国境の南。

 朝3時過ぎに目が覚める。その後寝付かれず、4時半までベッドにいてあきらめて起きる。


 昨日買っておいたサンドイッチと牛乳で朝食。


 同僚とロビーで待ち合わせてタクシーでカナダプレイスという港にある場所に向かう。今朝8時にこの場所からアメリカのシアトルに向かうバスがでるのでそれに乗る予定なのだ。今日は日曜日で仕事は休みのため、現地のメジャーリーグ観戦ツアーに参加する。


 遅刻者などもいて8時半近くに出発。45分ほどでアメリカ国境へ。陸路で国境を越えるのは初めて。日本人観光客に慣れた係官が「こんにちは」「右」「左」などと日本語を織り交ぜてくれるので簡単に終了する。


 なんだかんだあって試合開始の午後1時ぎりぎりにシアトル・マリナーズの本拠地セイフィコ・フィールドに到着する。正面の階段を急ぎ足で駆け上がると、昼の陽光を浴びた緑の芝生の上を駆け足でマリナーズの選手たちがグランドへ散っていく姿が目に入る。もちろん、ライトの守備位置に向かうあの背中はイチローだ。本当にメジャーの試合を見に来たのだなと実感がわく。


 ようやく三塁側3階席にある自分たちのシートにたどりつき、試合を観戦。今日の先発キャッチャーは城島だ。対戦相手はクリーブランド・インディアンズ。隣に座ったメジャー通の若者の解説によると相手ピッチャーはこの間のオールスターにも選ばれた12勝をあげている好投手とのこと。マリナーズの先発はこのところ勝ち星に恵まれていないため、今日は苦戦を強いられるだろうと教えてくれる。
 その予言どおり、イチローをうちとったサウスポーは調子を上げ、マリナーズ打線は凡打を繰り返す。特にレギュラーとして使われていない城島は好機に2度も併殺打を打つなど覇気がない。球場内のショップでも城島のシャツは半額で売られていたと聞く。彼がコールされて打席に立ってもファンからの声援はほとんどない。好きな選手だけに残念だな。


 それに対し、このチーム唯一といっていいスター選手であるイチローはファンの心をつかんでいる。イチローへの声援の多さ、あちこちに51の背番号がついたTシャツを着たファンが目に付く。確かに彼の一挙手一投足には、歌舞伎役者の見得のようなあたりの目を奪う存在感があり、そこには自分を注目して欲しいという自信とスターとしての自覚があるように思えた。今日のイチローは4打席凡退ではあったが、それでも他の選手の凡打が感じさせるようなマイナスイメージとは違う何か哲学的な思索の後を思わせるような意味の厚みがあった。


 海が近いこの球場には海鳥が数多く飛来し、港へのコンテナを運ぶ貨物列車が地元チームの戦いを鼓舞するように長い警笛を鳴らしながら外野スタンドのすぐ後ろを走っていく。そんな雰囲気も楽しい。


 残念ながら今季のマリナーズの低迷は、6−2というワンサイドゲームの結果だけではなく、空きの目立つ外野席などにも現れていた。昼食代わりにスタンドで食べたホットドックの生ぬるさ同様、もう少し熱くピリッとしたところをマリナーズには見せて欲しいものだな。
 バスが迎えに来る時間の15分前にあつらえたように試合終了。ネクストバッターズサークルで順番を待っていたイチローの姿に後ろ髪を引かれつつセイフィコ・フィールドを後にする。


 夜8時半過ぎにVancouverに戻ってくる。同僚とRobson.st.に戻り、「Ebisu」という日本料理の店に入り、サーモンの巻き寿司、牛肉のリブ炒め、明太子焼きうどんなどを食べる。どれもいい味を出していておいしい。満足してホテルに戻る。


 行き帰りのバスでもずうっと寝ていたのだが、日本での寝不足と時差ぼけですぐに眠くなり、11時半に就寝。