夏らしい、懐かしい。

 この週末は暑かった。身中に夏が入ってきたかのような感じ。


 昨日の土曜日は、屋内仕事で私鉄の海辺の駅まで行った。毎年10月に野外仕事で行っていた場所である。野外仕事をやめた今年はもう行くことはないだろうと思っていた。それが、この夏日に訪れることになろうとは分からないものである。駅から歩いて15分ほどのところにある公共施設で屋内仕事。仕事の都合で施設に冷房はない。30年近く野外仕事をしてきてそれなりに暑い思いを毎年してきたが、風の入らない蒸し暑い屋内の暑さもまた格別である。全身に纏っている衣服が、さっきまで洗濯機の中で回っていたのではないかと思うくらいぐっしょりと水分を含んでいる。もう汗なんかかき放題である。


 夕方屋内仕事終了。この海辺の私鉄駅にきた時にはやはりあの駅前の新刊書店へ寄らねばならない。あのお婆ちゃんが健在で店番をしているかを確認しなければならない。大きなボストンバッグに仕事用の道具が入ったバッグが二つという大荷物なので狭い店内に持って入るのは心苦しい。ガラス戸越しに見える場所に置いてから店内へ。レジカウンターの向こうにお婆ちゃんの姿を発見。ホッとする。この店で毎年本を買ってきた。もちろん、今日も買うつもりである。文庫の棚が店の半分を占めているので、やはりここが猟場となる。毎日地元本屋の文庫棚を眺めている者にとって目新しい本はほとんどない。そのため、発想を変えて見慣れているくらいの有名作品で未読のものを探すことにする。そこで選んだのがこれ。


張込み (新潮文庫―傑作短篇集)


 レジに持って行くとお婆ちゃんに付き添う男性(たぶん息子さんだろう)がカバーを掛けてくれる。来年は来られるだろうかと思いつつ店を出る。



 赤い私鉄に乗って職場へ戻る。車内で初めて短編「張込み」を読む。これが松本清張初の推理小説と呼ばれ、野村芳太郎監督による映画「張込み」(この映画を褒める人がたくさんいるが未見)の原作となっている短編小説である。短い作品なので横浜駅に着く前に読み終わる。冒頭の横浜駅から九州に向かう列車の旅の旅情。刑事が張込み見張る家の縁側で主婦がする編み物。刑事が応援を呼ぶ電報。事件の終わりを告げる温泉宿。そして解説が平野謙。自分や自分の親が生きてきた昭和がそこにある。今の僕にとっては昭和を読んでいるという感じだ。映画「張込み」も観てみたくなった。


 汗まみれの体をシャワーで流し、夜10時から楽しみに待っていたBBCのドラマ「SHERLOCK」シーズン4の1話をNHKBSプレミアムで観る。「六つのサッチャー」という題でまずニヤリとさせられる。シーズン1や2の頃のようなシンプルな面白さは影を潜め、なにやらグニャグニャとした捉えどころのない世界に入っているが、このシリーズのファンである者にとってはそれもまた楽しい。まだ、来週と来々週の土曜日の2度楽しめるのだがらそれで満足だ。



 今日も屋内仕事。昨日とは違う場所。なのに何故が昨日の駅の隣駅。今日も屋内仕事は暑さとの戦いのよう。汗をたくさんかいた。そして今年初めてセミの鳴き声を聞いた。


 この二日間の暑さでもうすでに夏バテ状態。昼を食べる余裕がなかったため、夜は餃子をたくさん焼いて栄養をとる。タレは以前に買って置いた茅乃舎の橙ポン酢を使う。



 今週買った本をいくつか。

深ぼり京都さんぽ
私の東京地図 (ちくま文庫)
坂本九ものがたり: 六・八・九の九 (ちくま文庫)
書店員X - 「常識」に殺されない生き方 (中公新書ラクレ)






 京都に関するイラストレポはそれこそ書店に行けば何冊も目につくが、僕はグレゴリ青山さんのものを愛読している。「ナマの京都」「しぶちん京都」「ねうちもん京都」「京都『トカイナカ』暮らし」などに続く新作が「深ぼり京都さんぽ」。グレゴリさんの本を読まなければ、京都で嬉々として「王将」で夕食を食べるようにはならなかったと思う。
 「私の東京地図」は単行本でもちろん読んだ。その単行本に東京新聞掲載の「私の東京物語」を増補して文庫化している。佐野繁次郎風の書き文字も悪くない。
 「坂本九ものがたり」には関係者として職場の先輩の名前が出てくる。僕がまだ新人だった頃に定年された方だがここで名前を目にするとはなんとも懐かしい。
 “文庫X”として覆面文庫本を売り出したことで知られる書店員さんの本。もともと清水潔「殺人犯はそこにいる」を驚きをもって読んでいたので、その興味で購入。タイガーマスクのファンではなくて、佐山サトルのファンという人と同じ心境になりますか(?)。その清水氏との対談も収録されている。この新刊から中公新書ラクレのカバーデザインが変わった。個人的には前の方が好感が持てる。