プールバーの時代だったな。

 8月に京都の善行堂を訪ねた時、偶然そこへ西荻ブックマーク関係者の方が居合わせて、9月9日に西荻窪のビリヤード山崎の2階で行われる第101回西荻ブックマーク「南陀楼綾繁×岡崎武志×荻原魚雷 『sumus』から生まれた本のこと【東京編】」の話をしているのを聞き、そうだ帰ったら早速予約をしなくてはと思った。


 そして、9月9日の日曜日。よく晴れた秋晴れというよりは夏の名残りのような日に久しぶりに中央線沿線へと向かう。車中の読書はもちろんこれ。


蒐める人―情熱と執着のゆくえ


 今日の西荻ブックマークはこの本の出版イベントの一環である。この本に収められている本を蒐める人に対する8つのインタビューのうち、語り下ろしの2つを除く6つは全てミニコミsumus』に収録されたもの(八木福次郎編だけは「スムース文庫」が初出)。『sumus』友の会会員としては読んで楽しくないわけがない。それぞれ以前に読んているはずなのだが皆15年近く前のものだけに新鮮に読めた。話題も本と古本屋のことだから今読んでも全然古びていない(というより最初から古びている話題だから問題ない)。スラスラ読めるので、意識しにくいが、ライブで行ったインタビューをこのように読みやすい対話に起こし、編集するのは容易なことではないだろう。ささやかではあるが、職場の会報誌の座談会に参加し、ゲラに赤を入れたり、企画した講演会の文字起こしをやった経験があるのでその見事さが自分なりにわかるのでさすがプロだなあと感心してしまう。


 楽しく読んでいるうちに電車は中央線沿線へ。西荻窪のイベントは夕方からだから、まだ数時間の余裕がある。荻窪駅で下車して、ささま書店へ。

 店頭の均一棚の量の多さは相変わらず。そこから佐野繁次郎装丁の辻静雄「フランス料理の手帖」(鎌倉書房)を100円で。店内では平山雄一明智小五郎回顧談」(集英社)を500円で。「蒐める人」で江戸川乱歩貼雑年譜」を復刻した戸川安宣氏がこの本を褒めていたのを読んだばかりだった。



明智小五郎回顧談



 地下道を通って線路を越え、青梅通りを西荻窪方面に歩く。10分ほどで本屋“Title”に到着。ここに来るのはこれで2度目。こぢんまりしている上に、奥にカフェスペースまであるのに、本屋として不足を感じさせない本の品揃えに満足を覚える。地元の本屋で手に入らなかったこの3冊を購入。

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻
ぼおるぺん古事記 (二): 地の巻
ぼおるぺん古事記 三: 海の巻



 Titleを出て、西荻駅に向かって歩く。残暑が思ったより厳しく、気温も高い。西荻でも古本屋巡りをしたいので、体力温存と途中からバスに乗り、西荻窪駅前で降りる。


 にわとり文庫経由で古書音羽館に向かっている途中にまだ入ったことのない古本屋を見つける。“忘日舎”という店名には聞き覚えがあった。ここにあったのかと思う。Titleよりも小さい空間を贅沢に使っている。本の数は多くない。並べるというよりは本を展示しているという印象。それが一つの雰囲気となって内装や本のセレクトともマッチしていると思う。沖縄、韓国、柄谷行人の本が目に入る。大学時代に柄谷行人日本近代文学の起源」(講談社)を背伸びして読んだ者にとって、見逃せないタイトルの本を挨拶代わりにレジへ。

近代文学の終り―柄谷行人の現在



 音羽館へ。こちらの店頭均一も相変わらずの質の高さを誇っている。ただ、いい本だなあと思うものがすでに持っている本ばかりであることに悔しいような悲しいような気分になる。店内の本もやはり充実している。単行本と文庫をそれぞれ1冊と西荻ブックマークの冊子を選ぶ。


 ブックレットを買ったせいか、レジの方に「これから西荻ブックマークに行かれるんですか?」と声をかけられる。正解。


 イベントは18時スタート20時終了だから、夕食を食べてから行くことにする。だったらと西荻ブックマークの会場としても使われるこけし屋別館のレストランに入る。ポークカレーを食べながら、このレストランの2階で行われた第98回西荻ブックマークの「岡崎武志還暦記念トーク&ライブ」に参加した時のことを思い出す。世田谷ピンポンズのライブがあるなど大盛況だったな。



 18時近くなったので、会場のビリヤード山崎へ。その名の通り、昔ながらのビリヤード場の2階が会場だった。そこに南陀楼綾繁岡崎武志荻原魚雷の『sumus』同人三氏が登場し、楽しいトークが始まる。やはり、自然と話は『sumus』のことに。『sumus』の復刻版の計画が進行中という嬉しい話題が。そして、それに合わせて『sumus』最新号が出せたらいいなという話を出たらいいなと聞いていた。話題に出てきた京都ディランセカンドでの第1回「スムース友の会」、神保町で行われた「スムース友の会」、そして名古屋で行われたスムース同人によるトークショーの全てに参加している自分をちょっと褒めてあげたくなった。誰も褒めてはくれないだろうから。トーク終了後、「蒐める人」に南陀楼さんのサインをもらい、これも持参した「本の虫の本」(創元社)に岡崎さんと魚雷さんのサインをもらう。


 ビリヤードのブレイクショットでそれぞれの活動へと別れた同人が、誰かの巧みなキュー捌きでまた同じポケットに入って一緒になり、『sumus』の最新号となってまた台の上に登場することを願いつつ会場を後にする。


 そういえば、分かった風を装いながら柄谷行人を読んでいた大学時代はまさにプールバーの全盛時代だったことを思い出した。