御慶。

 年が明けた。


 元旦は、例年通り朝風呂に入りながら古今亭志ん朝「御慶」を聴く。暮れに富くじで千両当てた男が正月に裃つけて挨拶回りをするドタバタ劇。善人しか出てこないし、内容もオメデタイ(祝賀と脳天気)のでやはり年の初めに丁度いい。

 風呂から出てTVで“ニューイヤー駅伝”を観る。毎年見ているが、今年は暮れに放映されたドラマ「陸王」でこの大会が重要な舞台となっていたので、注目度が多少は高まったのではないかと思う。ドラマのランナーと同名の“茂木”という選手が旭化成の1走で出場するなどまるで演出かと思うような偶然もあったしね。


 駅ビルが元旦休業のため、本屋も食堂もやっていないので、一日家で本を読んだり、年賀状の追加を書いたりして過ごす。年賀状を出しに外へ出ると風もなく陽射しも暖かく穏やかな正月だった。マンションの4階から見る富士山は今年もくっきりと鮮やかだった。



 2日は、昼過ぎまで箱根駅伝往路を観てから外出。今年は母校が出ていないので箱根駅伝もあまり楽しくないな。暮れに行った大掃除の流れで処分することにした漫画(コミックス)を30冊程大きなカバンに入れて今日から営業を開始するという地元の古本屋へ売りに行く。この店に本を売るのは初めて。5分ほどで金額が出る。それぞれの作品ごとに細かく買取値段を出したものを見せてくれる。丁寧で誠実な応対をしてくれる店だなと好感を持つ。もともとその品揃えから好印象を持っている店だったのだが、やはり間違ってはいなかった。本をお金にすることよりも、部屋のスペース確保のための処分だから買い取ってもらえればそれで充分ありがたい。手にした金額で待ち時間に目をつけておいたこの本を買う。

  • 中村稔「故旧哀傷 私が出会った人々」(青土社


故旧哀傷: 私が出会った人々


 雑誌『ユリイカ』に連載していた詩人による友人知己回顧集。中村光夫大岡昇平、安東次男、武田百合子といった名前に惹かれた。これを買って500円ほど手元に残る。


 今日から始業の駅ビルの本屋で今年の本の買い始め。


13・67


 『週刊文春』のミステリーベスト10の1位になったそうなのだが、それが理由なのではなく、ノンフィクションライターの高野秀行さんがツイッターでこの作品を人生で読んだミステリーの中でベスト3に入ると激賞していたのを読んで興味を持った。先月の海外出張の時機内で高野さんの「ワセダ三畳青春記」(集英社文庫)を遅ればせながら読み(面白いという噂は以前から聞いていた)、評判通り面白く、高野さんに対する関心が高まっていたところだけに、その言葉がストレートに気持ちに届いたといった感じ。同じ機内で読んでいたのが、高野さんと同様に旅をしながらノンフィクションとフィクションのあわいを表現する作家ブルース・チャトウィン「ソングライン」(英治出版)だったから、チャトウィンの重量感とは違う高野さんの軽みが一層楽しめたとも言えるかもしれない。



ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)
ソングライン (series on the move)



 駅ビルの大戸屋で昼食。野菜を食べたいので野菜の上にチキンがのったバジルチキン定食を頼む。暮れから何度かここで食事をしているが、BGMにジャズを流しているのがちょっと気になっている。ジャズ好きだから流れていること自体は問題ない。ただ、その選曲がジュリー・ロンドンの「クライ・ミー・リバー」(『彼女の名はジュリー』収録)だったりするのが気になる。個人的にはこれって夜(しかも真夜中)のイメージなんだよな。それを明るい午後の店内で聴く違和感がどうしても拭えない。まあ、こんなことを気にするのは極少数なんだろうけど。


彼女の名はジュリー Vol.1&Vol.2



 今日(3日)は、箱根駅伝復路を見た後、外出。明日から仕事が始まるので、何日も引きこもりのような生活をしていると社会復帰が難しいだろうと電車に乗って外へ行く。と言っても行く先はいつもの如く神保町。今年初の神保町詣で。車内では元旦から読み始めたR・D・ウィングフィールド「フロスト始末」を読み進める。家に籠っていれば読書が進むかと思っていたが、気がつくとTVを見たり、ふと思いついた家事をやったりと予定していたほど読書が進まない。やはり、一番集中して読めるのは移動の車内ということになる。フロストもやっと下巻中程まで進んだ。



 神保町に到着。東京堂は明日からだが、三省堂はやっている。


角川新字源 改訂新版
壁の中【新装普及版】


 「新字源」は去年の秋に出た改訂新版。辞書好きなのと、去年漫画とアニメで久しぶりに「舟を編む」に触れて(小説は以前に読んでいる)辞書への関心と好感が強まり、すぐに買おうと思っていたのだが、なぜか辞書コーナーを持つ地元の本屋ではいつまで経っても入荷しない。行くたびに棚を覗くのだが目にすることができなかったので、ここで買った。

 「壁の中」は中央公論社の文芸雑誌『海』に連載されていた後藤明生の小説。小林信彦「私説東京繁盛記」を読むためにこの雑誌を購読していた。その時から気になっていたのだが、これまで読んだことがない。多和田葉子坪内祐三の文章がついて新しい本として再出版された。この機会に読んでみたい。



 神田伯剌西爾もやっていたので、チーズケーキとブレンド。店は満席の盛況だった。



 ディスクユニオンでレコードを買う。新春セールで10パーセント引きだった。


グランド・エンカウンター
スウィンギング・ギター



 帰りの電車も「フロスト始末」。フロスト警部はいつものように同時多発的事件に忙殺されながら、幸運と不運を繰り返しつつ、事件解決へと進んで行く。明日から、仕事かと思うと気持ちが少し重くなるが、ジャック・フロストの日々から比べればなんてことないと思えるのもこのシリーズの利点だろう。