絵の中で散歩。

 ゴールデンウィークであるが、いつも通りにほぼ仕事である。ただ、4月29日だけは休みが取れることが分かっていたので、28日の仕事を終えてから仙台へ向かった。本のイベント“BOOK! BOOK! SENDAI!”が10周年を迎え、そのイベントが28日に行われるためそれに合わせて知人たちが集まるということを聞き、久しぶりに杜の都に行ってみたくなった。

 GWの始まりとも言える日であるため、東京駅に着いてからチケットを買うのでは席を確保できるかが心配だったので、初めてモバイルSuicaでチケットを購入する。とは言っても紙の特急券が発券されるわけではなく、列車名と号車・座席名の入ったメールがくるだけなので、座席に着いてもなんとなく落ち着かない。すると「すいません、席をお間違えではないですか?」と言われて「やっぱり」と思いながらも、メールを見ながら「18のDなのですが」と言いつつ壁の表示を見たら「8D」と書いてあり、慌てて席を移る。


 車中は呉座勇一「陰謀の日本中世史」(角川新書)を読む。ベストセラー「応仁の乱」(中公新書)の著者の本なので興味があった。天邪鬼なのでベストセラーには手を出さず、こちらを選んでみた。「アンナチュラル」関係でNHK大河ドラマ平清盛」のDVDを買ったので(崇徳帝と平重盛が監察医とその助手なのだ)、保元の乱平治の乱から始まるこの本は観る前のちょうどいいサブテキストになるだろうという思いもあった。
 

陰謀の日本中世史 (角川新書)


 夕方に仙台駅に到着。地下鉄南北線広瀬通駅まで行き、駅前にある“ドーミーイン仙台広瀬通”にチェックイン。荷物を置いて待ち合わせ場所の三越ライオン前へ。そこから国分町焼肉屋へ移動する。店頭の“しあわせの焼肉”という看板が期待を高めてくれる。地下にある店内は焼肉屋というよりも洒落たライブハウスのような印象。あとで聞いたら元はBARだったらしい。1人1480円でワンドリンク付きというコースは値段を上回る量と質で満足満足。その後、場所を沖縄料理店へ移して二次会が始まる。店名の“島唄”の通り歌のうまいおじさんが店主で、三線(さんしん)を弾きながら沖縄の歌をいくつか唄ってくれる。とても味のある歌声と演奏に聴き惚れる。北の都・仙台で波照間島出身のおじさんの唄を聴いている不思議な時間を堪能する。
 寝不足気味なので、途中で山上憶良のように宴を罷ることにする。ホテルまでブラブラと歩いて帰る。杜の都の名の通り街の中心部にも樹々が生い茂っており、とても気持ちがいい。来るたびにいい街だなあと思う。4月から始まった新しい屋内仕事では毎年3月に仙台でイベントをやることになっているため、この街にくる機会も増えそうである。



 翌朝は、10時に仙台駅前集合だったので、7時過ぎまで寝ている。ドーミーインはビジネスホテルなのだが2階に大浴場があるので、朝風呂に入ってからチェックアウト。立ち食い蕎麦の“神田”がおいしいと聞いていたのでそこで朝食をと思っていたのだが、僕が行った店舗はまだシャッターが閉まっていたため、近くにあったモスバーガーに入る。モスは好きなハンバーガーショップなのだが、地元の街にはないのでよその街に行った時でないと食べる機会がない。最近ニュースで経営的に苦しいというようなことを聞いたのでモス贔屓としてはやはり寄っておきたい。期間限定商品のチーズの入った照り焼きバーガーを食べながら、待ち合わせの時間までのんびりする。朝から気持ちのいい晴天で店内も明るい。スマートフォンで職場のクラウドサービスをチェックする。自分が責任者をしているグループの構成員だけが見られるクラウド上のグループに毎日連絡事項をアップするようにと指示されているため休日を除く平常勤務の日はここ1年ほど毎日連絡事項を更新している。このグループにはなぜか「いいね」ボタンが存在し、記事を読んだらボタンを押すことになっている。しかし、連絡事項を書くことは義務付けられているが、グループ構成員たちがそれを読むことは義務付けられていないというヘンテコなシステムのため、数十人いるメンバーの全員が「いいね」を押してくれたことはまだ一度もない。書かされているのに読まれないのは癪なので、連絡事項以外のここでしか読めないコンテンツを入れてやろうと考えて、毎日600字から800字程度のコラムを書くようになった。それの効果か約半数のメンバーが「いいね」を押してくれるようになった。ただ不思議なのは、書いている僕には言わないのに他のグループリーダーの方に「いいね」は押していないが「連絡事項」を読んでいると話しているメンバーがいることである。読んでいるなら「いいね」(これはあくまで価値判断のボタンではなく読んだことを表す確認ボタンであることは共有されている)を押してくれればいいのにと思う。先日は、グループメンバーの1人から「実は、『連絡事項』の隠れファンです」と告白された。いや、あなたたちが見るためのコンテンツなのになぜ「隠れ」なければならないんだよ、まるで江戸時代のご禁制のキリスト教じゃないかと変な気持ちになった。先日書いた「連絡事項」はなんとか二桁を維持していた。


