入門書入門。

 昨日は野外仕事のため朝4時半に起きて準備をしていると大雨洪水警報が発令されていた。30分近く天気予報の画面を眺めながら思案し、本日の野外仕事の中止を決定する。その後6時過ぎまでかけて20人以上にその旨の連絡を回す。


 窓の外の雨の音を聞きながら連絡を終えるとどこか緊張の糸がぷつんと切れてしまった。降って湧いたような休日にも関わらず、4月からの切れ目のない仕事の疲れが出たのか、どこに行く気も誰に会う気もせず必要最低限の外出以外はひたすら家に籠り、ネットで「水曜どうでしょう」の“原付東日本縦断ラリー”の動画を観る。現在毎週月曜日にTVKで2011年に放映された最新作“原付日本列島制覇”が再放送されており、それを観ているのだが、今更ながらにこの「水曜どうでしょう」の面白さに目覚め、新作の原点ともなった“原付東日本縦断ラリー”をチェックしておきたくなったのだ。何も考えたくない心身喪失に近い状態で観るのにまさに最適の面白さ。大泉洋の言語センスと言葉の反射神経は見事としか言いようがないな。



 
 「水曜どうでしょう」のおかげで少しは何かしようという気が起きたので、その後は読書をして過ごした。


 ともに読みかけだった山村修「〈狐〉が選んだ入門書」(ちくま文庫)と坪内祐三「父系図」(廣済堂出版)の2冊を読了。



“狐”が選んだ入門書 (ちくま文庫)

“狐”が選んだ入門書 (ちくま文庫)

父系図?近代日本の異色の父子像?

父系図?近代日本の異色の父子像?


 
 今日も午前中はネット動画で「水曜どうでしょう」の“原付西日本制覇”を観て過ごす。楽しい。



 昼前に家を出て神保町に向かう。やっとどこかへ出かける気持ちになった。今日の目的は昨日読んだ「〈狐〉が選んだ入門書」で取り上げられていた入門書の中で所持していないものを探すこと。〈狐〉本は親本のちくま新書で一度読んでいるため今回は再読となるのだが、前回以上にこの本の良さに打たれた。なにより文章がいい。人によっては気取っていると思われるかもしれないようなちょっとよそ行きの言葉を要所要所で入れ込む技の切れ味に酔う。もちろん、その薦め上手は「〈狐〉の書評」シリーズで世に知られた通りだから、こうやって電車に乗って出かけることになる。



 車内では推薦入門書のひとつであるゴンブリッチ「若い読者のための世界史(上)」(中公文庫)を読む。予想以上に平明な語り口ですらすら読める。基本世界史には無知なので「ふ〜ん」とただ感心するのみ。



若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)

若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)


 神保町に着いてまずはリニューアルなった東京堂へ向かう。改装後初の東京堂だ。噂に聞いていたように店内は抑えめの照明になっており、全体的に高級でオシャレな方向にシフトした内装になっている。率直な感想を述べれば、ひとつの書店として見れば悪くないし好きなタイプの店である。ただ、東京堂書店として見れば以前のある種の文芸書への偏重をもったアンバランスで不器用な感じがなくなったのは少し寂しい。特に3階の地方小出版社のコーナーが隅に追いやられている様子は店の考え方が以前とは変わったということを明確に示しており残念。まあ、このコーナーに書肆アクセスの姿を重ね合わせるという思い入れを持ってしまっているのはこちらの勝手以外の何ものでもないのだが。


 とりあえず、新装祝い代わりに数冊購入。


世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)

世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

敬語 (講談社学術文庫)

敬語 (講談社学術文庫)




 もちろん3冊とも〈狐〉本に出てくる本。


 東京堂を出るとにわかに空腹を覚える。さてどこで昼飯を食べようかと考えていると、先日読んだ坪内祐三「大相撲新世紀」(PHP新書)に収録されていた「酒日記」などに何回か出てくる三省堂地下のビアレストランのことを思い出し、この機会に一度入ってみることにする。


 ランチのビーフカツレツを頼み、ライスではなくパンを選択する。上記の日記などで坪内さんはこの店の「黒パン」がうまいと繰り返し書いていて是非それを食してみたいと考えたのだ。出てきたパンはライ麦と小麦粉をブレンドしたと思われる白っぽいパン1枚とそれより小振りの濃いチョコレート色のパンが2枚。このチョコの方が「黒パン」だろうとまず食べてみる。思っていたよりもソフトで甘い味。たしかに悪くない。今度来ることがあったら、このパンのサンドイッチを頼んでみよう。



 空腹を満たした後は三省堂の4階へ。

  • 『生活考察 vol.3』


 欲しかったミニコミを入手。





 その後、古書店を数店覗いて絶版である堺利彦「文章速達法」(講談社学術文庫)を探すが見つからず。



 書泉グランデ東京堂三省堂で見つからなかったこの本を。

イメージを読む (ちくま学芸文庫)

イメージを読む (ちくま学芸文庫)



 書泉グランデのカバーのデザインは僕が初めてこの店にきた中学生時代から変わっていない。最近しみじみこのカバーっていいよなと思う。前回来た時は緑だったが(これが一番好き)、今日は黒だった(これも悪くない)。



 いつの間にか雨が降り出した。それを避けるように伯刺西爾へ。ゴールデンウィークにも開いているのがうれしいね。ブレンドとレアチーズケーキを味わいながら『生活考察』を読む。岡崎武志さんの文章は「泣く」をテーマにしながら黒岩比佐子さんの追悼文にもなっていて思わず前傾姿勢になる。岸本佐知子さんのページは岸本さんがメモをした付箋の写真とそれに対するコメントからなっていて面白い。これは岸本ワールドを引き出した企画の勝利ですね。個人的には童謡「ぞうさん」の替え歌がツボ。




 信号を渡り、岩波ブックセンターへ。

ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)

ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)

フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)

フランス革命―歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書)



 他の書店でも買えたのだが、やはり岩波の本はここで買いたい。




 これで〈狐〉本に登場する25冊の入門書のうち13冊を手に入れたことになる。残り12冊は気長に集めることにして雨の神保町を後にする。