歯が痛くても腹は減る。

 朝イチの仕事を終えてから外出許可をとって歯医者へ行く。
 虫歯を覗いた先生(と言っても彼が中学1年生の時から知っているのだ)が「これじゃずいぶん痛かったでしょう。よく我慢しましたね」と褒めてくれる。あまりうれしくはない。それよりあなたの持つ折れた針金がさきっぽについたような器具が患部に当たって痛いんですよ。
 「では、痛み止めのレーザーを当てましょう」と言われる。えっ、レーザー光線なんて歯医者で使うんだ。初めて知った。ウルトラマンマジンガーZなどで育った世代なので、レーザー光線と聞いただけでなんとなく効くような気がしてしまう。残念ながら作業は口の中で行われるため、自分にどのような光線が照射されているか皆目分からない。でもなんとなく痛みが和らいだような。


 職場に戻って夜まで仕事。退勤して本屋へ。

 前者は“大坪直行ロングインタビュー”。後者は“早稲田と慶応”特集。第2特集が“追悼サイデンステッカー先生”というのもいい。リニューアルしてからの『國文學』を買ったのは初めてだ。


 2冊を持って近くのそば屋へ。『本の雑誌』から「坪内祐三の読書日記」を読み、その後向井透史「古本屋セドロー君の午後」に読み進む。今回の徹子の部屋カッパ・ブックス、書店でのジャイアンリサイタルの3題のうち、カッパ・ブックスに反応する。
 《光文社のカッパ・ブックスが持つ面白さを教えてもらったのは2004年に三省堂神保町本店で行われた岡崎武志さんのトークショーだった。》と向井さんは書いているのだが、その会場に僕もいたのだ。まだ、岡崎さんとも向井さんとも面識はなく、当時人気のあった山口瞳「男性自身シリーズ」の古書価相場を壇上から岡崎さんが名前を挙げて質問した相手が向井さんだったのだ。これが僕が向井さんを初めて認識した瞬間である。この文章を狭い会場に人がビッシリ詰まっていたあのトークショーのライブ感を体に感じながら読める数少ない読者のひとりであることをちょっとうれしく思う。


 料理が来て食べ始めるが、やはりまだ歯に違和感があり、不安と鈍痛が連れ立っているような口内環境だ。それに、食べ物が喉を通る度にそのとば口あたりがヒリヒリする。これは、昨日の仕事での酷使によるものなのだろうか、それともさっきのレーザービームの影響なのだろうか。
 そんな状態でも野菜天丼とざるそばのセットを全部食べる。歯は痛くても腹は減るのである。


 帰宅して、『本の雑誌』から「大坪直行ロングインタビュー」を読む。江戸川乱歩が編集経営に携わっていた雑誌『宝石』の最後の編集長であったのが大坪氏。当然、同じ会社から出していた『ヒッチコック・マガジン』の編集長・中原弓彦小林信彦)氏の話題も何度か出てくる。《僕も悪者にされちゃっているけど》と大坪氏が言っているので、中原編集長解雇事件が語られる「夢の砦」にも氏がモデルの登場人物が出てくるのだろう。


 岡崎さんが「okatakeの日記」で面白い書き手としてあげていた今井舞さんという人が書いた『週刊文春』の「『ツッコミどころ満載』楽しい紅白56組完全チェック」という記事を読んだ。