 10時に知人たちと集合し、東西線宮城県美術館へ向かう。かの洲之内徹コレクションを有する場所である。国際センター駅で下車し、宮城県美術館に向かう。背が低く横に広い建物は空間的な余裕を感じさせ、明るい陽光の中で心地よく見える。混む前に館内のカフェで一休み。連休ではあるが、それほど人が多くなく、広い敷地で子供たちが気持ちよく動き回っているのを見ながらシナモンロールとミルクティーを楽しむ。それから、特別展の“絵本のひきだし 林明子原画展”をみんなで見る。絵本にはまったくの素人なので、恥ずかしながら林明子という名前になんの心当たりもなかった。同行の知人たちは「あの林明子」というスタンスなので、こちらは大人しく「勉強させてもらいます」という気持ちで展示を眺める。彼女の物語絵本デビュー作である「はじめてのおつかい」の原画を見て、心惹かれるものを感じる。昭和40年代の生活が画面一杯に描かれており、俯瞰の街の絵のあちらこちらに小さな仕掛けがされている遊び心や、はじめてのお使いに行く小さな女の子の動きの見事さに目を奪われた。店先に赤電話、店の横には青電話という自分がちょうど小学生くらいの時の生活空間がそこにあり、その中を一緒に散歩しているような気分になる。他の原画も色々見たが、この「はじめてのおつかい」が個人的に一番印象深かった。売店で絵本を買おうかと思ったのだが、原画を見た後に印刷の絵を見てしまうとどうしても色あせた印象を受けてしまうため、買うには至らなかった。その代わり、2013年にこの美術館で行われた“洲之内徹と現代画廊 昭和を生きた目と精神”の図録を購入した。どうやらこれが在庫最後の1冊だったらしく、僕の後に買おうとした知人が買えなかったとボヤいていた。申し訳ないが、こちらは林明子ではなく洲之内徹目当てできているのだから許してほしい。



 その後、歩いて東北大学の植物園に行く。植物園といっても青葉山という小さな山が丸々収まっているといった感じで、ちょっとしたハイキングコースである。受付の人に1周1時間くらいですと言われたが、本当に1時間あまり歩き続けることになった。夏日でもあり、木陰ではあったが、急な勾配を歩いていると汗が流れ落ちてくる。それでも、聞いたことのない植物の名前をプレートで確認しながら楽しく歩けた。



 仙台駅まで戻り、book cafe“火星の庭”に行く。ここで他のメンバーと待ち合わせ。遅めの昼食をとる。ココナッツカレーとバナココ(バナナとココナッツのドリンク)を頼む。豆がたっぷり入ったカレーは歩き疲れた空腹の胃袋を満足させてくれる。濃厚でいてさっぱりした後味のバナココも美味しい。腹を満たした後は本棚をチェック。あれこれ眺めてこれを選ぶ。


フランス文学案内―代表的作家の主要作品・文学史年表・翻訳文献等の立体的便覧


 定年後にでも時間ができたら読みたいと思っている積読本シリーズの1つに篠沢教授が書いた「篠沢フランス文学講義」(大修館書店)全5巻があって、そのサブテキストとして欲しかったもの。フランス文学の作家事典としても使える。久しぶりに来たけれど、火星の庭は前と変わらず魅力的な店だった。今度仕事で来た時にも時間を作ってぜひ寄りたい。


 その後、皆んなで新しく開店する古書店を覗いたり、民芸品を扱っている“光原社”にいったりする。光原社では、アイスクリーム用スプーン(毎日食べるヨーグルト用として)と藍染の文庫本カバーを買った。



 もう一泊する知人たちと別れて、仙台駅へ向かう。前からリーズナブルで美味しいと聞いていた駅構内にある“北辰鮨”に行く。噂に聞いていた行列も数人だったのですぐに店内に入れた。全てカウンターでの立ち食い方式。新幹線の時間を気にしながら、中とろ、中落ち、煮だこ、ヤリイカ、炙りトロ、玉子などを速攻で食べる。特に炙りトロがたまらなかった。また食べたい。


 結構歩いたし、暑かったので体力消耗気味の帰りの車内は軽く楽しく読めるものをと駅構内の本屋でこれを選ぶ。


間違う力 (角川新書)


 去年の海外出張の機内で読んだ「ワセダ三畳青春記」を思わせるような探検部の先輩たちのエピソードなどを楽しく読むうちに東京駅着。月曜から屋内仕事が始まるためまっすぐ帰宅。
 

そして探偵はいらなくなった。


 新しい屋内仕事になってこの4月から日曜日に休めるようになった。朝、ゆっくり目覚めることができる幸せ。


 目玉焼きを作り、トーストを焼く。3枚目のトーストを黒く焦がしてしまった。「この世界の片隅に」の片渕須直監督がツイッターによく載せているトーストみたいだなと思う。監督はちょっと焦げているくらいのトーストがお気に入りらしい。スライスチーズとハムをのせればトーストの色も気にはならない。


 食後に朝風呂。湯船で、TBSラジオ荻上チキ session22」から片渕須直監督がゲストの“追悼 高畑勲監督、日本のアニメーションに残した偉大な足跡をたどる”を聞く。

