うんと古書。


9時過ぎに起きる。
寝床で昨日録画しておいたJリーグオールスター戦を観る。昨日読んだ「目白雑記2」言うところの《カン蹴り》というヤツです。


洗濯をしてから外出。
電車に乗り、iPodでサラ・ガザレクを聴きながら「短篇礼讃」を読む。久生十蘭「春雪」の誰も感情的にならず、坦々と語られる薄幸な若い娘の尋常ならざる恋とそれを知る親代わりの叔父の思いが静かな結末に至って胸に迫る。己の動揺を周囲に悟られないように平然を装って銀座で下車。


松坂屋へ。大催事場で行われている“銀座ブックバザール”を覗く。ちょうど会場横のスペースで絵本の読み聞かせ実演をやっていて、場内に読み手と聞き手の子供たちが声を揃える「うんとこしょ、どっこいしょ」というかけ声が響き渡っている。これは「“うんと古書”買え」というアピールなのだろうか。
昨日神保町で大量買いをした後なので、今日はそれほど積極的に買っていこうという姿勢が自分の中に出てこない。結局、南陀楼綾繁さん&内澤旬子さんの棚からツボにきた2冊を選ぶ。

気付けば著者が2人とも長谷川姓だ。

遅めの昼食をとろうと煉瓦亭に行くが、定休日。隣のスイスは満員だ。
あきらめて浅草へ向かう。


浅草松屋の大催事場では“松屋浅草古本まつり”が行われている。この松屋エスカレーターは階ごとにエスカレーターの位置が微妙に変わっており、ちょっと煩わしい。
会場は銀座より本は多いが、印象は暗い。でも本の量が多いと単純にうれしいので端から端まで見て回る。3冊購入。

「回り道」は佐藤藝古堂の棚から。いつも目録を送ってもらいながら一度も注文したことがないので、1冊買えてよかった。
ユリイカ』の太宰特集号は、目次に車谷長吉坪内祐三穂村弘みうらじゅん小森陽一石原千秋小谷野敦という名前が並んでいて面白そう。
彼岸花」は元岩波書店編集者による人物回想集。


松屋を出て、もう夕食と呼んでもいい昼食を食べに浅草の街を歩く。さすがに雷門前は外国人旅行客と日本人観光客が入り乱れての大混雑だ。以前父親に連れてこられた思いでのある洋食屋「リスボン」を探すが、最後に来たのも10年くらい前であるため場所が正確に思い出せない。そうこうしているうちに洋食の「ヨシカミ」の看板が目に入る。まだ入ったことがないので予定を変更してここにする。入口からいろいろな貼り紙がされてたり(「ハヤシライス売切れ」はちょっとショック)、紙ナプキンに「うますぎてすみません」というようなコピーが入っていたりするのはさすが浅草。銀座の洋食屋さんとは雰囲気が少し違いますな。店内には「タイガー&ドラゴン」の手ぬぐいが。どうやら撮影中に関係者が使ったらしい。
カウンターに座りオムライスを注文する。目の前が厨房なので、忙しく働くコックさんたちの動きが見られて面白い。自分の頼んだオムライスの調理過程もすべて見てから食べることになる。隣の中年夫婦の旦那さんもオムライスを頼んでいたので「よっ、ご同業」くらいの親近感を抱いたのだが、よく見るとテーブルにはサーロインステーキが載っている。オムライスはどうやらライス代わりらしい。思わずシュンとなる。奇を衒わないごく普通のオムライス。こういう店はそれでいい。ごちそうさま。おいしくいただきました。


銀座線に乗って帰る。車中は「短篇礼讃」の続き。このアンソロジーには“水”に関わる作品が多い。牧野信一岡本かの子大坪砂男の“川”、山川方夫の“海”、野呂邦暢の“雨”。それぞれが男女のかかわりに深く結びついたイメージとなっている。小山清「犬の生活」に対して阿部昭「猫」、久坂葉子「猫」と猫の出てくる話が続く。これらの動物たちの役割も同様だ。最後にふたつ並べられた永山一郎と田中英光の短篇はそこに込められたエネルギーの量とでもいうべきものに圧倒される。好きかと聞かれれば答えを躊躇するような作品なのだが、印象に残る強さがある。


帰宅すると遠くから花火の音が。そうか今日は横浜港の花火大会か。


今日の4000番台。

スイング・スワング・スインギン

スイング・スワング・スインギン


これまで日記で何度か取り上げたこのアルバムが4024番。マクリーンがワンホーンでスタンダードナンバーを歌い上げる内容も好きだが、それ以上にジャケットがいい。写真と文字のバランス、色の使い方も見事。このアルバムを最初に聞いたのは大学生時代に下北沢にあった“ジャズ亭”という小さな居酒屋だった。この店はジャズ喫茶のようにジャズレコードのリクエストができ、そのコレクションの中にこのアルバムを見つけたのだ。それからこの店にいく度にリクエストしていた。20年も前なので、その店のあった場所さえよく覚えていない。たぶん、店ももうないんだろうな。