街の中心で銀幕への愛を叫ぶ。


 14日の午後に屋内仕事を終えて、これで今週一杯は盆休みになる。こんなに連続してこの時期に休みが取れるなんて何年ぶりだろうか。



 久しぶりに映画を劇場で見たくなって話題の「カメラを止めるな!」をTOHOシネマズ日比谷へ観に行く。12時過ぎの回の席が予約できた。地下鉄日比谷駅までの車中の読書用に読みさしの宝田明/構成・のむみち「銀幕に愛をこめて」(筑摩書房)をカバンに入れる。


 「銀幕に愛をこめて」は宝田明満州で過ごした幼年期から語り始められる。父親が満鉄に勤めていたのだ。昭和9年(1934年)生まれ。昭和10年に生まれた自分の父親と同年代。宝田家は新潟県村上市の出身。うちの父方は新潟県白根市(現在は新潟市編入合併されている)なのでその点でも親近感のようなものを感じる。外国人が多数いた満州での国際色豊かな生活がソ連侵攻、敗戦によって激変する。そして引き上げへと続く悲惨な体験は読んでいて身が引き締まる思いがする。幼い宝田明はその混乱の中で腹部に銃弾を受けながらも一命をとりとめて日本へと帰ってくる。日本人ではあるが、ほとんどを満州で過ごした引き上げ者である宝田は、疎外感を感じながらも役者、映画俳優の道に目覚めて行く。東宝ニューフェースに合格、映画「ゴジラ」でその名を知られるようになり、その後、2枚目スターとして数々の映画に主演、映画界が凋落して行く中で、舞台へと活躍の場を移して行く様子が、監督、スタッフ、キャストのエピソードを絡めて次々と語られる。ところどころに構成者である“のむみち”による時代背景や監督・映画の基本情報の説明が入る。プロのライターではない彼女がこれだけの事実関係の下調べと文章を書くのは大変だっただろうと思うが、分かりやすくコンパクトによくまとめられているなあと感心してしまった(偉そうだけれど知り合いなのでついこういう風に思ってしまう)。これまでテレビや映画で何度も見ているのだが、ほとんど関心を持って来なかった宝田明という俳優の不思議な魅力を面白く伝えてくれるいい本になっていると思う。とりあえず、「ゴジラ」をもう一度見直してみよう。



銀幕に愛をこめて ―ぼくはゴジラの同期生 (単行本)



 TOHOシネマズ日比谷は地下鉄日比谷駅から直通のミッドタウン日比谷内にある。六本木のミッドタウンは知っていたが、日比谷にも今年の3月にできていたとは知らなかった。映画は最初30分を超えるワンカットのシーンで始まる。正直、ゾンビ映画には興味がないのと、もたついた展開にちょっとゲンナリし、開演前にトイレに行ったにもかかわらず、冷房のせいかまたぞろ尿意をもよおしたりもして、早く終わらないかなと思っていた。その後1時間余り、トータル90分ほどはあっという間に過ぎた。尿意も席を立たせることはなかった。仕掛けを説明してしまってはいけないタイプの映画なので詳細は省くが、決してスマートな映画ではないながらも、観客を楽しませようという気持ちに満ちた映画であった。こういう娯楽作品に自分の金と時間を費やすことのできる夏休みは贅沢なのではないかと思い、満足な気分で劇場を後にする。



 随分と行っていない煉瓦亭で昼食を思ったが入店待ちの列を見て、並びのグリルスイスでランチメニューをいただく。



 その後は、いつものコース。教文館から山野楽器。


 教文館で2冊。

ニッポン放浪記――ジョン・ネイスン回想録
私の漱石――『漱石全集』月報精選



 「ニッポン放浪記」は出た時に気になっていが買いそびれた本。帯に“戦後日本文壇の貴重な証言でもある”とか“三島、大江から黒澤、勝新太郎まで”と書かれているとやはり気になる。

 「私の漱石」は、近年講談社文芸文庫が得意としている全集月報のコンピ本。1993年から1999年に刊行された全集および2002年から2004年に刊行された全集の月報から48の文章が収録されている。漱石全集ともあって執筆者のメンバーが多士済々で面白そう。



 山野楽器ではレコードを2枚。

  • CHET BAKER「IN NEW YORK」(Riverside)
  • DAVE BAILEY「BASH!」(JAZZ LINE)

In New York (Gatefold Edition) (Photos By William Claxton) [Analog]
バッシュ!


 「IN NEW YORK」はウエストコースのミュージシャンであるチェットが、ニューヨークのリズムセクションアル・ヘイグポール・チェンバースフィリー・ジョー・ジョーンズ)と録音したアルバム。ちょっとアート・ペッパーの「ミーツ・ザ・リズムセクション」を思わせる。ただ、こちらは3曲でテナーのジョニー・グリフィンが参加しているけれども。ジャケットがオリジナルのものではなく、ウイリアム・クラクストンの撮ったチェットの写真のバージョン。この当時のチェットのフォトジェニック振りに対抗できるジャズメンはちょっといないだろう。


 「BASH!」はリーダーのベイリーというよりも、サイドのケニー・ドーハムカーティス・フラートミー・フラナガンという並びに反応して選んだ。



 帰りも「銀幕に愛をこめて」の続きを読み、帰宅して読み終えた。