檸檬と満月。

 昨日は、有給を取っていたのだが、一昨日トラブルがあった関係で、職場へ行くことに。トラブルの処理は終わったのだが、昼に人事発表があると聞いたので、それまで残っている。屋内仕事は継続となったが、仕事の種類は変更となった。これで日曜の出勤はずいぶんと減ることになりそうだ。僕が抜ける今の屋内仕事は担当者が増員になった。これで残る同僚も少しは楽になるのではないかな。



 次年度からのあれこれを頭であれこれしながら、職場を出る。せっかくの有給(すでに退勤時間過ぎまで職場にいたのだが)なので、自宅に帰らず神保町まで足をのばす。


 道中の車内は岡崎武志「人と会う力」(新講社)を読む。いつも通りの読みやすい文章と大きめの文字でおじさんでもスルスルと読み進められる。パート1は岡崎さんの“人との出会い”をベースとした昔語り。パート2と3は映画・文学・音楽から面白い出会いのエピソードを選んで、語る。ここが古本ライターで書評家の著者の主戦場だ。読んでいてやはり楽しい。最後のパート4は日記形式で日々の出会いを描く。ビジネス書か自己啓発本のような題名を持ちながら、カバーに描かれた著者による人物イラストが軽やかにその誤解から身をかわしている。



人と会う力



 すでに2時をはるかに過ぎ、空腹は頂点に達しようとしている。ガッツリとトンカツでも食べたいと思って、ふと思い出した。“とんかつ いもや”が3月いっぱいで閉店するはずだ。それなら最後に行ってみようと神保町交差点を水道橋方面に歩いて行く。するとまず“天丼 いもや”が見えてくる。こちらも3月閉店だそうだ。店の前には30名程度の長い列が見える。僕にとっては“いもや”はとんかつ。天丼の方は一度入ったことがあるくらいなのではないか。そのため、店の前を過ぎとんかつの方へ向かう。


 “とんかつ いもや”の前にも長い列があった。普段は行列のできる店は敬して遠ざけているのだが、もう来られないとなれば別だ。「人と会う力」を読みながら、列に並ぶ。30分ほどして店内へ。もう5年以上食べていないだろうこの店のとんかつ定食を食べる。800円。特別な所のない、いたって普通の真っ当なとんかつ。そうそうこれこれ。腹一杯になった。


 東京堂へ。地元で買えなかった本を買う。

 
幸福書房の四十年ピカピカの本屋でなくちゃ! [ 岩楯幸雄 ]
祝祭の日々: 私の映画アトランダム
史上最悪の英語政策?ウソだらけの「4技能」看板


 一度も行ったことのない代々木上原にあった街の本屋(今年2月閉店)の店主がその顛末を語ったこの本を買ってしまうのは、閉店すると聞いて“いもや”へ行ってしまうのと同じことなのだろうか。どちらにしても、閉店は金銭的な問題を内包しているだろうから、僅かでも自分が食べたり買ったりすることで金銭的な補助となればとは思う。

「祝祭の日々」は映画に関するエッセイ集だが、目次を見ても草森紳一色川武大織田作之助村上春樹荒木一郎片岡義男、田中眞澄など魅力的な人名が続々と出てくる。パラパラをめくってみると黒岩比佐子さんの名前も文中に出てくる。面白そうだ。




 帰りの車内も「人と会う力」。最寄駅に着く頃にはほぼ読了。


 歌手の米津玄師が3月10日生まれであること知る。「アンナチュラル」のエンディング近くでかかるこの人の歌う「Lemon」が好きで最近繰り返し聴いている。同じ誕生日であることを知ってなんだかうれしい気持ちになる。





 今日は、午後から屋内仕事。昼前には職場について机仕事をいくつか済ませ、屋内仕事へ。この仕事も残りひと月と思うとやはりちょっと感慨深い。職場自体は休みなので、黙祷の放送はない。黙祷だけが追悼のカタチではないとも思うので、屋内仕事が終わって、担当者の話になった時に、そのことに触れる。先週のTBSドラマ「アンナチュラル」で松重豊演じる神倉所長のセリフ「「死ぬのに、良い人も悪い人もない。
たまたま命を落とすんです。そして、私たちは、たまたま生きている。たまたま生きている私たちは、死を忌まわしいものにしてはいけないんです。」を思い出す。死者を追悼することは、自分が生きているということを確認することであり、生きている人間にしか追悼することはできない。たまたま死なずに生きているその僥倖を前向きにとらえていかなければならないと思う。



 
 自分の誕生日の翌日はこの歌を聴く日となっている。何ができる訳ではないが、ただ忘れずにいたいと思う。