小津映画のカミさま。

急に転がり込んだ休日。とりあえず、心と体の休養に当てる。つまりは、何もせず、遠出もせず、家でぐだぐだするということですね。


それでも、やらなければいけないことはあるもので、洗濯機を2度回し、溜まっていた洗濯物を片付ける。ベランダに干していると、陽射しとカラッとした空気が心地よい。これなら乾きもいいだろう。


そんなことをしながら、午前中に坪内祐三「同時代も歴史である 一九七九年問題」読了。余裕を持って書くために雑誌『諸君』に毎月ではなく、隔月もしくは不定期連載をしたというだけあってひとつひとつの内容が濃い。後半の国際情勢を扱った文章を自分がどれだけ理解できたかは心もとないのだが、そこで「相対主義/絶対主義」の図式が問題となっていることはよく分かった。坪内さんが大学院にいた頃に大学生となった僕は、知の洗礼として《ニューアカ》ブームの波をもろにかぶった年代である。そこで齧った構造主義記号論、それを便利に使った国文学の研究論文などを通して、“相対主義”というものを自分なりに身につけたつもりでいた。あの頃、心密かに絶対主義に組せず、相対主義を自分の指針として生きていこうなどと生意気に決意したり、実際にそんなことを口に出したこともあった。実は今でもその考え方にあまり変化はない。別に深い考えがあってそうしたわけではなく、単純にそれまで聞き知ってきた歴史上の間違いや周囲の人間の困った行状の多くが何かを“絶対視”することから導き出された過ちであると思ったからだ。だから、何かを“絶対”と思うことなく、絶えず自分と自分以外のものを客観視し、相対化しながら生きていけば大きな間違いはしないであろうというスタンスをとってきた。それがうまくできたかは自信ないが。
しかし、この本でも触れられている通り、この“相対主義”というやつは、容易に“無責任”、“傍観者”と同義になりやすい。また、頼るものがないため、絶えず自分自身をさえ疑いながら生きねばならず、精神的にはキツい状態を続けなければならない生き方でもある。
坪内さんはこういった《相対的な価値観》に安住することを潔しとしない。しかし、それを特定の宗教に求めたくない氏は、それらと違う《超越的なもの(「カミ」)への信仰》を持ちたいと願う。そして、ジョージ・スタイナーの《「時間と個人の死との間に関係を見るひとつの見方」》に自分の《「カミ」》を見出している。その《「カミ」》を説明するために坪内さんは小津安二郎映画を持ってくる。多くの若者が小津映画に魅了されるのはそこに“《「時間と個人の死との間に関係を見るひとつの見方」》=《「カミ」》”の存在を感じ取っているからだと述べる。
僕も小津映画を好む人間なので、坪内さんの言わんとしてる《「カミ」》の意味するものはなんとなくわかるような気もするが、それは気がするだけであって本当に分かっているかどうかの確信はない。
「同時代も歴史である」を読みながら、そんなことをつらつら思い連ねていた。


クロネコメール便が来る。Yonda?CLUBだ。バッグは思ったより小振りの手提げ袋タイプ。できれば肩から掛けられるトートバックタイプも作ってほしいな。文庫カバーは黒だった。一緒に頼んだはずのマグカップがないのが気になる。それとも記憶違いなのだろうか。


余りに天気がいいので、散歩代わりに近くのブックオフへ。小高い丘を越えて行く。105円棚から2冊。

高橋本は木の皮模様のシンプルな装幀。装幀者は栃折久美子さん。栞代わりにしたのか小さな枯葉が2枚挟まっていた。
後者は、帯付き美本に加え、柴田ブランドということで籠へ入れる。


帰宅後、昨日買ってきた細木数子本を読む。坪内本を読んだ後ということもあり、その粗雑な展開に頭がついて行かない。「研究した」、「考えた」という言葉は出てくるが、その過程は具体的に語られず、ただ結論が提示されるだけ。なぜそうなるのかは分からないまま。また、《自然界の法則》(これもまた具体的に説明されない)の重要性を繰り返し強調し、それに逆らって生きることを戒める。結婚や子供を持つことに向かない人間が《自然界の法則》による《宿命》に逆らって結婚したり、子供を持ったりしない方がよいと言ったかと思うと、自分の過去を大切にしなければならないとも言い、そのためには先祖供養をすることだ、そうしないとあなたの「未来」そのものである子孫のためにもならないと説く。
独身で子供を持たない宿命のものには「未来」はないのだろうか。それから、大切だと強調される先祖供養に関しては僧侶も間違った知識を持ったものが多いというから、正しい先祖供養とはどのようなものかと思ったら、それを知るためには私のこれこれの本を読めとしか書いていない。なんだ宣伝か。


実のない読書をしてしまって悔しいので、この本も読了本に入れることにする。初めと終わり以外はそれぞれの読者が該当する宿命が書いてある1ページを読むだけなのですぐに読めてしまうのだ。そのそれぞれの宿命が書いてある第2章だけで全体の3分の2に当たるのだが。


宅急便が届く。Yonda?CLUBのマグカップが別送できたのだ。やっぱり頼んでおいたという記憶は正しかった。開けてみるとグリーンのカップが出てくる。よし、明日から職場で使うことにしよう。

ということで、今日は2冊読了。

【購入できる新刊数=2】