現金書留から本。


 昨晩、この冬はじめてのコタツを出した。それに伴い部屋の片付けをしていると、以前に外市などで売った本の代金が入っていた現金書留の封筒がでてきた。僕の記憶では中身はすでに本を買うための軍資金として使い切ってしまったことになっていたのだが、念のために中を確認するとなんとまだ1万円札が1枚残っているではないか。中を見ないでゴミ箱に入れていたらと思うとぞっとした。


 今日の午前中は洗濯、入浴、そしてぐだぐだとTVを見て過ごす。


 昼からのそのそと家を出る。夕方新宿に行かねばならない予定があるが、それまではフリーなので久しぶりに神保町に向かう。軍資金は1万円。行く手には地元では手に入らない出版物が目白押し。これが楽しくなくて何が楽しいというのか。


 車中の読書は三上延ビブリア古書堂の事件手帖」(メディアワークス文庫)。遅まきながら本屋大賞ノミネート作で、来年の月9ドラマの原作であるベストセラーを読んでいる。本屋で手に取ってみたらそれぞれのエピソードで取り上げられている本が、岩波書店の新書判「漱石全集」、小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」(新潮文庫)と個人的に思い入れのあるものがあって目をひいた。3巻まで刊行中なのだが、第2巻には坂口三千代「クラクラ日記」が出てくるではないか。これは言わずと知れた坂口安吾夫人が夫のことを書いたエッセイ集。現在はちくま文庫で読めるのだが、それにしても本のセレクトがシブい。その他にも2巻には福田定一「名言随筆サラリーマン」が出てくる。これがある有名作家が本名で出した知られざる1冊であることは、岡崎武志さんの本の読者なら皆知っている。ということは筆者の三上さんも岡崎本を読んでいるのではないかなと親近感もわき購入したもの。



 物語の舞台となる古本屋がある北鎌倉の駅にはこの秋仕事で行ったばかりなので鮮明な映像を頭に浮かべながら読み進める。ミステリーとしてどうかという点は置いておき、古本好きがニヤニヤしてしまう小ネタがちりばめられているのがうれしい。ただ、小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」(新潮文庫)をそんなに珍しくなく、古本屋を回ればすぐに手に入るように書かれているがそれはどうだろう。数年前まで探していたがそんなに簡単には手に入らなかったけどな。


 神保町に到着。まずは東京堂へ。


日本古書通信77巻11号(通巻1000号2012年11月号)

日本古書通信77巻11号(通巻1000号2012年11月号)

文学の福袋(漱石入り)

文学の福袋(漱石入り)

 

 なにせ軍資金は1万あるから遠慮なく買える。

 『古通』は1000号記念特大号なので背が厚くて四角い。こういう雑誌が現在もまだ出ていることの僥倖を喜びたい。

 田中眞澄氏が亡くなり、「古本行脚」の連載がなくなってから読書アンケート号以外の『みすず』を買うことはめっきりなくなったのだが、今回買ったのは最近その評判をよく聞く宮田昇「図書館に通う」という連載を読みたかったからだ。この号にはその15回“『点と線』と書評の役割”が載っている。文末に他の連載にはない(了)という文字があるのでどうやら最終回らしい。ギリギリセーフで間に合った。

 富山本はみすず書房の新刊。著者は英文学者なのだが、シャーロック・ホームズ夏目漱石にも積極的に言及して来ており、僕の興味関心と交差する本が多く、よく著作を買っている学者の一人だ。この本は書評、エッセイ、論文が詰め込まれた福袋的なもの。もちろん漱石の「明暗」論なども入っている。


 上記3冊を手に持ちながらも東京堂1階の軍艦台周辺をなんどもうろうろ。実は今日一番の目的の本をまだ見つけられていないのだ。もう一度レジ前の新刊棚をよくよく見てみるとありました。探していたものが。


上京する文學―漱石から春樹まで

上京する文學―漱石から春樹まで


 地元の本屋にはついに今日まで顔を見せず、横浜の有隣堂へも何度か足を運び、検索機も使ったが在庫なしで今日まで至っていたのだ。やっと巡り会えました。長い旅路であった。“はじめに”にあたる序説で岡崎さんは大阪から上京した自分の体験をもとに“東京者”には分からない“上京者”の思いについて語ってるが、東京と川ひとつ隔てただけの埼玉の地に生まれ育った僕にとっては岡崎さんにおける上京ほどの強い意識を持てず、かといって自分を“東京者”と思い込めるほどの厚かましさはなく、この微妙な距離感をどうすればいいのだろうとちょっと途方に暮れる。



 そんな埼玉生まれの僕のアイデンティティを救ってくれるような本を三省堂4階で見つける。



 埼玉を中心に展開する山田うどんは地元のロードサイドに原風景としてたたずんでいた。その店の本となれば買わずにはいられない。ページ番号の横に書かれた山田うどんのマスコットのかかしの絵がパラパラ漫画になっていて看板同様にくるくると回転する姿を見ることができる。


 以上5冊買ってもまだ1万に届かずなのだが、これから行くところがあるためこれ以上本で鞄をパンパンにしたくないので店じまいとする。本を持って神田伯刺西爾へ。


 いつものシフォンケーキと神田ブレンド。ここで買った本に目を通す喜び。しあわせ。


 電車で新宿に出る。この街もずいぶんと久しぶりだ。すでに夕方近くなり気温も下がってきている。風邪をひきたくないので、ユニクロビックロ)に飛び込みヒートテックのタイツを買い、トイレで装着。これで屋外も怖くない。近くにあったブックオフにも初めて行ってみる。なにも買えず、知人がボクシングの試合をする場所へ移動する。途中コマ劇場前を通るとそこは平地になっていた。大学時代に何度となく歩いた歌舞伎町がまったく見知らぬ場所に見えた。


 知人のKO勝利に火照った体で会場の外に出ると雨。本を濡らさないように鞄を抱えて新宿駅まで急いだ。