持ち物で一番大事なもの。

 
 母校の大学への出向仕事。

 僕のやっている業種への就職を希望している学生に午前2時間、午後3時間の講義をする。とは言っても、学生の実習を見てコメントやアドバイスをするだけだが。終了後も熱心な学生が残り質問ぜめに。終了時間を過ぎても1時間帰ってこない僕を心配して大学職員が教室に来たところでお開き。疲れたが、若いやる気のある人達に頼りにされるのは悪い気はしない。


 この仕事は職場の斡旋によるものだが、報酬は職場の給料とは別個に支払われる。そのためにやっている訳ではないが、もちろんお金がもらえるのはウエルカムである。臨時収入があり(実際に口座に振り込まれるのはまだ先の話なのだが)、出向先の近くに神保町があれば、欲しかった本や中古レコードを買って帰るしかないではないか。


 地下鉄神保町駅から地上に出て、軍資金を下ろすために銀行のATMに入り、キャッシュカードを出そうとしてカバンに手を入れたところで家に財布を忘れて来たことに気づいた。電車はスマートフォンお財布携帯で、昼は出向先の弁当で済ませていたので財布を出すことがなかったため、今まで財布を持っていないことに気づかなかったのだ。しばし呆然。


 地元では買えない本を入手することを楽しみに休日返上の仕事を頑張ったというのに。とほほ、と呟くしかないよ。

 悔しいので、今日手にするはずであった本のリストをここに挙げておきます。

  • 「世界文学大図鑑」(三省堂
  • 「東京の編集者 山高登さんに話を聞く」(夏葉社)
  • 三品 輝起「すべての雑貨」(夏葉社)


世界文学大図鑑

世界文学大図鑑



 仕方がないので、携帯本の大野晋丸谷才一「日本語で一番大事なもの」(中公文庫)を読みながら帰る。1990年に出た文庫が去年暮れに改版され、文字も大きく読みやすくなった。この対談はもともと中央公論社から1980年に刊行され始めたシリーズ「日本語の世界」の月報に連載されたもの。国文学科出身である僕は学生時代に第1巻大野晋「日本語の成立」を持っていた。その後も興味のある巻を購入し、本棚には第7巻小松英雄「日本語の音韻」、第13巻野口武彦「小説の日本語」、第14巻杉本秀太郎「散文の日本語」などがある。その後このシリーズの何冊かが文庫化されたので、その時に川村二郎「翻訳の日本語」、大岡信「詩の日本語」などを手に入れた。しかし、月報には目を通していないので、二人の対談は初見である。この二人の日本語についての対談なので、日本語の用例として出てくるものはほとんどが詩歌。散文作品を専攻していた僕にとっては学生が大学の先生の講義を聞いているみたいなものだ。さっきまで先生だったのだが、すぐに学生に逆戻りしてしまった感じ。
 

日本語で一番大事なもの (中公文庫)