リストVS携帯。


 午後2時まで仕事をして出張に出る。今日から携帯本として内堀弘「ボン書店の幻」(ちくま文庫)を読み始めた。


 横浜駅から30分バスに乗る。桂米朝「百年目」を聴きながら揺られていく。


 夕方出張が終わったところで、伊勢佐木町有隣堂本店で古書祭りが行われているころではないかと思い出し、行ってみる。
 店頭のポスターを見たらなんだ明日からではないか。


 代わりにブックオフをのぞく。文庫本を数冊買う。江藤淳「海は甦える 第五部」(文春文庫)を見つけた。以前、「空想書店 書肆紅屋」で紅屋さんが「海は甦える」を称賛していたのを読んで興味を持っていたのだ。同じように明治を描いた未読の司馬遼太郎坂の上の雲」と読み比べてみたいと思っているのだが、なかなか古本屋でも見つけることが出来なかった。残念ながらあったのはこの最終巻のみ。半額棚ものぞいてみたが置いてなかった。


 単行本の105円棚を流していると籠を足元に置き、熱心に棚を眺めている初老の男性の姿が目に入る。その人の前にはクリップで留められた分厚いリストが置かれていた。どうやら“リストせどり”(勝手に命名)とお見受けした。すると後ろ側の棚に、イヤホンで音楽を聴きながら携帯にISBNコードを入力している“携帯せどり”の若い男性がいるのを発見する。本を引き出し、携帯に機械的に数字を打ち込むその姿を見ているとちょっとわびしい感じがしてきてしまう。まあ、こちらも外市に出す本の収集を兼ねているのだから、せどりという行為自体をうんぬんする気はないのだが、そこには本を探す楽しみとか、棚を見る喜びといった雰囲気は微塵もなかった。「あんたと違ってこちとら生活がかかっているんだ」と言われてしまえばそれまでなのだが。


 夕食を食べようと、ふと思い立って馬車道勝烈庵に入る。横浜でトンカツと言えばまず名前が挙がる有名店ではあるのだが、どうもあまり相性が良くないようで最近はとんと御無沙汰であった。どんな味かも忘れてしまったので久しぶりに入ってみたのだが、やっぱり僕とは相性が合わないようだ。肉や衣に問題があるとは思えないのだが、ソースをかけてご飯でいただくトンカツ定食総体として「おお」というトンカツを食べている高揚感のようなものが感じられないんだよな。ただ、赤だしの味噌汁はおいしかった。


 帰りの電車では、先ほど有隣堂で買ったこれを読む。


 今年も出ましたこのムック。やっぱり買ってしまう。アートディレクションに有山達也さんを起用しているので例年よりシュッとした感じに仕上がっている気がする。

 各古書店の紹介は例年のことなので、読みどころは岡崎武志黒岩比佐子石田千の3氏によるエッセイだろう。黒岩さんは神保町にあった「食道楽」ゆかりの洋食屋「おとわ亭」の話。おとわ亭に通った文学者の証言をとんとんと並べて話を進めるのはさすがお家芸といいたくなる。石田さんは真夜中の錦華公園である人とアイスを食べた話を神保町で売っていた鹿の角にからめて描く。ちょっと読んでいてどきどきするような感じだ。岡崎さんは変化球で下北沢の古本屋めぐり。ほん吉、古本ビビビ、気流舎は一度行ってみなければなるまい。


 地元の駅でバスに乗り換えて帰る。バスでは三遊亭円生「夜店風景」。昔の夜店の風俗を語ったまくらのようなもの。円生師匠がのってる感じ。