 高畑作品は、「おもひでぽろぽろ」、「平成狸合戦ぽんぽこ」、「ホーホケキョとなりの山田くん」、「かぐや姫の物語」を劇場で観ている。片渕監督が言っているように、高畑監督は一作ごとに手法を変えて新しいことにチャレンジするため、同じ監督作品かと思うほど映像の印象が違う。その違いの一端が、高畑監督自体は絵を描かず、演出に徹しているためでもあることをラジオで知った。話題にあがっているTVアニメーション赤毛のアン」、「アルプスの少女ハイジ」、「母をたずねて三千里」は知ってはいるがほとんどちゃんと観ていない。「じゃりン子チエ」はけっこう観ていたので懐かしい。思わず“hulu”で第1話だけ観てしまう。やはり、中山千夏のチエと西川のりおのテツが素晴らしい。


 時間があるので、昨晩観た三谷幸喜脚本、野村萬斎大泉洋出演の「黒井戸殺し」の反響についてツイッターでチェックする。思った以上に原作を忠実に再現(それは犯人が誰かを多くの人が知っている状態を意味する)しながら、しっかりと見応えのあるドラマとして成立させていた質の高さに感服し、異形のポワロ(勝呂)を成立させた萬斎マジックと現実から突出してしまいそうな勝呂のキャラクターの足を地面にしっかりとつなぎとめるような大泉洋の受けの芝居の見事さに見入ってしまった。原作であるアガサ・クリスティーアクロイド殺し」は中学生の時に読んだ。読む前に「トリック大全集」的な本を読んでしまったために「アクロイド殺し」の犯人が誰かを知っていた。その時も犯人を知らずに読みたかったと思ったが、このドラマも犯人を知らずに観て最後にあっと言ってみたかったと思う。まあ、知っていても充分楽しめたからいいんだけどね。あまり、「ネタバレ」をうるさく言い募る風潮は好きではないけれども、犯人を知って読むのでは探偵はただの狂言回しになってしまいかねないから、ミステリーに関しては注意深くありたいと思う。ついでに言えば、同じく中学生の時に「オリエント急行殺人事件」を読んだ時にも事前に犯人を知っていた。たぶん、今回と同じ気持ちになるだろうが、未見の三谷幸喜野村萬斎コンビのドラマ「オリエント急行殺人事件」を観てみたい。



 その後、持ち帰りの仕事を少ししてから、月に一度の職場で使う布巾のアイロンがけ。ジャズのアナログレコードを掛けながら坦々と30枚近くのシワシワ布巾をアイロンで伸ばして畳む。BGMのレコードは最近到着したデアゴスティーニの「JAZZ LP RECORD COLLECTION」の2枚。

  • THE GIL EVANS ORCHESTRA「OUT OF THE COOL」(impulse)
  • MILES DAVIS「MILESTONES」(COLUMBIA)


Out of the Cool (Reis) (Rstr) (Dig)
マイルストーンズ+3

 このデアゴスティーニのレコードは180gの重量盤なのはいいのだが、ジャケットの紙質が薄くてペラペラなのがちょっと残念。もう少ししっかりした厚みのあるジャケットだったらもっといいのだが。アナログレコードはジャケット込みで音楽なのだと思う。不思議とCDではそんな気にはならない。



 

転倒虫の讃歌。

 休みが取れたので、8時過ぎの新幹線に乗って京都へ向かう。


 車中の読書は、ジョルジュ・シムノン「モンマルトルのメグレ」(河出文庫)。トラブルを抱えて警察に来た水商売の女、冷たい雨の気配が漂う警察署内、前言を翻して出て行く女、そして彼女が絞殺されたという連絡がメグレに入る。物語はモンマルトルを舞台に進んで行く。雰囲気のある小説だ。何気ない細部の描写に味わいがある。20年以上前、ドガの墓を探してモンマルトルの墓地をあちらこちら歩き回ったことを思い出した。



 10時過ぎに京都着。いつもの出町柳のレンタル自転車屋で自転車を借り、桜が散り切ろうとする鴨川沿いを走る。夕方から雨の予報の京都であるが、まだ陽射しもあって明るい春の装いである。気温は初夏と言っていい。和装の花嫁衣装の新婦と紋付袴の新郎が桜のまだ残る鴨川を背景に写真を撮っている。しばらく走ると今度はウエディングドレスとタキシードのカップルも撮影していた。今日は大安か。


 まだ、朝の遅い古本屋は開いてないだろうから新刊書店から攻める。まずは誠光社から。

  • オオヤミノル「珈琲の建設」(誠光社)
  • 「かもがわご近所マップ」


 「珈琲の建設」はこの誠光社で出している本。本文が落ち着いた紫色で印刷されている。「かもがわご近所マップ」はミシマ社・誠光社・100000tアローントコが合同で出しているマップ。



 鴨川沿いをまた走り平安神宮方面へ。川風が吹いており、桜の花びらが舞い散って体に降りかかってくる。神宮前の蔦屋書店に入る。

  • 「小辞譚」(猿江商會)

 帯に“辞書をめぐる10の掌編小説”とある。作者は、文月悠光・澤西祐典・小林恭二・中川大地・三遊亭白鳥藤谷文子木村衣有子・加藤ジャンプ・小林紀晴藤谷治の10人。


 会計を済ませてトイレに入り、鏡の前に立つと頭に桜の花びらではなく、花びらが取れてしまったザクが1つのっていた。この頭で店内をうろうろしていたのかと思うとちょっと恥ずかしい。



