雨音は遮断の調べ。


 英国から帰宅して中一日で日帰り人間ドックへ行く。

 行く先は例年通りの神保町近くの場所である。地下鉄神保町駅の出口へ向かうと、階段の壁に沿って人の列が。外は車軸を流すようなスコールだ。傘を持たずに出てきた人々が足踏みをしていたのだ。こちらは、一日の中に四季があると言われる天候の変わりやすい英国で2週間を過ごしてきた名残で鞄の中に小さな折り畳み傘を入れてある。ちょっと誇らしげに傘を広げて雨の中に踏み出した。


 ところが、英国のそぼ降る雨はごまかせた小さな折り畳み傘は地球温暖化の影響を受けてゲリラ豪雨の国となった日本の雨には通用せず。太平洋を笹舟で渡るような心もとなさに近くのセブンイレブンに逃げ込む。ここで折り畳みをあきらめ、愛用しているセブンイレブンの70センチの黒傘を購入。コンビニで手に入る傘としてはその大きさといい、コストパフォーマンスといいこれ以上のものを僕は知らない。


 70センチ傘でもズボンの裾は守りきれず、それでも上半身と鞄はなんとか守り抜き健診センターへ到着。受付の女性が「濡れませんでしたか?みなさんずぶ濡れでいらっしゃいましたので。」と声をかけてくる。「いえ、傘を持っていたので大丈夫です」とちょっと見栄を張って答える。


 書類を提出して待合室で待機。なんと地上5階ほどの建物の2階にある待合室の天井のど真ん中からボタボタと雨漏りがしているではないか。大きめのポリバケツ型のプラスチック容器でそれを受け止めている。上にはレントゲンその他の医療機器がぎっしり詰まっているはずだが大丈夫なのだろうかと心配になる。


 待合室のテレビでは「あまちゃん」を放映している。すでに8時30分を過ぎているのに不思議に思う(後で「平和記念式典」の放映があったためと知る)。日本を離れていた2週間の間まったく観ていないため浦島太郎状態。え、なんで春子(小泉今日子)が芸能プロダクションをやっているの。なぜ元旦那(尾美としのり)が一緒にいるの。あれ、GMT47がデビューしているぞ。なんでアキはそれに入っていないのだ。黒髪のユイちゃんがミス北鉄に返り咲いているではないか。バケツをたたく雨音がテレビの音声を遮断するような状況のため、ほぼ映像のみしか頭に入ってこない混乱状況のうちに名前を呼ばれ待合室を出た。


 健診は2時間足らずで終了。外に出ると雨は上がり、夏の日差しがまぶしかった。手には不要になった長傘が。しかし、せっかく来たのだから傘を手に神保町の書店へ。


 まずは三省堂で2冊。

  • 得地直美 本屋図鑑編集部「本屋図鑑」(夏葉社)
  • 『フリー・スタイル 23』(フリー・スタイル)


[rakuten:book:16551841:image]フリースタイル23 特集:鏡明 Akira Kagami on Akira Kagami



 続いて東京堂で3冊。

小津ありき 知られざる小津安二郎 (単行本・ムック) / 田中眞澄/著[rakuten:guruguru2:11734250:image]総理大臣になりたい




 なにせ2週間生活費に関しては職場持ちの生活をしていたのでその分の浮いた金を書籍に回せる安心感で手の動きに迷いがない。
 「小津ありき」は田中眞澄さんの単行本未収録の小津安二郎に関する文章を集めた遺稿集。「文学のことば」は荒川さんお馴染みの文学エッセイ集。これまで発表された文章のほかに書き下ろしの『文学ことば』(1〜3)が全体の4割ほど入っているのがお得感あり。「総理大臣になりたい」は坪内さん初の語り下りしと銘打った1冊。語り下ろしということは文字起こしやまとめにあの人がかかわっているのではと「あとがき」を読むとやっぱりその通り。この本が10万部売れればその人にも300万入ると書いてある。売れてほしいねと思いつつ30円分ほど協力する。


 帰りの電車で本を読むつもりであったが、まだ抜けきっていない時差ボケのため頭がぼんやりして読めない。代わりにこの2週間分のTBSラジオ「たまむすび」のポッドキャストを聴きながら帰る。しかし、すぐに寝落ちしてしまった。


 帰宅後、バリウム+下剤のお腹を抱えているためそれなりの時間トイレで「ワンピース」最新刊を読みながら過ごす。その後、耐え切れず1時間ほど仮眠。


 夕食は録画してあった「孤独のグルメ」を観ながら。「あまちゃん」も録画済みなのだが、一度にまとめてみたいのでとりあえず手を付けずにおいておこう。


 ネットでツイッターやブログをチェック。これらは英国にいた時もチェックしていたので浦島太郎感はない。昨日から僕のよく見るツイッターやブログに神戸の海文堂書店閉店の話題が飛び交っている。僕はたった1度だけしか行けていないのだが、それでも魅力のあるいい店だと思っていたし、次にまた神戸に行くことがあれば必ず立ち寄るだろうと思っていた店だけにやはり残念としか言いようがない。こういうニュースが出るたびに思うのだが、その店の閉店を残念に思うのならそのような状態にならないようにその店に金を落としていくしかないのだ。その店に毎日のように足を運び、毎日のように何かを買っていくということを多くの者がすれば店は継続されたはずなのだ。だから、たった1度しか本を買っていない海文堂の閉店をとやかく言う資格が僕にはない。ただ、僕は地元の潰れてほしくない本屋にほぼ毎日足を運び、ほぼ毎日読みたい本や興味のある雑誌のうちの何かを買っている。ありがたいことに毎日行っても欲しい本、読みたい本はなくならない。