1週遅れの不忍ブックストリート

実家で朝を迎える。朝食前から姪っ子や甥っ子にせがまれて色々やらされて疲れる。遅めの朝食を食べてから4年前に他界した父親の墓参りへ。連休でみな出掛けているのか、墓地には人の姿がほとんどなかった。
そのまま、駅まで送ってもらう。東武伊勢崎線五反野駅で下車し、昨日寄れなかった四季書房へ。先日初めて来て気に入ってしまった店だ。端から端までじっくりと眺めてしまう。悩んだ末に1冊購入。

値段は安くなかったのだが、佐野繁次郎装幀のすばらしさに目を奪われた。先日の佐野繁次郎展の余韻が残っており、氏の装幀本に鋭く反応してしまうらしい。
北千住に出て千代田線に乗り換える。いつもは日比谷線東横線に乗り継ぐのだが、今日は先日行けなかった“不忍ブックストリート”を歩いてみたいので、ルートを変更する。千駄木駅で降り、まずは古書ほうろうへ向かう。昨年の夏に“古書モクロー祭り”をしているこの店に初めて足を踏み入れ、その品揃えと広さに好感を覚え、また来たいと思っていたのだ。その時は南陀楼綾繁さん(モクローくん)の棚から、竹内良夫「文壇のセンセイたち」(学風書院)と奥野信太郎(編)「女」(春陽堂佐野繁次郎挿画)を買ったっけ。その時に比べ、現在の古書モクローの棚には数冊しか本がなく、今回は買えずじまい。その代わり委託の棚からと古書ほうろうの棚から2冊。

  • 『サンパン』第10号
  • 井伏鱒二対談集」(新潮社)

棚にPOPがあり、月の輪書林の目録が置かれていたことが分かるのだが残念ながら売り切れた模様。レジで“不忍ブックストリートMAP”をもらう。やさしい色遣いと見やすい地図がいい。キャラクターの“しのばずくん”もサイト上で見るより、紙の上で見る方が数段カワイイ気がする。ただでもらっては申し訳ないような出来ですね。“モクローくん通信第21号”もいただく。この2つの紙ものを眺めていて、やはり内澤旬子さんの絵の存在の大きさを感じる。僕には、編集者の河上進さんは別として、“南陀楼綾繁”さんという存在は内澤さんのモクローくんイラストとセットでインプットされてしまっている。まことに勝手な受け取り方だが、河上さんと内澤さんのユニット名として“南陀楼綾繁”という名前を無意識に受け止めているということになるかもしれない。フリーの立場のご苦労や苦しみが組織に保護されて生きている自分に分かるわけはないのだが、いちファンとしてお二人には、これからもご活躍いただき、本をとりまく世界をより楽しいものにしていただきたいと切に願っております。
ブックオフ往来堂書店を覗いてから、先ほどもらったMAPをたよりに結構人ミルクホールへ。南陀楼綾繁さんの日記を読んだり、ホームページを覗いたりしていて是非一度行ってみたいと思っていたのだ。へーぇ、こんな小さな路地にあるのですね。中は思っていたよりも落ち着いた雰囲気。GW中はコーヒーとチーズケーキのみのメニューとなっているとのことなので、ブレンドとチーズケーキを注文する。今日の出来を10段階で表示するというチーズケーキは本日10/10である。最高の出来が味わえるということだ。確かに美味しい。たぶん、僕が人生で味わったチーズケーキの中で最高位に属するものだ。
それを味わいながら『サンパン』を読む。まず、巻頭は曽根博義先生の「『新潮』編集者 楢崎勤の徳」。曽根先生は学生時代の恩師であるので、元気でご活躍なのを知るだけでうれしい。楢崎勤に関しては曽根先生も触れられている大村彦次郎「ある文藝編集者の一生」(筑摩書房)を読んで初めて知った。その楢崎の著書として先生は「作家の舞台裏」(読売新聞社)を挙げて、〈『作家の舞台裏』は昭和戦前の文壇や文学者の有様を現場の当事者の立場から語った貴重な証言である〉と評価し、その本が出版当時もあまり評判にならず、現在も忘れ去られたままであることを惜しまれている。この本には文学者が楢崎に宛てた書簡が数多く引用されているらしい。こんど古本屋で探して、是非読んでみよう。
同じく『サンパン』から、山本善行さんの「洲之内徹ノオト」と向井透史さんの「店番日記」を読む。山本さんのものは連載の第1回。3月に京都で開かれた「スムース友の会」で山本さんとお話した折に、「実はまだ仲間にも話していないんだけど、今度『サンパン』で洲之内についての連載を始めるんですよ」とお聞きして以来楽しみにしていたのだ。洲之内徹氏に対する山本さんの思い入れが伝わる文章。今後が楽しみ。今回の「店番日記」は、ギャグ・くすぐりなしの直球勝負。書き手としての水準の高さを自然体で示している。さすがですね。通りがかりに他の古本屋をガラス戸越しに覗きながら、そこに永遠ともいえる時間を感じとる感覚が素敵だ。自分の仕事を客観的に眺める視点を持っているところに僕などの素人はむしろ信頼感を感じるのだ。そしてその眼差しが決して冷たくはないところにも。
店を出る時に店主の方に「とてもおいしいチーズケーキでした」と声をかける。こういうのは恥ずかしいので滅多にしないのだが、これだけ美味しければそれぐらいしたくなります。また食べに来てみたい。
連休で天気もよく近くの根津神社でつつじ祭をやっていることもあり、歩道は人で溢れている。その人波をかき分け、根津駅近くのオヨヨ書林へ。このオヨヨ書林も昨年の夏に来た時は、まだ開店早々で、看板も出ておらず、店の中は積み上げられた本の束で雑然としていたが、今日はお洒落な看板も出ていたし、店内もすっきりとしていた。そういえば、前回の時はこの店を覗いた後に、西荻北尾トロさんがやっていたブックカフェに行き、トロさんとオヨヨ書林の話をしたことを思い出した。そのきれいになったオヨヨ書林で3冊。

荒川本はいつもブックオフで探している探求書のひとつ。他の方がブログなどでこの本を見つけた話をよく読む気がするのだが、僕はここで見たのが初めて。
一銭五厘たちの横丁」は岩波現代文庫版を持っているのだが、桑原甲子雄氏の写真が大きく載っているのと、さすが晶文社といいたくなる造本に惹かれて購入。同じ晶文社から出ている写真集「東京昭和十一年」と「満州昭和十五年」も欲しいのだが、古書価が軒並み1万円以上のものだけにそう簡単には手が出ない。一度、キントト文庫のガラスケースの中に入っている「東京昭和十一年」を買おうかどうか腕組みしてしばらく考えて結局あきらめたことを思い出す。それからしばらくして前2作よりは古書価の安い「夢の町 桑原甲子雄東京写真集」(晶文社)をCOWBOOKSで衝動買いしてしまったのだが。

根津駅から電車を乗り継いで帰宅する。休日出勤ばかりの連休であったが、最後に休日らしい一日を過ごせてよかった。