青空から曇天へ。 


 保守点検のため職場が出入り禁止となり、本日臨時の休業となった。


 雨の予報であるが、まだ雨粒は落ちてこない。これは早稲田青空古本祭に行くしかないでしょう。


 昼前に家を出て電車に乗る。地下鉄を乗り継いで早稲田駅へ。


 地上に出るとすぐに朱色というよりはあざやかな橙色に塗られた穴八幡の鳥居が見える。鳥居をくぐるとすぐに文庫新書のワゴンが並んでいた。


 さっそく肌色文庫を150円で2冊。


 階段を上り門をくぐるとテントが並ぶメイン会場へ到着。これまでと会計場所が逆になり、門から見て一番奥になっていた。雨はありがたいことにまだ降りそうもない。傘は手に持ったまま一番手前の台にかぶりつく。


 野外でこれほどの本がずらっと並んでいるだけでもうアドレナリンがこみ上げてくるような軽い興奮状態になっている。


 テントの梁からどこがどの書店の棚か分かるように紙が下がっているのだが、それを見なくても古書現世の棚はすぐ分かった。こちらの興味関心にフィットする本が多いのだ。新刊で買いのがしていた本を2冊見つける。

もてない男訳 浮雲

もてない男訳 浮雲

岩佐美代子の眼―古典はこんなにおもしろい

岩佐美代子の眼―古典はこんなにおもしろい

 

 前者は小谷野敦氏による二葉亭四迷浮雲」の現代語訳。原本を途中で挫折したことがあるため、まずはこちらで読んだことにしようという安直な考えもあり買ってみた。
 後者は《四歳から十三年間、昭和天皇第一皇女照宮成子内親王のお相手を勤め、女子学習院高等科卒業、結婚後、独学で京極派和歌・中世女流日記文学研究を開始…》という児玉源太郎を祖父に持つ国文学研究者・岩佐美代子さんへの聞き書き。以前に書評を読んで面白そうだと気になっていた1冊。


 この他、岡島書店(立石書店)から『彷書月刊』休刊を惜しんで1998年10月号を買う。巻頭が“古書の楽園 がっちり買いまショー”。司会=坪内祐三、チャレンジャー=岡崎武志・花崎真也・河内紀、その他座談会参加者=内堀弘高橋徹・田村七痴庵という豪華なメンバー。


 会計場所にいた向井さんと岡島さんに挨拶し、来年予定しているある仕事の相談などをして会場を出る。


 歩いて都電荒川線早稲田駅へ。ここから都電に乗るのは20年振りくらいかも。電車が動き始めた頃に窓にぽつりぽつりと雨が落ちてくる。やはり、都電はいいなあと思っている内に鬼子母神前に着いた。


 傘をさして鬼子母神横を抜け古書往来座へ。木村衣有子さんのサイン入りの「味見はるあき」(木村半次郎商店)と挿画の武藤良子さんのサインも入った「大阪のぞき」(京阪神エルマガジン社)を購入。大好きな本なので読んでほしくて友人に送ってしまったため、買い直し。それがサイン本なので得した気分。それから最初の発売時に売り切れで買えなかった曇天画のトートバックとTシャツを。ただ店内にあるのはM・XS・Sの3種類だけだった。以前に武藤さんにLサイズの取り置きを頼んでいたのでメールをしてみると「取ってあるから、往来座へ持って行く」とのこと。楽しみに待っているとなぜか武藤さんのお母さんがTシャツを持ってきてくれる。なぜ、お母さん?

大阪のぞき

大阪のぞき

 そして、往来座に来た一番の目的であるこの本を入手。

 多くの人がブログやツイッターで賞賛している通り、すばらしい姿である。内容は元本で読んでいるのですばらしいのは重々承知している。この本で読み直すのが今から楽しみでしょうがない。差し込まれている注文カードの色が本体に合わせて緑になっているこだわりがうれしいね。


 ちょうど来店中であった退屈君と往来座向かいのキッチン南海へ。神保町店には何度も入っているがここに入るのは初めて。カツカレーを頼むが、あの見慣れたコールタール色のカレーではなく、フツーの色をしているではないか。あのカレーは神保町店オリジナルであったことを知った。


 雨の上がった坂道を退屈君と別れて池袋駅に向かう。車内ではiPodポッドキャストの「森本毅郎・スタンバイ」(TBSラジオ)から荒川洋治さんのコーナーを2回分聴いた。白樺派武者小路実篤が開いた“新しい村”が埼玉県でまだ活動していること、今年光文社古典新訳文庫岩波文庫プルースト失われた時を求めて」の新訳刊行が始まるという話。プルースト井上究一郎訳のちくま文庫を持っているがほんの数行しか読んでいない。この作品の話題が出る度、中里介山大菩薩峠」とともに死ぬまでに読み始めて読み切ることができるのかといつも不安になる。来年の今頃も同じ不安を抱えているだろう、きっと。


 頃合いをみはからって職場に寄ってみるとすでに点検は終了していたので、2時間ほど仕事をする。そこへ苦情の電話が舞い込み、本にまみれた楽しい一日が急にどんよりとしたものになった。


 自宅に戻り、今日の収穫に囲まれて気分を回復させようと仕事を切り上げ、誰もいない職場の灯りを落として帰る。