 白川通に出てホホホ座に向かう。確か左側にコンビニがある所を右だったよなと記憶を頼りに進んで行くと、コンビニはないが見覚えのある路地が右側に見えたので入ってみるとそこにあった。前に見た記憶のあるコンビニは潰れてしまったのだろうか。

  • 「『高橋真帆書店』という古書店」(龜鳴屋)
  • 『ほんまに』19号

 金沢の限定本出版社龜鳴屋の本は通常直接版元への注文という通販なのだが、珍しく店頭で売っていたので購入。箱入りの小さな本で、函題紙と表紙は活版印刷で、本文は未綴じという凝った造本。




 銀閣寺前を過ぎて一乗寺方面へ。すぐ右には善行堂があるのだが、最後にゆっくりよりたいためにここはスルーして恵文社一乗寺店に向かう。途中空腹を覚えたので、白川通にある“天下一品”総本店に入ろうかと思ったが列ができていたので、諦める。


 自転車は原則、車道を左側通行で通らなければならないが、路上駐車をしている車両も多い。それを避けて車道中央に出てしまうと後ろから来る車の邪魔になるだけでなく、こちらの安全にも関わることになるので、歩道と車道を行ったり来たりしながら走って行く。路上駐車の自動車を避けるため、歩道に上がろうとして、歩道の段差でタイヤが滑り(入車角度が小さかったため)、転倒する。幸いに上は長袖Tシャツ、下は寒くなった時を考えて中にヒートテックのタイツ着用という二重防備であったため、着いた肘・膝とも擦過傷程度ですんだ。自分の運転技術を過信することなく、安全運転で行こうと肝に命じてまた自転車にまたがる。


 恵文社一乗寺店は相変わらずの賑わいであった。店舗の左側の建物も恵文社のものになっており、来る度に大きくなっている気がする。たまに会う従兄弟の子供を見るような感じ。


 サイン本。さすが地元京都の書店だなと思うようにサイン本がいくつか並んでいた中から、まだ持っていないこの本を選んだ。



 善行堂へ行く前に腹ごしらえと恵文社一乗寺店の近くにある“つばめ”というカフェレストランに入る。入った瞬間に自分が場違いな人間であると認識したが、出て行くわけにもいかないし、腹も減っている。厨房には女性2人。客もテーブル席の女性2人連れとカウンターでPCに向かっている女性ひとりと全てが女性で占められている。チキンカツ定食とアイスコーヒーを頼む。定食もやはり女性客を意識してかご飯の量も少なめ。炭水化物をあまり取らないようにしている身としてはちょうどいいかも知れない。味はどれも美味しかった。



 最初に恵文社一乗寺店に来た頃は、この商店街もちょっと寂れた雰囲気で、通りを歩いている人よりも、恵文社の中にいる人の方が多いくらいだったが、今は並びに恵文社一乗寺店のテイストに近い感じの店が増えて来ていて、この本屋の存在がこの街に何らかの影響を与えているのだろうなと思っていたら、ラーメン二郎のような別のテイストの店もできていた。どちらにしろ、街が活気づくのは喜ばしいことだ。
 


 さっき来た道を引き返し、善行堂へ。いつも予告なしの登場となるので、いつも善行さんには驚かれる。前もって行く旨を連絡しておけばいいのだが、急な仕事で行けなくなる可能性を考えるとそれも憚られ、どうしても突然の来訪となってしまうのだ。
 善行堂にアナログプレーヤーが入ってから初めてということもあり、色々とジャズのアナログレコードをかけてくれる。いつもの如く、アレコレとおしゃべり。これが楽しいのですよ。


 持っていなかった曾根先生の本を手に入れることができた。僕が曾根先生の教え子であることを知っている善行さんが「これ持ってますか」と教えてくれたもの。
 「柴田宵曲文集」は倒産してしまった小澤書店が出していたもの。古書で1冊ずつ気長に集めている。第七巻は「漱石覚え書」などが入っている。中公文庫版も持っているが、小澤書店の端正な佇まいと丹精を凝らした作りの本で読んでみたい。小澤書店の本には精興社の文字がよく似合う。
 後の2冊も古本と古本屋好きにとってうれしく、楽しい本。

 その他、村上春樹が巻頭エッセイを書いている『BOOKMARK』、善行さんがジャズの本についての連載をしている『WAY OUT WEST』などのフリーペーパーを貰う。


 自転車を返して、電車で京都市役所前へ行き、雨がぱらつき始めたので、三月書房とレコード屋を足早に流す。

 100000tアローントコで1枚。


Four


 ワークショップレコードで2枚。

The Best Of Max Roach And Clifford Brown In Concert クリフォード・ブラウン/マックス・ローチ・イン・コンサート [12
ダーク・ビューティーDark Beauty


 6時過ぎの新幹線で帰る。帰りも「モンマルトルのメグレ」を読む。最後に犯人と思われる人物が死んで終わるのだが、その人物がどのように犯行を行ったのか、そしてその動機も明確にされないまま幕を閉じる。これが謎解き重視の本格派推理小説であれば、「おい、なんだよ」ということになるが、メグレの世界ではそれでいいのだろう。一言でいえば「大人の小説だな」というところか。アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」や「オリエント急行殺人事件」を貪り読んだ中高生時代の自分が読んだらこの小説の面白さはきっと分かんなかっただろうな。この年になって読むからまた面白いのだろう。人生や自転車で何度も転倒してきた甲斐があるというものだ。


