夏なのに夏じゃない。


 仕事が休みなので、銀座へ。


 電車では黒岩比佐子「歴史のかげにグルメあり」(文春新書)を読む。


 僕にとって銀座と言えば映画と洋食。まずマリオンの窓口で「ダーク・ナイト」のチケットを手に入れる。開演まで1時間。昼食をどこにしようかと悩むが家を出てくるときには降っていなかった小雨が降り始めているため、地下道の出口から近いところを探そうと思ったらそこには木村屋があった。


 3階のグリルに初めて入る。ランチメニューのパンは食べ放題。さっき読んでいた「歴史のかげにグルメあり」の大倉喜八郎の章で帝国ホテルの立役者である大倉がハルピンからアルメニア出身の腕のいいパン職人を引き抜いて連れてきたという話を読んだばかりなのでパンが食べたくなっていたのだ。


 結局5つのパンをおかわりして満足する。


 マリオンに戻り、ピカデリー1で「ダーク・ナイト」を観る。席の間隔が広くて足を伸ばして観られるのがいいな。
 最初の銀行強盗のシーンでどぎもを抜かれる。こんなのアリかと思っているうちにジョーカーの特異な存在感を見せつけられた。この因果律を超越した存在はその来し方行く末さえも説明されることなくバットマンの前に現れ続ける。まさに現代の不気味な狂気を具現化した道化師。トゥーフェイスのCGで作られたグロテスクな半面よりも化粧の剥げ落ちたジョーカーの顔の方が濃い意味を伝えてくる。彼を描いただけでも充分な仕事をしている映画だと思う。


 映画館を出ると雨がやんでいた。これまでならマリオンで映画を観たあと近くの旭屋書店に寄るのが定番なのだが、もうその店もない。近藤書店はとうになく、銀座で僕の好きな本屋は教文館しかなくなってしまった。だから教文館に行く。この店まで無くなったら銀座に来る喜びは半減してしまうだろう。


 内装工事をしたらしく2階に上がる階段がきれいになっていた。このガラス張りの階段を昇るときのちょっと晴れがましい感じがいい。この店に来ると必ず本を買いたくなる。いつまでもあって欲しいと願う本屋に対して自分のできることは本を買うことしかないから。
 買いたい単行本もあったのだが、今日は小さな鞄で来たので中に入れられる文庫と新書にする。

山の上ホテル物語 (白水uブックス)

山の上ホテル物語 (白水uブックス)


 「ツィス」は旧版を持っているのだが復刊してくれた集英社に感謝して。未読の広瀬作品をこの活字の大きくなった新版で読んでいくつもりなのだ。
 常盤本は前から欲しかった1冊。この新書版が出た時買い逃したら店頭で見かけなくなってしまいしばらくぶりにその姿に出会ったのがうれしくて。


 帰りも「歴史のかげにグルメあり」を読みながら。


 一旦家に戻り、荷物を置いてから近くのブックオフへ。前回買いそびれたこれがまだ残っていた。

 前回買った河盛好蔵「パリ物語」と小門勝二「荷風パリ地図」とセットで考えられていたらしく3冊とも同じあずき色の背表紙でそろえてある。


 その他、近づいてきた9月の外市のことも考えてあれこれ買う。ここはいつも文庫が充実していて買いたいと思うような本があるありがたい店だ。その代り単行本で買いたくなるような本にはめったに出会わない店でもあるのだが。


 帰宅して「歴史のかげにグルメあり」を読了。この本を読むと「歴史は食卓で作られる」と言いたくなる。人物としては児玉源太郎伊藤博文などが興味深かった。あまり世評かんばしくない伊藤博文に対する黒岩さんの評価が高く、自分の蒙が開かれた感じ。巻末の主要参考文献を見るまでもなく多くの資料にあたり、時間と手間と書籍代をかけた作品だということがわかる。これが800円(税別)は安い。面白くてお得な1冊。


 テレビをつけたらナインティナインの番組をやっていた。ゲストはミムラ。本を一度に両手いっぱい買う本好きという話を聞き、好感を持つ。あっ、さま〜ずの方じゃない方です。