Blue Kaba in Book Cover。

 昼過ぎに家を出る。


 陽射しはあるが、風が少し冷たい。部屋でレコードでも聴きながら、本でも読んでいたい気持ちもあるが、せっかくの日曜だから出かけることにした。最近できた本屋で行ってみたいところがいくつかある。今日はそこへ行くつもり。


 まずは駒込にある“BOOKS青いカバ”。店の隣にまだ行ったことのない東洋文庫があるのも魅力的だ。ネットで検索すると地下鉄三田線千石駅か地下鉄南北線駒込駅のどちらからでもほぼ同じ時間で行ける場所にあることがわかる。三田線南北線のどちらも乗り入れている駅が地元駅なのでどちらでも一本で行けるのはありがたい。駅についたら最初に出るのが三田線だったのでこちらに乗った。


 車内では多胡吉郎「漱石とホームズのロンドン」(現代書館)を読む。書きあぐねている別ブログ「漱石の倫敦、ホームズのLONDON。」に景気をつけるための読書。題名がかぶっている感じだが、こちらも20年前から考えていた題なので気にしないことにする。ホームズの作品世界を補助線として漱石のロンドンにおける“南北問題”(リッチな北側と貧しい南側)を論じているのが面白い。


漱石とホームズのロンドン: 文豪と名探偵 百年の物語

漱石とホームズのロンドン: 文豪と名探偵 百年の物語





 千石駅で下車して、都立小石川中等教育学校の前を通り、駒込警察署横の東洋文庫へ寄り道。ランチタイムが2時半までだったので、まずは施設内のカフェに入り、昼食をとる。このカフェは小岩井農場と提携しているらしく、肉や乳製品が売りらしい。それではとハンバーグランチを食べてみる。つなぎのない100パーセントハンバーグは肉の味わいがあってうまい。後から来たお客さんが「食事の時間が終わっているのですが、それでよろしいですか?」と聞かれていたので、間に合った喜びも味わいのひとつになったかもしれない。


 腹を満たして、満を持して東洋文庫のギャラリーへ。階段を上がるとそこに写真で見た“モリソン書庫”が。正面と左右の壁が見上げる高さの書架となっており、薄暗い間接照明にそれが浮き上がっている光景は本好き、本棚好きにはたまらない。大英博物館でグレンヴィル・ライブラリーを見た時と同じような蠕動を身中に感じた。


 満足して東洋文庫を出ると、すぐ横に今日の目的のひとつである今年の年明けに開店したばかりの本屋・BOOKS青いカバがある。京都の善行堂を思わせる青い看板が目印。店頭の均一棚を眺める。ただ本が挿してあるのではなくて、それなりにジャンルを意識した並びになっているのがわかる。文庫の棚から復刊されそうもないので持っていたいちくま文庫を一冊選ぶ。

 店内に入ると数名のお客さんが棚を見ている。思っていたよりも奥行きのある作りで、圧迫感がなく、ゆったりとした気持ちで本を探すことができる感じ。店内に入って正面に平台が置いてあり、そこに平積みや立てられた面陳の本を並べている。ここが店の顔を客に見せる場所なのだろう。隣の東洋文庫で“ロマノフ王朝展”をやっているのを意識してロシア関係の本がさりげなく置かれているのは店の気配りが感じられる。店内の棚を見て回るといい感じに肩の力が抜けていて色々なジャンルの本をバランスよく並べている。セレクトショップ感の強い店にありがちな息の詰まる雰囲気がないのがいい。

 それに対してレジ横に置かれている新刊本の棚には店のこだわりが感じられる。日々大量に出版される新刊の中から選ばれた本だけがそこに置かれているのだから嫌でも店の思いが出る棚になる。そこに並んでいる本を見れば、ここが信用のおける店であることがわかる。まあ、単刀直入に言えば自分好みの本屋だということなんですけどね。先ほどの均一本の他に、古書1冊、新刊1冊の計3冊を購入した。

Record Covers in Wadaland 和田誠レコードジャケット集

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古本屋ツアー・イン・京阪神

古本屋ツアー・イン・京阪神





 買った本にカバーを巻いてもらう。無地の茶紙のカバーに青インクでカバのイラストと店名の入ったスタンプが押される。これがなかなかいい。気に入りました。



 冷たい風が吹く中をJR駒込駅まで歩く。そこから山手線で日暮里駅へ。今日もう一軒行ってみたい新しい店があるのだ。舎人ライナーのある方の出口から出て、三井住友銀行が右にある通りを歩いて行くと左手にひぐらし小学校があり、その四角を右手に曲がり、スーパーいなげやの隣にお目当の“パン屋の本屋”があった。

 パン屋と本屋が同じ建物の中にあるのかと思っていたが、手前がパン屋で奥が本屋。その間に中庭のようなスペースがあるというちょっと贅沢な造りの店舗だ。奥の本屋へ。こぢんまりとした店内には子供連れの家族や若い夫婦が数組、その客層を裏付けるように絵本や料理や食べ物などの本が充実している。コンパクトな店だから、迷わず方向性を持ったセレクトをしていることを感じさせる店だな。レジ横の棚には店の名前に対応してパンの本がずらり。もちろん、木村衣有子さんの「コッペパンの本」(産業編集センター)も置いてある。その棚に村上春樹パン屋再襲撃」(文春文庫)が並んでいる遊び心がいいね。岸政彦「断片的なものの社会学」(朝日出版社)や植本一子「家族最後の日」(太田出版)が並べられている棚もあり、絵本とパンだけの店ではないことをしっかりと教えてくれていた。気になるパンの本は持っている本ばかりだったので、パンに合うコーヒー関係の本を買う。


  • 庄野雄治編「コーヒーと小説」(mille books)


コーヒーと小説

コーヒーと小説


 庄野さんは徳島にある自家焙煎の店“アアルトコーヒー”店主。ここの豆を何度か通販で買って飲んだことがあり、庄野さんの名前に馴染みがあった。この本は庄野さんが選んだ短編小説アンソロジー。コーヒーが出てくるわけではなくて、コーヒーを飲みながら読んでほしい作品を集めたということらしい。何せ最後に載っているのが坂口安吾「夜長姫と耳男」なんだからコーヒーの出る幕はないよね。それが面白くて買ってしまった。



 並びのパン屋にも寄ってアンパンとクリームパンとラスクを買って帰る。







 帰宅して、昨日ポポタムで買った武藤良子さんの題字が目をひく「石神井書林古書目録100号 特集 練馬区関町」を眺める。「コーヒーと小説」に小説「グッド・バイ」が収められている太宰治関係の本もあれこれと載っている。その他、名前の出てくる作家が、小山清井伏鱒二木山捷平上林暁尾崎一雄庄野潤三小沼丹とくればマイナーポエット好きにはたまらない目録だな。そういえばポポタムのキャラクターもカバだったなあと思う。