 

April in Paris。


 数日前に夜遅く帰宅するとポストに封書が入っていた。

 封筒にはマンションの自分の部屋のちょうど真下に当たる部屋番号とその部屋の住人の名前が書かれている。嫌な予感がして、部屋に入って封筒の中にあった文書を早速読んでみると、その予感は当たっていた。「最近、深夜2時過ぎまで騒音が続き、安眠することができない。どうもその騒音の元はあなたの部屋ではないかと思われるので何とかして欲しい。」という内容であった。普段、夜12時就寝・朝5時起床という生活を続けているため、その騒音がこちらの生活音であるとは考えにくい。音楽を大きな音で聴くことも、洗濯・入浴も夜10時以降にはしないように心掛けている。就寝時にはエアコンを切り、稼働しているのは音の静かな空気清浄機だけという状態である。その旨を文書に記して、封筒に入れ、その部屋番号のポストに入れた。

 ただ、仕事などのストレスから夜中に寝ながら暴れたり、叫んだりしていないかどうかは一人暮らしの人間にはわからないので、スマートフォンのボイスメモをオンにしてその晩寝てみた。5時間にわたるボイスメモには己のイビキが録音されているだけだった。思ったより大きなイビキを自分がかいていることにちょっと衝撃を受けたが、階下の住人が眠れなくなるほどの音量とも思えない。それにしても、おっさんが自分の寝息を1人部屋で聴いているなんていうのは滑稽な光景だなと思わず苦笑い。

 翌日、帰宅するとまたポストに同じ封筒が入っていた。なんだか、文通でもしているみたいな感じになっている。内容は、「昨夜はあなたが帰宅する前の午後6時ごろから騒音がしており、音の発生源があなたの部屋ではないことがわかった。誤解をして申し訳ない。」というものであり、ホッとする。


 その後、ポストに封書が入ることなく、4月を迎えた。3月末日の昨日、一年携わった屋内仕事を終えたのだが、今日は新しい担当者との引き継ぎのため休日出勤する。部外者の立場に立って現場を見ているといかに自分が場違いな存在であったか、いかに自分が無力であったかを思い知らされる。残された者には申し訳ないが、これでよかったのだと思うしかない。明日からは、新しい屋内仕事の現場が待っている。今度はそれを専門とする同僚がいてこちらはその補助的な立場であるため、これまでよりは辛い状況にはならないとは思うが、見方を変えれば「いてもいなくてもいい存在」とも言えるわけで、30年近く関わってきたこの方面の仕事における己の存在価値のなさに何やら立ちすくむような感じ。


 引き継ぎは昼で終わった。職場の桜ももうあらかた散ってしまった。花見の代わりに「神保町さくらみちフェスティバル 春の古本まつり」に行くことにする。


 神保町までの車内ではこの本を読む。


本好き女子のお悩み相談室 (ちくま文庫)


 この本は、北海道から沖縄までの10代から40代の35組・39人の本好き女子の悩みの解決に役立ちそうな本をそれぞれ3冊著書が挙げて答えるという体裁で作られている。「はじめに」と「おわりに」にも書かれていることだが、ここに登場する本好きの女性は各地で行われている“一箱古本市”と呼ばれる形式の古本イベントに関わった女性たちであり、形は違えど、“ミスター一箱古本市”の南陀楼さんが以前に書いた「一箱古本市の歩きかた」(光文社新書)に連なる作品であることが読むとわかる。前著が主に場所や主催者の側から“一箱古本市”を描いたものだとすると、この本はそこに参加した個人(女性)の側から描いたものと言える。どういう経歴や嗜好を持った女性たちがこのイベントを支え、そして楽しんでいるのかを群像劇として見せながら、ブックガイドとしても使えるものにしているのが面白い。


一箱古本市の歩きかた (光文社新書)



 神保町で下車し、まずは東京堂で欲しかった新刊を購入。


曇天記
そして夜は甦る (ハヤカワ文庫 JA (501))



 「曇天記」を手に取り、開き、そこに並んだ文字に目を走らせる。いつもの“精興社文字”かと思ったが今回は違った。同じような細身でありながら少しクセがある文字で組まれている。雑誌『東京人』連載のエッセイ100回分が収録されている。同じ著者の「坂を見あげて」の次に読む枕本とすることに決定。

 「そして夜は甦る」は私立探偵・沢崎シリーズの第1作。先日、14年ぶりのシリーズ最新作「それまでの明日」(早川書房)を読んだ。これまで読んだことのないシリーズだったので、いつもなら最新作を取っておいてシリーズを順番に読み進め、それまでの流れを踏まえてから最後に読むのだが(北村薫太宰治の辞書」の時はそうした)、今回は遅れてきた者の特権として最新作を読んでから過去の作品に遡って読み進めることにした。「それまでの明日」は過去の作品を読んでみたくなる面白い小説だった。事件が解決した後に起こるラストシーンには心震えるものがあった。


それまでの明日


 古書店街の歩道に古本のワゴンが並んでおり、そこを流して歩く。文庫を1冊選ぶ。


 以前は、ソフトカバーや文庫で沢山出ていたこのメグレシリーズも古本でしか手に入らなくなった。



 diskunionにも寄る。

  • 「The CLIFFORD BROWN Quartet in Paris」(Prestige)
  • 「The CLIFFORD BROWN Sextet in Paris」(Prestige)
  • 「richie kamuca quartet」(MODE RECORDS)
  • STAN GETZ PLAYS」(verve)

