「川崎長太郎選集」とは何か。

確か、以前の「東京brary日乗」(id:brary)で前川つかさ「大東京ビンボー生活マニュアル」の話が出ていてとても懐かしい思いがした。学生時代に唯一購読していた漫画雑誌『週刊モーニング』に連載されていたこの作品を楽しみに読んでいた記憶が浮かび上がる。その当時この漫画雑誌にはわたせせいぞうハートカクテル」も連載されており、そのカラフルである意味バブリーな世界(あのころまだコントをやっていたウッチャンナンチャンわたせせいぞう的名言“ぼくのネクタイは風に自由だ”を揶揄的に使っていた)を描く“カッコいい”作品と、モノクロで四畳半的だけど屈折のない“ダサイ”作品とのコントラストを楽しんでいた。
先日の本の整理で偶然「大東京ビンボー生活マニュアル」の講談社漫画文庫版全5巻を発見する。そういえば、数年前古本屋でこの揃いを見つけて買い、懐かしくて一気に再読したことをそれまで忘れていたのだ。
昨晩、布団の中で第1巻を読み始める。面白さで読み切るまで寝る気が起きなかった。
今朝もまた目覚めた後の布団の中で2巻を読む。本日は遅番の日なのでそんな余裕があるのだ。第38話で主人公のコースケは古本屋の店番のバイトをしている。客の持ち込んだ「川崎長太郎選集」(と描いてあるように読める)を5000円で買う。帰ってきた店主はその値段を「妥当な線だろう」と評価する。結局その本を店主からコースケは譲られるのだが、買値5000円の「川崎長太郎選集」とはどのような本なのかと講談社文芸文庫「抹香町|路傍」所収の著書目録を見てみると選集と名のつくのは平成3年11月に河出書房新社から出た上下2冊本しかない。この作品が雑誌に掲載されたのは昭和62年であることを考えると、この「川崎長太郎選集」は架空の本ということになるのだろう。
この挿話からわかるようにコースケは日本文学を愛読しているらしく、店番の時に立原道造を読んでいるし、他の話でも昼寝の枕元には文庫本の泉鏡花「歌行燈」が開いておいてあり、また沢木耕太郎深夜特急」の単行本を読んでいるシーンもあった。そういえば、第10話ですでに《夏になると阿部昭の小説を読みたくなる/作者自身海辺に住んでいて海を間近に感じさせてくれるからだ》などとソソル言葉を口にしているくらいなのだ。
また、この無為徒食(無職で不定期のバイトしかしていない20代後半)の青年は小津安二郎映画のファンでビンボーながらも唯一「東京物語」のビデオテープだけは買って持っているくらいだ。それにジャズも好きらしく、どこからかトランペットが聴こえると頭の中にクリフォード・ブラウンが浮かんだりしている。
20年近く前に読んだ時よりも今回の再々読の方がこの作品に面白味と親しみを感じる。ただ、あの頃も今もコースケに美術家志望の美人の彼女がいるのを「いいな」と眺めているところは何にも変わっていないのにはちょっと我ながらあきれるけども。
大東京ビンボー生活マニュアル (2) (講談社まんが文庫)
朝風呂に浸かりながら昨日買ってきた桂文治禁酒番屋」を聴く。この人の話はテレビなどで何度か聴いたことがある。末広亭あたりでも聴いたことがありそうだ。話し始めに妙に声を張り上げる特徴のあるしゃべり方。ベヘレケになった番屋の侍の酩酊振りがいい。この話は聞き覚えがないな。まあ、侍に小便を飲ますという話なのでちょっとテレビ向きではないのであまり聴くことが少ないのだろう。
出勤して仕事をしていると人から「目の周りが赤くなってパンダみたいだ」と言われる。2日前にアレルギー用の目薬が切れてしまい、普通のものにかえていたのだがやはりだめか。どうにか時間を都合して眼科医院で処方箋を書いてもらわなければいけない。面倒なことだな。
退勤後、本屋へ。

  • 『國文学』12月号

特集が“歴史家・坂口安吾”であったので、卒論と修論安吾であった過去を持つ身としては素通りできない。目次を眺めて、奥成達「サティ、コクトオ、そして安吾北園克衛」に興味を惹かれる。安吾の新資料として「想ひ出の町々−京都」という短文。初出は宇野千代編集の婦人雑誌『スタイル』昭和14年1月1日発行の第4巻第1号である。そうだ、京都は安吾ゆかりの地でもあったのだ。彼は戦前の伏見に1年半暮らしていたのだ。また京都に行く目的が増えたようでうれしい。
帰宅して、夕食をとり、風邪薬を飲んでこの日記を書いている。さて、これから布団にもぐり込んで「大東京ビンボー生活マニュアル」の続きを読むことにしよう。
今日聴いたアルバム。

ホット&クール

ホット&クール

この男臭いジャケット(残念ながら“はまぞう”に画像がない)を見ながら、2曲目の「クライ・ミー・ア・リバー」を聴く。この時から数十年後、映画「ラウンド・ミッドナイト」でのデクスター・ゴードンの死へと向かっていくような枯れた茫洋たる足取りを思い、柄にもなく“男の人生”というような言葉を思い浮かべたりする。何にしてもこのムンムンのジャケットとサックスの音を楽しむアルバムだろう。

硬派のデクスターに対して軟派ぽさ全開のチェット・ベイカーのジャケットと歌。やる気のあるよなないよなスキャットの軽さがまたいい。