道真と古本屋。

ゆっくりと起きる。
寝床で坂崎重盛「『秘めごと』礼賛」読了。
桂文楽「星野屋」を聴きながら風呂に入る。先日読んだ中野翠「今夜も落語で眠りたい」でこの噺が取り上げられていたのと、坂崎本によく出てくる妾宅を舞台としているのでこれを選ぶ。
噺が終わった後にアナウンサーによる文楽師匠へのインタビューが入っていて、「しばらく『星野屋』をやりませんでしたね。」という質問に答えるはずが、大好きな煙草入れの話を始めてしまい、結局答えないうちに「今日はこの辺で」と自分で勝手に終わってしまう黒門町がお茶目。

午後は、ある本を探して部屋の積読本の山をあちらこちらとひっくり返す。悪戦苦闘の末、どうにか発見に成功する。怪我の功名というのか、行き掛けの駄賃というのか、どこにあるのか気になっていた本も数冊見つける。小林信彦「東京のロビンソン・クルーソー」(晶文社)、戸板康二演芸画報・人物誌」(青蛙房)、藤沢桓夫「大阪の人」(光風社書店)、栃折久美子森有正先生のこと」(筑摩書房)など。

2時から文化放送大野勢太郎の日曜昼型ラジオ」を聴く。大野氏が菅原道真の話題から強引に古本屋にもっていくその力技に笑ってしまった。向井さんが登場。ちょっと緊張している感じ。古本屋になった顛末や本を出版するに至った流れなどについて語っていた。大野氏はさすがプロという捌きを見せ、さりげなく向井さんの話に着地点を示すコメントを入れる。「最近よかった本は?」という質問に向井さんは「岡崎武志さんの「気まぐれ古書店紀行」です」と答えていた。それから、先週の放送で花田さん(『WiLL』編集長)が薦めていた「早稲田古本屋日録」が手に入りにくいという問い合わせが来ていることに触れた大野氏が「いい本だからもっと刷って」とプッシュしていた。いい人じゃないですか。向井さんの口癖が「要は…」であることに気付いた。

夜は、友人に送る本を探したり、WBCを観たり。イチローは晩年の己の身の処し方を考えているように見えた。

隣の部屋で果物を扱った文章のアンソロジーである俵万智(編)「くだものだもの」(福武文庫)を見つけたので、収録されている武田百合子枇杷」を読む。夫の泰淳氏が手首に汁を滴らせながら枇杷を食べる姿を描写する文章にうっすらと官能の香りが立ちのぼる。そして、最後の一文《夫が二個食べ終わるまでの間に、私は八個食べたのをおぼえています。》を読むと、そのおおらかなユーモアに思わず口元がゆるんでしまう。
向井さんといい、百合子さんといい、別に文章を書くためにトレーニングを積んだわけではない2人が、生き生きとしたすばらしい文章を書けるということに改めて驚く。身近に多くの本があったり、家族に作家がいたりしたという環境があったとはいえ、それを血肉化していく感性のすばらしさを感じずにはいられない。

その後、「書痴斎藤昌三書物展望社」を少し読んだ。

今日のピアノトリオ。

プリーズ・リクエスト(紙ジャケット仕様)

プリーズ・リクエスト(紙ジャケット仕様)

どちらも超有名盤。
ピーターソンは、“それゆけ、ソレソレ”でスタンダードを弾きまくり、ガーランドは得意のピロピロ、ポンポンを気持ちよく連発する。
天気のよい日曜にちょっとした祝祭気分を与えてくれる2枚。