Bye Bye Whitebird。


 朝5時半起床。カーテンを開けると朝から晴れている。こちらに来て一度も雨にあったことがない。気温は朝が14度くらい、日中は日が差しても24度を越えない。そこにきて空気は乾燥しているのだから快適この上ない気候となる。明日はこの地を離れて真夏の日本に戻るのかと思うとちょっとげんなりする。


 今日は仕事でここから120キロほど離れたウイスラーという町へいく。Vancouverとともに2010年の冬季オリンピックの会場となる場所だ。


 車で2時間ほど走って到着。仕事の合間に地元の人にすすめられてウイスラー山の頂上まで同僚とともにゴンドラで上がってみる。まずロープウエー型のゴンドラで20分ほど上がり、その駅から5分ほど歩いた駅へ移動し、ここから頂上へ行くリフトに乗るのだが、こちらはスキー用のものと同じ長椅子に上からバーが下りてくるだけのもの。フードもなし。これが雪のわずかに残る岩場の上を進んでいくのだが、その位置が非常に高く、高所恐怖症気味のわが身にとってはかなりハードな乗り物なのだ。まだ下にやわらかそうな雪が積み重なっていれば心安らぐのだが、そこにはむき出しの岩場があり、己の恐怖感をくすぐってくる。急に無口になった自分に気づき、当たり障りのない言葉を口にしたり、風の音に耳をすませるふうを装いながら目を閉じて高さの感覚を遮断したりしながら何とか頂上にたどり着く。


 頂上には2010年のオリンピックのシンボルとなっている人型の石像のレプリカが建っていた。


 下りは上りよりも眺めがいい。なるべく下を見ないようにして視点を遠くしてパノラマを楽しむようにしていたら思いのほか平気だった。


 夕方Vancouverに帰着。いったんホテルに戻り、休んでいると窓の外になにやら物音が。見ると海鳥が手すりに止まっているではないか。「マイナス・ゼロ」を読みながらつまんでいた“リッツ”にでも目が留まったのだろうか。後で同僚に話したら「それは日本に帰らないでと引止めに来たんですよ」と言われた。僕は明日帰国するが、同僚は残り2週間以上こちらに留まることになっているので自分の寂しさを口にしたのだろうと思う。


 8時に同僚とホテルを後にする。今夜は花火大会2日目。アメリカの花火が行われる。今日も海岸近くのヴェラズ・バーガーで夕食。すでに3回目となったこのコンビをレジ係の男の子は覚えており、名乗る前に名前を言われた。


 先日とほぼ同じ場所に座り花火を鑑賞。カナダより色使いが派手で高さとダイナミックさがあった。10時半に花火が終わると、一挙に人々がダウンタウンに向けて動き出す。上空には警察のヘリが飛び、下を歩く我々に警戒のサーチライトを照らしてくる。まるで映画「ターミネーター」でロボット軍に追われる人間軍の一員になったような気分だ。


 ホテルに帰り、「マイナス・ゼロ」を読む。全体の4分の3以上を読んだ。だいたいのカラクリは読めてきたつもりなのだが、それよりも作者が戦前の昭和の銀座を描こうとするその姿勢に好感を持つ。


 本を閉じ、明日のための荷造りをはじめる。どうやら買った本は無事スーツケースに納まりそうだ。あとは重量の問題だけだ。  


 12時就寝。