過去の「未来」が届いた。

帰宅すると古書現世の向井さんから冊子小包が届いていた。中に入っていたのは、未来社のPR雑誌「未来」が7冊(2004年6月号から12月号)。すべて、向井さんの書いた「開店まで 早稲田古書店街史」が連載されていた号である。先日向井さんからメールがあり、未来社から掲載号をたくさんもらったので、よかったら送りますとのうれしい申し入れが。実を言えば、この「未来」はあまり書店に置いていないので、入手しようと思っていながら果たせず、実際に手に入れたのは2冊だけであった。そのため、向井さんからのお話は渡りに船、ぜひくださいという返信を出したら、早速送ってくれたのだ。
まず、最終回が載った号を手に取る。この号に向井さんの実家である古書現世の開店までの顛末が載っている。もちろん、それは向井さんのお父さんの半生を辿るものとなる。お父さんである向井佑之輔氏の誕生から上京までの圧縮した記述がいい。無駄がなく簡にして要を得ている。上京後の佑之輔氏は職を転々としながらも古本の近くを離れることがない。「チリ交列伝」の伊藤昭久さんのようにちり紙交換も経験している。そして、早稲田の五十嵐書店に入り、5年後独立。仏教に対する興味から「現世」という名を持つ店を開店するにいたる。珍しい名前だなと思っていたが、仏教から付けたんですね。
いつも思うことだが、向井さんは会話を文章に取り込むのがうまい。とくに聞き書きをベースにしたこの連載にとって会話文を挟むことで、下手な説明を長々とするよりも、それぞれの店主の人柄がくっきりと浮かび上がる。この回でも、「店番日記」に垣間見られるお父さんの愉快なキャラクターがその会話から伝わってくる。文章はこのように終わっている。

《父はこの後の歴史も語り続けた。そこにも面白い話があったのだが、それはまた別の話。また、いつの日か。》

向井さん、そのいつの日かを楽しみにしています。

今日は書店でこの雑誌を買った。

“消えた「昭和」”という特集に並んだ鴨下信一泉麻人久世光彦青木玉藤森照信嵐山光三郎出久根達郎大村彦次郎車谷長吉鹿島茂南伸坊といった名前に惹かれたのである。特集の一角には、小沢昭一坪内祐三中野翠さんの鼎談もあるし。また、特集とは別に「フォークが輝いていた時代」という座談会(小室等高田渡中川五郎なぎら健壱)も面白そう。福田和也氏が皇太子の愛を、白川静氏が皇室の本質を論じるというのも興味深い。
最近の『文藝春秋』は団塊の世代から新人類世代(僕らのことです)をも射程距離に入れてきたような印象を受ける。実際、ほとんど買うことなかったこの雑誌を買うことが段々多くなっていることに気づく。ただ単に自分がおじさんになったということであるのかもしれないが。