Quartet in Paris
Sextet In Paris
Richie Kamuca Quartet
スタン・ゲッツ・プレイズ+1



 クリフォード・ブラウンの2枚は未開封。古いレコードなので安かった。「モンマルトルのメグレ」は1950年の作だが、ブラウンがこの2枚をパリで録音したのは1953年。この天才トランペッターがパリで遭遇した事件をメグレ警視が解決する物語を読んで見たいとふと思う。



 帰宅して、録画しておいた「アンナチュラル」最終回を観る。第1話から一日1話ずつ観直して今日で最後。全て本放送で観ているからこれで2巡目だ。毎回番組後半で米津玄師「Lemon」が流れると目頭が熱くなる。まるで「水戸黄門」の印籠シーンを毎回楽しみにしている年寄りみたいだなあと思いながらも、やはり反応してしまう。おっさんが1人でドラマの録画を観ながら目をウルウルさせているなんて滑稽な光景だが、いいものはいいんだから仕様が無い。
 

単行本が文庫になる間に。


  今日は午後から休日出勤の屋内仕事。寝室の障子越しに春の朝日が眩しく差し込み目覚まし時計よりも早くまぶたが開く。


 朝風呂でTBSラジオ「たまむすび」の2017年3月30日の放送を聴く。1年前にパーソナリティの赤江珠緒が産休に入る前最後の放送である。4月から彼女が復帰すると知り、聴き直してみたくなった。やはり、ピエール瀧赤江珠緒の掛合いは面白い。現在のピエール瀧と外山アナウンサーのコンビも大好きだし、やはりピエール瀧にハズレなしだなと思う。4月からも楽しみだ。

 4月の年度始めとなると色々と物事が変わって行く。「たまむすび」金曜日に出ている吉田豪ニッポン放送に移るというような噂を聞く。残念。自分自身の屋内仕事もあと一週間で終わる。一言では言い難い複雑な気持ち。うれしさと罪悪感とアレコレと。


 職場へ向かう途中に来た知人からのメールに「ローワン・アトキンソン主演の『メグレ』が面白かった」とあり我が意を得た思い。昨年、日本版のDVD発売を知り、すぐに購入して観た。あの「シャーロック」の英国BBC制作ドラマなのでクオリティは間違いなかろうと思っていたが、その通りだった。最初はコメディアン・アトキンソンがシリアスな演技をしていることと、フランスのパリで英語を話すメグレたちが動き回っていることに少し違和感を抱いたが、そのうち気にならなくなった。「シャーロック」のようなケレン味(これも大好きであるが)や本格的謎解きの醍醐味はないが、しっとりと落ち着いた警察ものの人間ドラマとして楽しめた。シーズンが2話しかないのが残念だったが、今日調べてみるとシーズン2として2話が制作・放映されたようで、日本でもこの4月にCSのAXNミステリーチャンネルで放送されるらしい。「アンナチュラル」ロスのこの気持ちを埋めるためにもなんとかして観てみたいものだと思う。


MAIGRET/メグレ DVD-BOX



 夕方、屋内仕事を終えて退勤。本屋へ。給料が入ったばかりなので、文庫をガバリと買う。

本で床は抜けるのか (中公文庫)
思考をあらわす「基礎日本語辞典」 (角川ソフィア文庫) [ 森田 良行 ]
いろごと辞典 (角川ソフィア文庫)
現代語縮訳 特命全権大使 米欧回覧実記 (角川ソフィア文庫)
ジャズの歴史物語 (角川ソフィア文庫)




 「本で床は抜けるのか」は単行本発売時に買っている。この本が出た3年前まで木造家屋の2階で20年ほど暮らしていた。その間、日々本が溜まっていき、本棚をあふれた本や雑誌が床に平積みとなり、それが仕事部屋から寝室へ、そしてダイニングキッチンへと浸食を続け、いつかその重みで階下に住む大家さん一家を押しつぶしてしまうのではないかという危惧を抱きながら生活していたことを思い出す。人殺しになる前にと今のマンションを買い、ダンボール数十箱分の本を古本屋に売り、スリムになった上で、ひと部屋を潰して書庫を作って生活空間に本が浸食しないようにと配慮して新生活を始めたのだが、単行本が文庫になる間に書庫の床には本が平積み、リビングの床の一部や寝室の枕元にも本は列をなし、この本を二度買うくらいに床を心配する状態となっている。さあ、どうしますか。


 それにしても最近の角川ソフィア文庫は頑張っているなと思う。「いろごと辞典」なんてよく文庫にしたものだ。「性」に関する言葉の辞典なので、眉をひそめる人もいるかもしれないが、言葉のバリエーションを楽しんだり、見立の技法を感心したり、豊かな本である。「鴨の腹」「甘露水」「恋相撲」「騒水」など直接書くのをちょっとはばかる言葉がこのように形を変えれば気軽に使える。まあ、どこで使うのかという問題はあるけれども。

