不在と実在。

 最近、鍋ばかり食べている。

 

 今年コロナによる緊急事態宣言下の在宅勤務期間にウォーターサーバーの契約をした。夏に向かう時期であり、毎月届く富士山の水は順調に消費された。ちょうど、2リットルの水を鍋で沸かして、そこにティーバッグを3つ入れて21分蓋をして作るアイスティーにはまっていたこともあり、水の需要と供給は友好な関係を結んでいた。

 

 しかし、夏が過ぎ、秋から冬になる頃には、毎月届く水と消費する水の量が比例しなくなり、気が付くと玄関前の廊下の左右に水の入った段ボールが煉瓦のごとく積まれる状況となってしまっていた。冬場に冷たい水を飲む習慣がない。90度弱のお湯もでるが、仕事から帰って大きめのマグカップに紅茶かコーヒーを一杯飲むのが精一杯だ。水は減らない。そこで考えたのが毎晩鍋を食べること。鍋は水をたくさん消費する食べ物だ。ネットで流行りの無水鍋などお呼びでない。

 

 という訳で、今週に入って毎晩鍋を食べている。水炊き、豚しゃぶ、ちゃんこ鍋などを買い込んできた液体や固形の鍋スープの素などを駆使しながら食べている。野菜もたくさんとれるし、体もあったまるしでいいことずくめだが、どこか無理矢理食べている感もあり、すこし釈然としない。

 

 

 そんな一週間も終わろうという土曜日。仕事はもともと半ドンであるが、夏場の休日出勤の振り替え休日の消費もできていないし、明日の日曜日も休日出勤が確定しているということもあり、振替休日にして退勤時間を待たずに職場を出ることにする。

 

 

 そうした理由は、埼玉にある知人のやっているパン屋が今日明日と創業6周年のイベントをやっているのと、毎年職場の同僚に頼まれて取り寄せているシュトーレンの代金の支払いをするのとに片道2時間弱をかけて行きたいと考えたからだ。

 

 電車に乗って本を読み始めたのだが昼食後の満腹感と車内の暖かさに意識もうろうとなり断念。ポッドキャストでラジオ「アフター6ジャンクション」の時代劇評論家春日太一氏の語る「忠臣蔵ひとり総選挙」を聴きながら舟をこぐ。

 

 店にたどり着いたが、イベントは盛況だったらしく、店にパンと名のつくものは数えるほどしか残っていなかった。その中から数品を選んで購入し、シュトーレンの代金とお祝い代わりのジャズのクリスマスアルバムを置いてくる。

 

 帰りの車内では、オンデマンドで「水曜どうでしょう」最新作「21年目のヨーロッパ21ヵ国完全制覇」をスマートフォンで視聴。今回はイギリスとアイルランドを旅している。今年予定されていたロンドンとダブリンを回る海外研修が中止となり、自動的に来年に延期となっていたのだが、最近になって親会社から来年の海外研修もすべて中止の連絡がきた。行くことのかなわなくなった寂しさをこの番組を見ることで癒している。

 

 

 乗換駅の神保町で下車。東京堂書店へ。

 

-『おすすめ文庫王国2021』(本の雑誌社

-坪内祐三「文庫本千秋楽」(本の雑誌社

-島田潤一郎「父と子の絆」(アルテスパブリッシング)

-高橋輝次「古本愛好家の読書日録」(論創社

 

 

おすすめ文庫王国2021

 

文庫本千秋楽

 

父と子の絆

 

古本愛好家の読書日録

 地元の書店では買えない本をまとめ買い。

 

 

 

 再び乗り込んだ車内では買ってきた『おすすめ文庫王国』を読む。この年末恒例のムックの顔と言えば坪内祐三「年刊文庫番」だが、氏が亡くなった今それを読むことはできない。その代わりというのかurbansea「坪内祐三と文庫」が載っている。坪内祐三によるナンシー関評を通して坪内氏のライフワークであった『週刊文春』連載の「文庫本を狙え!」を語る文章。好きな二人だけに興味深く読んだ。語る対象への愛情のある文章だと思う。

 

 その「文庫本を狙え!」の連載をまとめた最後本が「文庫本千秋楽」。ちょっとのつもりで読み始めたら止まらなくなった。本の最後には『おすすめ文庫王国』の「年刊文庫番」がまとめて収録されている。

 

 不在を埋めようとするものと実在を記録したものとを一緒に買ったことになった。

 

 駅ビルで今夜の鍋の具材を買って帰る。