ちょっと贅沢。

さほど仕事が忙しいわけではないのだが、なんだか色々気を回しすぎるのか、がっくりと疲れる。
仕事帰りに雑誌を1冊。

  • 『銀花』2005夏号

この雑誌を買う時はいつもなんだか贅沢をしている気分になる。それは雑誌の造りや値段によるものでもあるのだが、大抵ごく一部のページを読むためだけに買っているからだろう。今回は岩波書店の創刊号コレクションを特集した“創刊号の貌”と林哲夫さんの“自著を語る”(「読む人」に関して)が目的である。しかし、『銀花』に限らず、本を買う時よりも雑誌を買う時の方が贅沢を強く感じる気がする。一時的なものに金銭を蕩尽するような快感があるからかもしれない。
家に帰り、DVDで成瀬巳喜男「稲妻」を観る。昭和27年の作品。高峰秀子が異父姉に悩まされるはとバスガイドを演じている。冒頭、路面電車が走る銀座の光景に惹きつけられる。また、はとバスのレトロな形や姉婿の2号さんの部屋近くに架かる橋のモダンな姿などにどうしても反応してしまう。こういう反応は、現在の人間が昔の事物を面白がる視点であって、作品そのものに対する評価とは違うものだ。その点を意識しておかないと過去の映画の評価を見誤ることになると自戒する。役者に注目すれば、やはり主演の高峰秀子がいい。我が強くて上昇志向なのだが、優しい気持ちを内に持った末娘はハマリ役といえるだろう。二人の姉と関係し、その上末娘まで狙っているパン屋の小沢栄のアクの強さとそれぞれ違う男の子供を四人も産み、現実をあらがうことなくただ受け入れようとする母親の浦辺粂子のグッタリ感も楽しい。実家を飛び出した末娘が一人暮らしを始めた下宿の隣りに住む香川京子のはち切れんばかりの娘ぶりのなんともいえない微笑ましさ。“美しい”という言葉の前に“若い”という言葉が浮かんでくる。ラストの下宿を訪ねてきた浦辺粂子高峰秀子がなじり、お互い泣いていつの間にか和解するシーンは絶妙。下宿の窓の向こうに稲妻が走るセットの素晴らしさも特筆に値する。それに続く裸電球の街灯に照らされて母娘が少し前後して歩きながら、やがて肩を並べて歩み去るエンディングの流れを観ながら思わず「ウマイ」と画面に声を掛けてしまった。いい仕事してますねえ。満足しました。
部屋で昔の名作を眺めながら浮き世の憂さをしばし忘れる。こういうのを贅沢というのでしょうね。
稲妻 [DVD]