檸檬と満月。

 昨日は、有給を取っていたのだが、一昨日トラブルがあった関係で、職場へ行くことに。トラブルの処理は終わったのだが、昼に人事発表があると聞いたので、それまで残っている。屋内仕事は継続となったが、仕事の種類は変更となった。これで日曜の出勤はずいぶんと減ることになりそうだ。僕が抜ける今の屋内仕事は担当者が増員になった。これで残る同僚も少しは楽になるのではないかな。



 次年度からのあれこれを頭であれこれしながら、職場を出る。せっかくの有給(すでに退勤時間過ぎまで職場にいたのだが)なので、自宅に帰らず神保町まで足をのばす。


 道中の車内は岡崎武志「人と会う力」(新講社)を読む。いつも通りの読みやすい文章と大きめの文字でおじさんでもスルスルと読み進められる。パート1は岡崎さんの“人との出会い”をベースとした昔語り。パート2と3は映画・文学・音楽から面白い出会いのエピソードを選んで、語る。ここが古本ライターで書評家の著者の主戦場だ。読んでいてやはり楽しい。最後のパート4は日記形式で日々の出会いを描く。ビジネス書か自己啓発本のような題名を持ちながら、カバーに描かれた著者による人物イラストが軽やかにその誤解から身をかわしている。



人と会う力



 すでに2時をはるかに過ぎ、空腹は頂点に達しようとしている。ガッツリとトンカツでも食べたいと思って、ふと思い出した。“とんかつ いもや”が3月いっぱいで閉店するはずだ。それなら最後に行ってみようと神保町交差点を水道橋方面に歩いて行く。するとまず“天丼 いもや”が見えてくる。こちらも3月閉店だそうだ。店の前には30名程度の長い列が見える。僕にとっては“いもや”はとんかつ。天丼の方は一度入ったことがあるくらいなのではないか。そのため、店の前を過ぎとんかつの方へ向かう。


 “とんかつ いもや”の前にも長い列があった。普段は行列のできる店は敬して遠ざけているのだが、もう来られないとなれば別だ。「人と会う力」を読みながら、列に並ぶ。30分ほどして店内へ。もう5年以上食べていないだろうこの店のとんかつ定食を食べる。800円。特別な所のない、いたって普通の真っ当なとんかつ。そうそうこれこれ。腹一杯になった。


 東京堂へ。地元で買えなかった本を買う。

 
幸福書房の四十年ピカピカの本屋でなくちゃ! [ 岩楯幸雄 ]
祝祭の日々: 私の映画アトランダム
史上最悪の英語政策?ウソだらけの「4技能」看板


 一度も行ったことのない代々木上原にあった街の本屋(今年2月閉店)の店主がその顛末を語ったこの本を買ってしまうのは、閉店すると聞いて“いもや”へ行ってしまうのと同じことなのだろうか。どちらにしても、閉店は金銭的な問題を内包しているだろうから、僅かでも自分が食べたり買ったりすることで金銭的な補助となればとは思う。

「祝祭の日々」は映画に関するエッセイ集だが、目次を見ても草森紳一色川武大織田作之助村上春樹荒木一郎片岡義男、田中眞澄など魅力的な人名が続々と出てくる。パラパラをめくってみると黒岩比佐子さんの名前も文中に出てくる。面白そうだ。




 帰りの車内も「人と会う力」。最寄駅に着く頃にはほぼ読了。


 歌手の米津玄師が3月10日生まれであること知る。「アンナチュラル」のエンディング近くでかかるこの人の歌う「Lemon」が好きで最近繰り返し聴いている。同じ誕生日であることを知ってなんだかうれしい気持ちになる。





 今日は、午後から屋内仕事。昼前には職場について机仕事をいくつか済ませ、屋内仕事へ。この仕事も残りひと月と思うとやはりちょっと感慨深い。職場自体は休みなので、黙祷の放送はない。黙祷だけが追悼のカタチではないとも思うので、屋内仕事が終わって、担当者の話になった時に、そのことに触れる。先週のTBSドラマ「アンナチュラル」で松重豊演じる神倉所長のセリフ「「死ぬのに、良い人も悪い人もない。
たまたま命を落とすんです。そして、私たちは、たまたま生きている。たまたま生きている私たちは、死を忌まわしいものにしてはいけないんです。」を思い出す。死者を追悼することは、自分が生きているということを確認することであり、生きている人間にしか追悼することはできない。たまたま死なずに生きているその僥倖を前向きにとらえていかなければならないと思う。



 
 自分の誕生日の翌日はこの歌を聴く日となっている。何ができる訳ではないが、ただ忘れずにいたいと思う。


何回でもカツカレー。


 今日は、職場挙げての野外イベントの日。時折みぞれの混じる小雨の降る中で行われたこのイベントに20回以上参加しているが、今日が一番寒かったのではないかと思う。


 イベント会場で出されるカツカレーで昼食を済ませ現地解散。仕事終わりが早いのがこのイベントの一番の魅力と言っていいだろう。


 帰りの車内で気が重くなることがあった。自分に責任のあることなので、それを責められるのは仕方ないのだが、もう何年も前に起こってしまったことを変えることはできないし、直接責められるのであれば、何度も謝罪するのだが、ただ遠くからその話が聞こえてくる状況ではどうしようもなく、ただ本に目を走らせていた。


