いつの間にかのバットマン。

 台風が来るようだ。夕方職場を出ると待っていたように雨が落ちてきた。


 駅ビルのストアでりんご2個と糖質0麺を3袋買ってから本屋を覗く。今日は何も買わずに帰る。雨が強くなる前に帰りたい。


 マンションのポストに注文していたCDが届いていた。

音楽と私(限定盤)(DVD付)



 この何年か原田知世の新譜を買うようになった。こちらが10代後半から20代前半の頃、角川映画が世間を席巻していた。角川映画は主演に新人の女の子を起用し、そして彼女たちに主題歌を歌わせた。それが薬師丸ひろ子であり、原田知世だった。あの頃、原田知世よりも薬師丸ひろ子の印象が強かった。口ずさんだ歌も「セーラー服と機関銃」、「WOMAN」の方で、「時をかける少女」や「ダンデライオン」はユーミンの歌として聴いていた。ざっくり言えば“薬師丸ひろ子派”だったのだ。今でも薬師丸ひろ子は嫌いではない。朝ドラの「あまちゃん」における彼女の芝居と歌に喜び、楽しんだ。しかし、彼女の新譜のCDを買っているかと言われれば、買っていない。ベスト盤は愛聴しているが、ニューアルバムは手にしていない。いつの間にか歌手としての2人の立場は僕の中で逆転している。もちろん、これまで彼女の良き聴き手であったことはないので、ここ20年くらいの彼女の歌をほとんど知らない。だが、最近のアルバムはカバーが多いのでそんなこともあまり気兼ねせずに聴くことができる。そして、今回もセルフカバーアルバムだから知っている歌が多く心置きなく聴けるというわけ。年齢を重ね、肩の力を抜いて柔らかに10代の頃の曲を歌うその歌声が心地よい。薬師丸ひろ子がそのデビュー時から合唱団の一員のように高く伸びやかに歌っていたのに対して、原田知世の歌声は弱く掠れがちに思えていた。それが、今は声を張りあげることのない余裕の歌声として結実している。そのブレなさがいい。そして薬師丸ひろ子の今も合唱団のような伸びやかに高く歌い上げる姿のブレのなさにも好感を持つ。あれから幾星霜、彼女たちが今もテレビ画面の向こうで活躍している姿を見るたび慶賀にたえないと素直に思う。すごい。結局、どちらに対してもファンだということになるのかな。旗色不鮮明でなんだか申し訳ないけど。


 今日は何も本を買っていないが、昨日買ってきた本を「音楽と私」を聴きながら手に取る。


NHKカルチャーラジオ 文学の世界 国語辞典のゆくえ (NHKシリーズ)
貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)
貴族探偵 (集英社文庫)



 飯間さんの本はNHKラジオ「文学の世界 国語辞典のゆくえ」という番組のテキストだ。表紙の辞書の絵は雑誌「coyote」などでよく本のイラストを書いている赤井稚佳さん。この人の書く本の姿が好きなのでうれしい。ラジオの放送は今週の木曜日から聞き逃してもNHKラジオのHPで聴けるようなので安心する。

 
 「貴族探偵対女探偵」は先日前作の「貴族探偵」を読み終わったので、続編を読みたくなった。この間までこれらを原作とした相葉雅紀主演「貴族探偵」をやっていたが、このドラマにも書店で平積みされていたこの原作にも興味はなかった。それが、ドラマ第9話が原作の「こうもり」を効果的にドラマに取り入れていてすごいという評判がSNSで盛り上がっているのを見、その原作の「こうもり」が傑作であるという知人の評価を知って俄然興味が湧いてきた。まず、文庫本「貴族探偵」を買ってきて、最初から読み始め3番目の「こうもり」にたどり着く。一読して何を読まされたのか一瞬わからなくなり、しばらくしてその仕掛けに気付いた時にはゾワっと体を快感が走った。よくできた推理小説を読んだ時に感じる騙される快感である。これは“推理小説”であるからこそできる力技であり、それゆえの快感、読む喜びであった。これを映像にすることはできない。満をじしてドラマ「貴族探偵」の第9話を観た。よくできたドラマだった。というより、よくできた脚本だった。原作の読者に敬意を払い、その上で原作の読者を、それゆえに気持ちよく手玉に取ってくれる作りだった。多分、原作を知らずに観たら特になんとも思わないかもしれない。原作を知っているからこそ、なぜ犯人は殺さなければならなかったのかの理由にはっとするのだから。結局、ドラマはこの9話を観ただけで終わってしまった。それで満足だ。両方楽しませてもらったから。