年末の週末。


 午後、仕事を終えて早稲田へ。今、ウィークエンド・ワセダが開催中なのだ。穴八幡の前の歩道は傘をさした人々でびっしりと埋まっている。「一陽来復」のお札をもらう人々の群れである。その群れをかき分けてなんとか立石書店の前に辿り着く。


 店頭ではリコシェの阿部さんが来年の暦を売っている。店内には岡島さんと旅猫の金子さん。

 前者はさとし書房の棚から。


 途中飯島書店を覗いてから古書現世へ。

 

 向井さんとちょっと話をしてから高田馬場駅へ。


 東西線・中央線を乗り継いで高円寺に出る。今夜コクテイル岡崎武志さんの年末恒例“年忘れコクテイルライブ”が行われるのだ。
 昼食をとっていないことを思い出し、駅前の市の中にあるラーメン平石でつけ麺とジャンボ餃子を食べる。


 食後の散歩を兼ねて都丸、球陽といった古本屋を回り、少し早めにコクテイルに向かう。すると、コクテイルのある通り沿いに真新しい古本屋がオープンしているのを発見する。つや消しの黒い鉄の1枚看板に店名がくりぬかれており“雨の実”と読めた。ドアを入ろうとするとそこに貼り紙があり、この店が同じ高円寺にあった“十五時の犬”のリニューアル店であることがわかった。前の店からすると2倍ぐらい広くなった感じ。そのためか、まだ多少埋まっていない棚もある。並べられた本棚の木の香りが鼻をくすぐる。店名に似合うように外は雨。初めて店に入るにはちょうどよい日だったのだろう。
 そんな思いで店内に佇んでいると、Y&Nさんが。お二人は元の“十五時の犬”に行って貼り紙でこの店を知ったとのこと。先に失礼してコクテイルへ。


 7時10分前にコクテイルに入ると、店主の狩野さんがひとりで座っている。一瞬時間を間違えたかと思ったが、そうではなかった。すると「ちょっと買物に行ってきます」と狩野さんが外出する。当然、店内には僕ひとり。ぼんやりしていると、女性がひとり入ってきた。今日のイベントの件について質問される。まず店のものではないことをことわってから簡単に説明を。話しながらどこかで見たことのある人だなあと思っていたら“Steptext”のららさんだった。


 ららさんと話をしていると、お客さんが集まってくる。先程のY&Nさん、だいこんの会でお会いした糸織さん、コウノさん、神田伯刺西爾の竹内さん、石田千さんの姿も見える。後から旅猫の金子さんや荻原魚雷さんも参加。


 ライブの方は、第1部が岡崎さんによる今年のベスト10。書肆アクセス閉店、豊崎由美さんの暴走、ギンレイホールの会員になる、檀れいのポスター、集英社文庫のカバーなどなどがあがる。ベスト1は、小沢昭一インタビューすっぽかし事件。待ち合わせ場所を書いたファックスを紛失し茫然自失となる岡崎さんの様子と悠揚な態度でそれを受け入れてその夜にインタビューに応じる小沢昭一さんの人柄が伝わる話であった。


 第2部は岡崎さん秘蔵のカセットテープ版youtube。基本的には岡崎さんが昔ラジカセでエアチェックしたラジオ放送と取材でとったインタビュー音源を聴かせてくれるもの。井上陽水がラジオライブのリハーサルで歌う“ザ・ロング・アンド・ワインディングロード”が素晴らしい。この人の声はやはりワンアンドオンリーだなと思う。また、吉田拓郎の深夜放送なども流される。その他、クイズ形式で話している人物を当てるというコーナーがあり、和田誠久世光彦小林信彦などの音源が出題された。和田誠以外は正解。声ではわからないのだが、話の内容で辿り着けた。久世光彦は田園りぶらりあで、小林信彦エノケンロッパで。
 久世光彦の正解で景品として世田谷パブリックシアターの機関誌『SPT04』を貰う。岡崎さんが寄稿し、工作舎が出している雑誌だ。


 第3部は今年買った古本ベスト10。マンガに出てくる土管のある空き地を調査するために買った「おそ松くん」、横浜の県立高校に通う男子生徒と女子生徒の間で交わされた交換日記を本にしたもの、警察官の心得本、林真理子「ルンルンを買っておうちに帰ろう」の単行本(装幀がいい)などなど。最近買ったものの中から持ってきただけという10冊だそうだが、そのほとんどに附箋が挟まれていて、岡崎さんが資料収集に余念のないことが伝わってくる。特に「おそ松くん」の未来を描くシーンに挟まれた附箋には“電話機にまで想像が及んでいない”とあり、たしかにそこには従来型の電話機が描かれていた。プロの細かい目配りに今更ながら驚く。


 会が終わってから、しばらく岡崎さんや魚雷さんと歓談する。明日が休みなので、あわてずまったりとして時間が過ごせるのがうれしい。


 10時半過ぎに店を後にし、新宿経由で帰る。
 車中、携帯本の宇野信夫「私の出会った落語家たち」(河出文庫)を読了し、古書現世で買った日垣隆「常識はウソだらけ」のさわりを少し読んでから、村上春樹東京奇譚集」(新潮文庫)を読み出す。BGMにiPod村上春樹選曲の「ポートレイト・イン・ジャズ」(和田誠画伯の絵とのコンビで出した本とのコラボ企画CD)を聴きながら。「偶然の旅人」を読み、「ハナレイ・ベイ」の途中で寝てしまった。

東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)