ぼくらが住むこの世界では本やレコードを買う理由がある。

 8月31日以来、今日まで休みなく働いている。


 一週間ほど前に風邪をひいた。原因は疲労だろうと思う。この土日の連休も職場は休みだが、屋内仕事があったので出勤した。その前の連休も職場のイベントで出勤だったので、少しは休日気分を味わいたいと、24日の土曜日の午後、屋内仕事を終えると神保町へ向かう電車に飛び乗った。疲れているのでゆっくりとだが。


 土曜の午後の電車に揺られて本を読みたいところなのだが、疲れた体が睡眠を求めているので音楽を聴きながら目を閉じる。耳から流れてくるのは先日手に入れたアン・サリーの7年ぶりのニューアルバム「Bon Temps(ボン・トン)」。昨日自宅のステレオで聴いた時よりイアフォンで耳近く聴く方がなんだかこのアルバムは向いているように思う。1曲目から4曲目まで「雲のむこう」、「そこにある夢」、「Why Me So?」、「形なき姿」と彼女のオリジナル曲が続き、その後はカバー曲が並ぶ。金延幸子の「み空」、渡辺はま子の「桑港のチャイナ街」、ハース・マルティネス の「altogether alone」、小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」、トラディショナルの「トラジ」、ゴダイゴの「銀河鉄道999」、アン・サリーの持ち歌とも言えるソウル・フラワー・ユニオンHEATWAVEの「満月の夕」、小沢健二の「僕らが旅に出る理由」、金敏基の「秋の手紙」の全13曲。このアルバムをすでに4、5回聴いたが、今のところ一番いいと思うのは「僕らが旅に出る理由」。もちろん、歌詞も曲もいいのだが、小沢健二という強力な意味の磁場をアン・サリーというフィルターを通すことで曲が身の丈の良さを感じさせてくれていると言ったところか。



 このアルバムの発売前に収録曲2曲(「Why Me So?」・「トラジ」)をシングルカットしたアナログレコードを手に入れた。とは言っても、アナログのシングル盤がアルバムに先駆けて発売されたというわけではなく、雑誌『analog』No.57の付録として手に入れたのだ。最近のアナログレコード復権の流れは目を見張るものがあるが、ついに雑誌の付録としてレコードが付いてくるという状態になろうとは。子供の頃の雑誌の付録にソノシートが付いてきた時代を思わず思い出してしまう。アルバムが手に入るまではこのレコードを繰り返し聴いていた。


analog(アナログ) 2017年 10 月号


 アン・サリーの歌声を子守唄にうつらうつらしているうちに神保町に到着。すでに昼食は済ませているので、早速本屋を回る。以下の本を購入。


  • 涸沢純平「遅れ時計の詩人 編集工房ノア著者追悼記」(編集工房ノア
  • 阿部公彦「名作をいじる 『らくがき式』で読む最初の1ページ」(立東舎)
  • 『フリースタイル』36号

遅れ時計の詩人 編集工房ノア著者追悼記 [ 涸沢純平 ]
名作をいじる 「らくがき式」で読む最初の1ページ (立東舎)
フリースタイル36 宮谷一彦インタビュー


 喫茶伯剌西爾で珈琲とシフォンケーキ。『フリースタイル』巻頭の「one,two,three!」(30人以上が自分が好きな本、映画、音楽などをジャンルにこだわらず3つあげる企画)に目を通す。この企画が好きで毎号楽しみにしている。ページの端の自社出版物の刊行予告の方に目を奪われる。小林信彦コレクション「大統領の密使/大統領の晩餐」、片渕須直「β運動の岸辺で」。小林信彦コレクションはこれで3冊目。10月中旬刊行予定とあるが、大幅に遅れないことを祈ろう。それとその他のオヨヨ大統領シリーズも全てコレクションに収録してほしいものだ。映画「この世界の片隅に」の片渕須直監督の自伝エッセイをフリースタイル社で刊行するのか。これも読みたい。先日ついに発売された「この世界の片隅に」のBlu-ray Discを手に入れた。特典ディスクを観ると映画制作の見込みもない状況からこの映画を作ることを決意し、6年の歳月をかけて完成させた片渕監督の執念とも言える思いがよくわかる。映画の上演期間延長の報を聞いた時に監督が口にする「6年かけて作ったものをそう簡単に終わりにさせるわけにはいかない」という内容の言葉が印象に残った。


 ディスクユニオン神保町店にも寄ってジャズのレコードを3枚買う。

  • CAL TJADER「TJADER PLAYS TJAZZ」(fantasy)
  • Harold Land in New York「Eastward Ho!」(JAZZLAND
  • Blue Mitchell「Big 6」(RIVERSIDE)


TJADER PLAYS TJAZZ ジェイダー・プレイズ・ジャズ [12
Eastward Ho
Big 6


 1枚目の「TJADER PLAYS TJAZZ」はピアノストのソニー・クラークが参加しているアルバムなので選んだ。ハロルド・ランドソニー・ロリンズが入る前のクリフォード・ブラウン&マックス・ローチクインテットのテナー・サックス奏者。この人の地味な味わいが好きなのだ。3枚目のブルー・ミッチェル盤は、ミッチェルとグリフィンとフラーの3管フロントラインにウイントン・ケリーのピアノとフィリー・ジョー・ジョーンズのドラムときて、1曲目が「ブルース・マーチ」なのだがら素直に楽しめる。




 帰宅して、駅ビルで買ってきたキャベツとアスパラとパストラミビーフをオリーブオイルを入れて鍋で蒸し焼きにしたものに粒入りマスタードとオリーブオイルをまぶして食べる。キャベツが甘くてうまい。

 土曜の夜は「ブラタモリ」から「植木等とのぼせもん」とNHKで流れていく。クレージーキャッツへの思い入れの強い者としてこのドラマに求めるものはあれこれあるが、冒頭で毎回淀川長治に扮した小松政夫が眉毛を動かしながら喋っているのを観るだけでも多少のことは許してしまいたくなる。


 今日は8月の休日出勤の代休を取っているのだが、朝から仕事をしに職場へ。昼過ぎまで働いて仕事を片付け、職場を出る。アレルギー用の目薬が切れていたので、数ヶ月ぶりに眼科へ。その後、本屋と古本屋を回ってから帰宅。30分ほど仮眠してから夕食。土曜日に買ってきたレコードを聴く。片面を聴き終わる時間がいつもより短い感じがするとは思ったのだが、さほど違和感なく聴き終え、次のレコードに変えようかとした時、プレーヤーの回転数が45回転になっていることに気づく。アン・サリーのシングルレコードを聴いた時に45回転にしたまま33回転のジャズアルバムをかけていたらしい。回転数が違うのに気づかないとは情けない。いや、たぶん疲れているからだよと自分をなぐさめてみる。