昭和三十年代から帰国した男。

 野外仕事を終えてシャワーを浴び、一度家に戻り先日のカナダ土産を持って電車に乗る。


 携帯本は岡崎武志「昭和三十年代の匂い」(学研新書)。岡崎さんの文章だから、読みやすくてサクサクとんとんと進んで行く。
 以前に岡崎さんが蒐集していた土管のある空地が出てくる漫画が「マンガに見る日本の風景」という章にまとめられているのをなるほどと読む。昭和三十年代を彷彿とさせるものとして本書に出てくる“木の電柱”や“トロリーバス”が先日までいたバンクーバーに極普通にあったことを思い出す。


 実家のある最寄り駅に到着。駅前の本屋に条件反射のように寄ってしまう。ふるさとを離れて20年になるので、子供の頃通った駅前の南天堂書店は影もカタチもなくなり、いまある本屋は僕の知らない間にこの町にできたもの。それなりの売り場面積はあるのだが雑誌売り場ばかり広く単行本(とくに文芸関係)のコーナーが貧弱なのは寂しい限り。この町で暮らす事になったら欲求不満からストレスがたまりそうだ。
 駅ビルの中にもう一軒あったことを思い出し、行ってみる。そこにあったのはくまざわ書店だった。おお、ここには単行本がしっかりあるではないか。晶文社植草甚一本も、右文書院の鈴木地蔵本も並んでいる。この本屋があるんだったら実家に戻って暮らす事になってもなんとかやっていけそうだと思う。結局、本屋次第なのかね自分は。


 弟一家が出かけているので、母親と二人で夕食。近くで盆踊りが行われており、歌が流れてくる。三波春夫が歌う「東京音頭」や五木ひろしの「桜音頭」など、自分の少年時代と同じ曲だ。こうして今年も夏が繰り返されていく。