世界一のペヤング。


 今日から宿泊を伴う出張。と言っても泊まるのは職場の近くにある職場が持っている宿泊施設であり、同じく職場の施設を使って仕事をするだけなのだが。


 宿泊施設に入るのは夕方から。それまでは通常通り職場で野外仕事。天気がよく暑いくらい。照り返しの強い場所なので花粉用マスクの跡が残るくらいに日に焼けてしまう。


 夕方に宿泊施設へ移動。その途中のコンビニで菓子折りと焼酎のボトルを1本購入。これは管理人さんへの手土産として。
 この管理人さんがなかなか強面の人で、好き嫌いが激しく、この施設での物事がスムーズに進むかどうかはかなりの部分この管理人さんの気持ちに関わってくる。ここに泊まるのは10年振りなのだが、なぜだか僕は昔から悪くは思われていないらしく、今回は初めて泊まる若手を引き連れているので彼らのためにもその貯金をうまく使っていくつもりで準備してきたのだ。
 管理人兼コックでもあるこの人に10年前「欲しい食材があったら言ってくれれば安くなんでも手に入れてやるよ。食品以外でも何でも言ってよ。トカレフだって手に入るよ」と言われて思わずのけぞったことがあった。この人が言うと冗談に聞こえない怖さがあるんだよな。


 夜、仕事を終えてから宿泊している同僚たちと飲んでいると管理人さん登場。昔泊まったときの話になる。それにしてもこの人10年も昔のことをこまごまと覚えていてびっくりする。言われて思い出したことがたくさんあった。
 そのうちに調理場に姿を消したかと思うとペヤングソース焼きそばを持って戻ってくる。調理師免許を持った人がカップ麺かよと思いつつ見ていると、一口食べた同僚が「う、うまい」と声を発して固まってしまう。なにを大袈裟なと内心で笑いながら一口食べるとこれが本当にうまいのだ。ピリ辛でとてもうまみのあるいい味になっている。
 驚いているこちらを見ながら管理人さんが取り出したのが“具入り辣油”の瓶。これと揚げ玉をできあがったペヤングに混ぜたとのこと。たったそれだけでこんなにうまくなるのか。ただ、どのメーカーのものでもこれだけうまくなるわけではなく、このペヤングが一番うまくなるらしい。確かにその後に出てきた同じ作り方をした別のメーカーの焼きそばはペヤングほどうまくはなかった。
 自分たちは、今、世界で一番うまいペヤングを食べていると実感した夜であった。


 気がつくと1時半を過ぎている。入浴して床につく頃にはもう2時。眠い。