「今、出たところです」。

 今日は、屋内仕事もない日曜日。

 シャワーをやめて、湯舟にお湯をため、ラジオクラウドで“アフター6ジャンクション”の「奥深い『朗読』の世界!」を聴きながら朝風呂。朗読の題材に選ばれた、角田光代さんの母親のキルトについての文章がいい。雑誌『銀花』に掲載された400字原稿用紙1枚の短文だそうだ。母親の趣味の遍歴が最後にキルトに辿り着き、そして母娘の思い出を縫い込んだ大量のキルトを残して母が他界。悩んだ末に娘がそのキルトを全て処分することで、母の記憶をより鮮明なものとして残す決断をするまでが400字で過不足なく書かれている。


 遅い朝食は、アプリ“土井善晴の和食”の動画で見たBLTサンドを作る。ベーコンをそのままではなく細かく切ってカリカリに炒めてトーストに挟むのがポイント。うまい。


 昨日、仕事帰りの本屋で、これを買った。


ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~ (メディアワークス文庫)


 前作の7巻で一旦完結した物語の後日談の形をとった最新刊。毎回古書が事件の中心になるこのミステリーシリーズを楽しんで読んできたので、これもすぐに読みたい。家にいるとあれこれ他の事に手を出してしまうため、集中して本を読むためには、電車に乗るのが一番なのだ。だから、どこかへ出かける事にする。行き先はやはり本屋がいい。行ったことのない本屋ならなおいい。ということなので、最近小石川にオープンしたと聞いた新刊書店「Pebbles Books」に行くことにする。



 三田線春日駅から歩いていけるらしいので、乗り換えなしでいけるのもうれしい。隅っこの席に体をあずけて、「ビブリア古書堂の事件手帖」の新刊を読む。北鎌倉の古書店ビブリア古書堂の店主・篠川栞子と店員・五浦大輔は結婚し、今は6歳になる娘・扉子もいる。母親の栞子が娘の扉子に過去にあった話を語るという設定で、4つの話が収録されている短編集である。扱われる本は、北原白秋・与田準一編「からたちの花 北原白秋童謡集」(新潮文庫)、佐々木丸美「雪の断章」(講談社)、内田百輭「王様の背中」(樂浪書院)など。これまでのシリーズに出てきた人々がそれぞれの短編に分かれて顔を出す仕組みになっており、常連客を楽しませ、新しい客にはこれまでのシリーズに興味を持たせようという作者の思いが感じられる。特別編とも言えるこの1冊が今出されたのは映画「ビブリア古書堂の事件手帖」が11月に封切られることに合わせたものだろう。テレビドラマ版は個人的には残念な思いが残ったので、黒木華が栞子をやる映画版にはちょっと期待している。



 地下鉄春日駅を出て、白山通りを巣鴨方面に歩き、途中で一本左の道に入る。その道を歩き、ダイエーの先をまた左に入ってこんな所に本屋があるんだろうかと思った駐車場の隣に住宅としてはちょっと雰囲気が違うし、ドアが開けっ放しになっているのが不思議に思える一軒家がPebbles Booksだった。


 第一印象は、ここにあると知らなかったらまず辿り着けない店だなということ。なんか本を手に入れたいから、ここら辺に行けば本屋があるだろうなって場所じゃない。周りにはほとんど商店のない住宅地の中にポツンとあるのだ。ここに店を出すというのは随分思い切った決断だなあと思う。先日行った同じ様な個人経営の新刊書店Titleも駅から離れた場所にあるが、青梅通りという大通りに面しており、周囲は店舗が並ぶ場所であった。それと比べてもここに人を集めるのはなかなか大変だろうな。やはり、snsを含めて口コミで育って行く店なんだろうなとも思う。

 
 単行本、文庫、雑誌と選ばれてそこに置かれているのが分かるが、セレクトショプ的な押し付けがましさはあまり感じない。居心地のいい店だと思う。2階もあるのだが、階段がけっこう急なので、降りる時は少しアトラクション感があって思わず笑ってしまった。地元の書店で買えなかった本を2冊。

  • 「本を贈る」(三輪舎)
  • ヘイドン・ホワイト「メタヒストリー」(作品社)

本を贈る [ 若松 英輔 ]
ASIN:486182298X



 「本を贈る」は批評家、編集者、校正者、装丁家、印刷、製本、書店営業、取次、書店員、本屋という本に関わる10人が本について書いた本。Pebbles Booksの店主である久禮亮太さんも書店員として参加しているためだろうレジ前の棚にもずらっと面陳されていた。

 「メタヒストリー」は大学時代、やれニューアカだ、現代思想だ、構造主義だと言っていた時代にあちらこちらの文章で言及され、当時から翻訳が出ると言われながら、この30年でなかったという曰く付きの本である。二段組で700ページほどの厚い本で、内容が硬い本なので当然部数も少なく、定価も高くなる。もし、浅田彰「構造と力」や中沢新一チベットモーツアルト」がベストセラーになったあの時代に出ていたら、もっと多くの部数が刷られ、定価も数千円に抑えられただろうなあと思わずにいられない。それでも、こんな本が売れないと言われ続ける時代に、諦めずに出版した出版社には賛辞をおくりたい。だから、新しい本屋の出発を祝す意味も込めてこの店で買うことにする。帯に“翻訳不可能と言われた問題作”とある。柳瀬尚紀氏がジェイムズ・ジョイスフィネガンズ・ウェイク」を日本語に翻訳して以来、この“翻訳不可能と言われた”という言葉を字義通りには受け取れなくなっている。たぶん、この表現は、翻訳の出版を首を長くして待っていた読者に対して編集者がハニカミながら発したエクスキューズなのだろうなと勝手に納得する。

 初めての店では、カバーを掛けてもらうようにしている。この店は、無地の茶の紙を巻いてくれる。店名の判子を押したりもしない。その潔さもいい(もしかしたら、まだ判子が間に合っていないのかもしれないが。棚に入っていない本の山が置かれていたり、窓枠に何かをとめた名残のネジが残っていたり、取り急ぎ開店しましたという感じが漂っていてそれもいい)。


 店を出ると残暑厳しい午後の日差しが照りつける。途中神保町でレコード屋に寄ってから帰ろうかなと思いつつ、春日駅の方へ歩き始める。