角瓶と文庫本

昨日は、八王子からスーパーあずさに乗り、松本へ。快晴で車窓から富士山や南アルプスの山並みがとても美しく見えた。気心の知れた同僚たちと車内で駅弁やコロッケなどを肴に小宴会。松本からはレンタカーで、白骨温泉へと向かう。2時間ほど走ってホテルへ到着。山間のこぢんまりとした温泉郷で、とても静かなところ。
まずは、風呂に入る。仲居さん曰く、「温泉には日に3度入らなければいけない。そうすれば、1ヶ月効能が続く。温泉マークの湯気が3本立っているのは、そういう意味なのだ」そうだ。昨年の偽温泉騒動(温泉に温泉の素を入れていた事件)以来、客は激減し、最近少しずつ増えてきてはいるらしいが、以前には遥かに及ばないとの事。そのせいか、大浴場もほとんど他の客がおらず、貸し切り状態に近い。まだ、雪の残る山肌を眺めながら、露天風呂につかる。同僚たちとたわいもない話に興じながら、汗を流す。その後、夕食兼宴会、それが終わって部屋で2次会。ともに色々とあったこの数年を振り返り、話が尽きない。深更まで語り合う。
今朝、起きてまた風呂へ。朝の景色を眺めながらの温泉もまた格別。チェックアウトをする頃には雪が降り出しており、僕たちの乗った車が帰り道の峠にさしかかった時には道路は雪で覆われており、スタッドレスタイアなのだが坂で後輪が滑ってしまう。あわててチェーンをつける。このアクシデントでレンタカーを返した時には、乗るはずの列車が出発するまで10分しかないという綱渡り状態であった。車を降りて全員で駅までダッシュ。滑り込みセーフで列車がスタート。こんなドタバタがまた楽しい。
列車の中で、昨日買っておいたサントリーの角瓶のポケット瓶を出す。この瓶はジーパンなどの後ろポケットに入るように平べったい形をしたもので、スタイルがいい。その上、おまけとして新潮社ハーフブックというミニサイズの文庫本が付いている。付いていたのは、よしもとばななアーティチョーク」という書き下ろし作品である。この他に川上弘美他計5人の作家によるシリーズであるらしい。このサントリーと新潮社のタイアップは昨年の11月頃から行われており、現在では5冊のハーフブックを1冊にした単行本「恋愛小説」が新潮社から発売されているとの事である。
あまり酒を飲まないのにわざわざこの角瓶を買ったのは、本が付いているという面白さもさることながら、昔見た角瓶のコマーシャルが頭にあったからだ。僕が中学生くらいの頃(確か「笑点」の時間枠で)流れていた、大学生と思われる男性が、角瓶1本と漱石の「こころ」の文庫本(記憶では新潮文庫でカバーはなし)だけを持って鄙びた温泉宿へ行き、畳に寝転び、角瓶をチビチビやりながら、「こころ」を読んでいるというCMであった。この大学生の姿が当時の僕にはとてもかっこよく思えたのだ。それを思い出して、ふと買う気になったというわけである。ところが、同僚たちとの話が盛り上がり続けたため、ひとり角瓶で持っていった文庫本(残念ながら「こころ」ではなく、伊藤昭久「チリ交列伝」)を読むという時間は取れなかった。
角瓶は、同僚たちへ回して飲んでもらう。この旅行が終われば、このメンバーで仕事をする事は最低数年間はない。その名残りを惜しむ酒となった。八王子に着き、在来線に乗り換える。ひとり去り、ふたり去り、自宅の最寄り駅で最後まで一緒だった同僚とも別れて、帰宅する。
思い出に残る旅行であった。