語評論はなぜ役に立たないのか (光文社新書)

落語評論はなぜ役に立たないのか (光文社新書)

 井上本は2001年に上智大学で計4回行われた講演をまとめたもの。
 「落語評論はなぜ役に立たないか」は「この落語家を聴け!」(集英社文庫)の広瀬和生さんの新作。落語関係の新書はなるべく買うようにしている。


 膨らんだカバンを背負って夕食を食べに蕎麦屋へ入る。この店ではいつもカレーつけ蕎麦を頼む。蕎麦がくるまで買ってきた新書の「はじめに」をつまみ読みして過ごす。


 店を出てバスに乗り、家の近くまで帰ってくると空に大きな月がかかっていた。


 欲しいものを必要な分だけ買い、店に入って好きなものを食べる。普通に暮らせる人間は普通に暮らす。節電で照明は暗くとも月明かりで夜道は明るい。月まで節電することはない。