コクテイルに行く。

本日午前中休日出勤。午後2時過ぎに職場を後にする。
銀座へ。松坂屋で行われている古本市に来たのだ。銀座はクリスマス一色。それらしくデコレーションされた店が大通りの左右を彩り、歩行者天国に溢れる人々もいつもよりうわずった様子で歩いているようだ。まずは腹ごしらえということで、松坂屋の向かいにある梅林でカツ丼。以前にスペシャルカツ丼を奮発して食べたことがあるのだが、スペシャルというほどもの凄く美味しいわけではなかったので、今日は普通のにする。普通に美味しい。
松坂屋に入り、エスカレーターで7階に上がる。京王や東急に比べると規模は小さい古本市だ。休日なのだがそれほど混んでもいない。1時間ほどかけて4冊購入。

「小説修業」は南陀楼綾繁さんの出品。品切れで新刊書店では見つけられなかったもの。
「鬼の宿帖」は古書日月堂さんから。坂口安吾も滞在していた本郷菊富士ホテルの三男坊が書いた回想録。
中公文庫2冊は、ポラン書房の文庫棚から見つける。結構いい文庫が出ていたように感じた。
その他、リコシェの筆豆班が出品していた文庫カバーを2枚買う。
古本市になぜが風船を持った60がらみのオジさんがいた。きっと銀座の路上でもらってそのまま来てしまったのだろう。憮然とした表情と風船の取り合わせがおかしい。
また、店内にクリスマスイベントを告げる放送が流れている。「本場、フィンランドより来日したサンタクロースとの握手会が行われます」と繰り返すのだが、「本場」のサンタクロースというのがなんだかおかしくて思わず笑ってしまう。
山野楽器と教文館に寄ってから高円寺へ向かう。今晩、古本酒場コクテイルで行われる岡崎武志さんの古本イベントに参加するのだ。コクテイルに行くのは初めてなので、どんな店なのかも楽しみだ。北口を出てあつみ通りを進んでいたのだが、いつの間にか行き過ぎてしまう。あわてて引き返してやっと店を見つける。岡崎さんからいただいた告知のカードには7時からとあったので6時半過ぎに来たのだが、お店には数人の方しかいない。7時前に岡崎さん来店。「えっ、今日こんなもんかな」と店主の方に岡崎さんが問うと、「今日は7時半からですよ」というお答え。どうやら岡崎さんも僕同様に7時スタートと思っていたらしい。その後、次々にお客さんも増える。さっき文庫カバーを買ったリコシェの阿部さんや本を買った南陀楼綾繁さんも来店。その偶然にちょっと驚く。イベントがスタート。2005年に岡崎さんが買った古本2000冊の中から厳選した30冊を取り上げ、順位をつけながら1冊ずつ語っていくというもの。本好き、古本好きにはこれ以上ない酒の肴ですね。個人的にはスバル360の各年代ごとの車体や内装を写実的ながらも愛らしいイラストでまとめた小冊子とゴットハンドこと山本善行さんの本拠地・京都三条ブックオフで400円で見つけたという真鍋博画集が印象に残った。その後には、岡崎さんがブックオフの105円棚から今日仕入れてきた文庫本を競りにかけるイベントもあり。高田文夫さんの見たことないお笑い系の本と、河出文庫の漫画「少年」傑作選に手を上げたが、落とすことあたわず。でも満足。
コクテイルは思ったよりも小さいが、古本が壁を取り巻き、料理もおいしい、いい店だと思う。岡崎さんオススメの大正コロッケが売り切れで食べられなかったのが残念だ。
9時半過ぎに、岡崎さんや阿部さんに挨拶をして店を出る。高円寺のホームで電車を待っていると、先に帰ったはずの南陀楼綾繁さんに声をかけられる(あとでブログを見ると高円寺文庫センターによっていたのだとわかった)。
吉祥寺で井の頭線に乗り換えて渋谷へ出る。帰りの車中は先日買ったパトリシア・ハイスミス「11の物語」(ハヤカワ文庫)を読む。まず2つのかたつむり物語がすごい。「かたつむり観察者」と「クレイヴァリング教授の新発見」は同じかたつむりを扱っていながら、まったく違う世界を描き出す。かたや狭い書斎の中の無数のかたつむり、かたや逃げ場のない無人島の中の2匹のかたつむりだ。どちらにしろ、読後しばらくかたつむりのことを忘れることができなくなる。そして、文壇デビュー作ともいえる「ヒロイン」の限りなく子供たちに愛情を注ぐ子守りの少女の恐ろしさ。このデビュー作の中にパトリシア・ハイスミスの凄さと怖さがとてもわかりやすくはっきりと出ている。この人を、ミステリー、サスペンス、純文学等といったジャンルに分類しようとすることがいかに無意味なことかこの短篇集を読むだけでわかるだろう。安直な言い方だが、この人の書くものはただ単にパトリシア・ハイスミスの作品だというしかないものだ。少なくとも僕にはそうとしかいいようがない。やっぱり、凄いや。
地元の駅について、バス停で深夜バスを待つ。10人近くが待っていたのだが、そこに回送バスが到着し、「もう深夜バスは終わりましたよ」と告げる。どうやら休日は終バスが早いらしい。しかたないので、寒風吹く中を歩いて帰る。iPod古今亭志ん朝「富久」を聴きながら。旦那を酒でしくじった幇間が、旦那の家が火事だと聞いて冷たい冬の夜を駆けていく。その寒さに共感しつつ家へ辿りついた。