デザートだけのコース。

3時過ぎに仕事が終わる。
電車に乗って神保町へ。地下鉄から地上へ出ようとすると、階段を下りてくる坪内祐三さんとすれ違う。すずらん通りに出ると、マスクをしている小遊三師匠らしき人物ともすれ違った。
書肆アクセスの店頭に立つ。
ワゴンの中にフリーペーパーの『早稲田文学』があるのを発見。初めて見たが、思ったより大きい。B4サイズか。VOL.1と2をもらってから店内に。
今日の目的である2冊を購入。

「散歩もの」をやっと手に入れた。うれしい。畠中さんとちょっとお話しする。向井さんの「早稲田古本屋日録」がすべて売れてしまって在庫がないとのこと。
その後、東京堂岩波ブックセンターを見るが、数冊ずつ平積みされていたので、こちらではまだ入手可能。
岩波ブックセンターで。

  • 『みすず』3月号

どうも、『みすず』はここで買うという条件反射に近いものが自分の中に感じられる。レジにあった『図書』3月号をもらう。PR誌を買ってPR誌をもらうというのは、何だか人質になっている双子の片方と交換するためにもう一方を差し出すような変な気分。
日本特価書籍で1冊。

新潮文庫版を持っているのだが、“完本”と言われれば買わずにいられない。「まえがき」を読むと、単行本刊行後のそれぞれの芸人の近況を附記、追記として書き加え、新潮文庫版で外した早野凡平林家正楽、春風亭梅橋の章を復活させ単行本と同じ20人に戻したとのこと。

その後、高田馬場へ移動する。
BIGBOX古書感謝市に行くと向井さんがレジに見えた。挨拶をするとそこには『編集会議』の北條さんの姿が。誘っていただいて3人でお茶をする。向井さんのところにも「早稲田古本屋日録」はほとんどないそうだ。早々と入手して読むことができた自分は幸せだな。その他、この間芥川賞候補になった西村賢太氏や先日亡くなった久世光彦さんの話などをする。
向井さんに取り置きをお願いしていた斎藤昌三「少雨荘書物随筆」(国書刊行会)を入手。帯つき美本を定価より4000円安く買えるとは。まあ、こんな機会でもなければなかなか手が出ない値段ですけどね。“分不相応”という言葉が頭をよぎるが、買うだけで“気持ちはカーニバル”という本もあるのです。
その他に。

古書現世の本だったので、向井さんがおまけしてくれる。400円。

帰りの車中で坂崎重盛「『秘めごと』礼賛」を読む。東横線が人身事故で遅れ気味だったため、一気に5分の4ほどすすむ。谷崎潤一郎永井荷風江戸川乱歩の章はさもあらんという感じだったが、依田学海の章でぐっと惹き込まれる。その日記に「学海日録」があることは知っていたが、妾宅でのことを記した漢文日記「墨水別墅雑録」のあることを初めて知る。また『月刊Asahi』1993年1・2月合併号で山口昌男氏と谷沢永一氏によるこの学海日記に関する座談会が行われたことも記してあって、これも興味をそそる読み物だ。
その他には、武田泰淳・百合子夫妻の相聞を描いた章も印象深い。百合子さんが夫を回想した「枇杷」という短文と泰淳氏が出会った頃の妻をモデルとした小説「物食う女」を読みたくなる。それにしても、武田百合子さんというのはなんと魅力的な人だろうか。

帰宅後、「散歩もの」を読む。全8話があっという間にするするっと過ぎていってしまう。まるで、最高のフルコース・ディナーを食べさせてくれるレストランに行って、最高のデザートだけ食べさせてもらった感じ。もっと、お腹にガツンとくるだけ食べたいのに、ごく僅かな量しか与えられない寂しさ。量は少ないのに後味は濃厚なその旨味の感触だけが舌に残り、胃袋は空腹を叫んでいるようだ。もっと、読みたい。くやしいから、こんどちょうどよい春の日を選んで、東京の街のどこかに散歩に出かけてやる、と思う。

今日のピアノトリオ。

ジャズ・ジャイアント

ジャズ・ジャイアント

ジョー・ジョーンズ・トリオ

ジョー・ジョーンズ・トリオ

寺島本からビッグネームの2枚を。
パウエルの弾く「パリの4月」を聴く。この後、パリで過ごす後半生を思い、複雑な気持ちをスパイスにして。
ジョー・ジョーンズのアルバムは古そうだが、1959年録音で、ピアノがレイ・ブライアントと結構新しい。パタパタいう彼のドラミングが楽しい。