 関係者のいなくなった電車に乗ってそのまま一本で行ける神保町へ出る。気分転換のためのアイテムがここにはあれこれ揃っているのだ。



 東京堂書店で本を買う。


寺島靖国 テラシマ円盤堂: 曰く因縁、音のよいJAZZ CDご紹介 (ONTOMO MOOK)
絶景本棚
臆病な詩人、街へ出る。 (立東舎)



 ジャズ喫茶「Meg」のオーナーでジャズ評論家の寺島靖国氏のムック本。アナログレコードの事にもっと触れてくれているかと思って買ったのだが、取り上げられているジャズアルバムはほとんどCDだった。それでもテラシマさんの語るジャズアルバムやオーディオ話は好きなので構わない。

 「絶景本棚」は『本の雑誌』の巻頭連載“本棚が見たい!”を書籍化したもの。本のカバー写真にも使われ、第2章不撓不屈篇に登場する根岸邸は何度もお邪魔しているので、我が事のように胸がときめく。まあ、行ったことのない家の知らない人の本棚でも胸はときめくのだけど。

 詩人の文月さんは一度古書往来座での外市の時にお見かけしたことがある。まだ大学生で中原中也賞を受賞した詩人だと教えられ、現役の詩人を初めて目の当たりにして呆けたように「ああ、詩人が目の前にいる」と思ったことを思い出す。詩人の書く散文というのは小説家や随筆家や評論家の書く散文よりもちょっと贅沢な気がするのは自分だけだろうか。



 暗い気持ちを振り払うためには、好きなものを買い、好きなものを食べるのがいいと思っている。今日昼に食べたカツカレーなどは好きなものの1つなのだが、数年前から糖質制限のようなことをやっているのでほとんど食べなくなっていた。今日食べたのも職場から配給された食券がカツカレーだったからだ。でも、やはりカツカレーは好きだと食べて再確認した。そして、今は好きなものを思い切り食べるべき時だ。そうであるならば、カツカレーを食べよう。数時間前に食べたからといって何を遠慮することがある。すでに軽く空腹を胃のあたりに感じているではないか。このすずらん通りにはあの“キッチン南海”がある。ずいぶんあの店のカツカレーを食べていない。そういえば、最近この店が閉店するという誤報がネットで流され、もうあのカツカレーが食べられなくなるのかとガッカリしたではないか。「店をやめるつもりはない」という店主の方のコメントをネットで読み、よかったまた食べられると思ったではないか。それなら何をためらうことがあるとキッチン南海の前に立つ。


 これだけ自分に言い訳したのは、流石にカツカレーのハシゴはやったことがなく、最近の糖質制限を大きく逸脱するこの行為に踏み切るために必要なプロセスだったということだろう。店に入り、カツカレーを頼む。他の客の注文もやはり7割方カツカレーだった。ちょっと気になったのは、その7割の人の5割が(何か紛らわしい言い方だな)「ご飯少なめで」と言い添えていることだ。前に来ていた時は女性で言う人はいたが、男性ではあまり聞いたことがなかった。僕と同じように糖質を気にしている人が増えたということだろうか。こちらはその制限を撤廃して来ているのでそんなことは言わない。ただ、久しぶりに見たそのライスの量の多さは記憶を凌駕していたのでそう言いたい気持ちはよくわかった。ご無沙汰していたここの真っ黒なカツカレーはやはり美味しかった。食べてよかった。しかし、夕食は抜かないと糖質だけの問題ではなく明らかに食べ過ぎだな。



 好きなものは本だけではなく、ジャズのアナログレコードもそうなので、diskunion神保町店へ。

  • エディ・コスタ「ザ・ハウス・オブ・ブルーライツ」
  • バド・パウエル「ブルース・イン・ザ・クロゼット」
  • プレスティッジ・オール・スターズ「ルーツ」


ハウス・オブ・ブルー・ライツ
ブルース・イン・ザ・クロゼット
Roots



 エディ・コスタ盤はジャケットにパンチ穴が開いているため300円で買えた。盤面の状態はAだから何の問題もない。
 パウエルは前期の神がかったものよりも、後期の良かったり悪かったりする人間臭いものの方がしっくりくる。このレコードは悪かった時期の良かったものと位置付けられている。
 「ルーツ」はオールスターのジャムセッション。A面のピアノをビル・エバンスが弾いているというのが売りらしい。B面はトミー・フラナガンがピアノ。フロントラインにあまり聴いたことのない奏者が入っているのもこの手のアルバムの面白いところ。




 帰宅して、買って来たレコードをかけながら、高田漣のCDを探す。昨日急逝した俳優の大杉漣がその名前を敬愛する歌手・高田渡の息子の名前からもらったと知り、それならギタリストとして活動している高田漣じゃないかと思ったからだ。アン・サリーの参加しているアルバムを集めていて、高田漣のアルバムに出会った。REN TAKADA「WONDERFUL WORLD」の表題曲でアン・サリー嬢が歌を歌っている。


Wonderful World


 昨晩、放送されたテレビ東京バイプレイヤーズ」は、映画界華やかかりし頃のオールスターによる正月映画のような豪華さだった。男性・女性のバイプレイヤーたちがこれでもかと出てきて、大杉漣逝去の報を聴いて観ているとまるで何かのはなむけのような印象さえ受けた。このドラマ撮影中に倒れたのだという。残り2話分が放送されるのかが気になる。